Episode58
美菜と瀬良は、しばらく無言でテレビを見ながらくつろいでいた。穏やかな時間が流れる中で、美菜はリラックスしている自分を感じていた。瀬良が時折髪を撫でたり、手を軽く触れるたびに、心地よい温かさが広がる。それが嬉しくて、どこか安心感を覚えた。
しかし、少しずつ、心の中で何かが変わり始める。
(……私、なんだかもっと近くにいたい気がする)
美菜はふと、思いついたように言った。
「瀬良くん、膝枕してあげる」
その言葉に、瀬良は驚いた顔をして美菜を見た。
「えっ、膝枕?」
「うん、ほら、なんだかさ、私ばっかり触られてる気がするし、ちょっとだけ、いいかなと思って」
美菜は少し照れくさそうに言いながら、そっと膝を瀬良に差し出した。少し勝ち誇ったような気持ちで、彼を見つめる。
瀬良はしばらく無言で美菜の膝を見つめ、その後、笑いながら頷いた。
「じゃあ、お願いするよ」
その瞬間、美菜は彼の頭を膝に乗せ、静かに髪を撫でながら、心の中で少しだけ得意げな気持ちを感じた。
しかし、予想外のことが起こった。
瀬良は、少しだけ手を伸ばして、美菜の太ももをそっと撫でたのだ。美菜は驚いて体を硬直させる。
「ひゃっ……!」
その甘い声が思わず漏れてしまった瞬間、瀬良はにっこりと笑った。
「どうした、美菜。ちょっとビックリした?」
美菜は顔を赤くしながらも、彼の笑顔に少しだけ安心感を覚えた。そして、次の瞬間、瀬良は膝枕から起き上がった。
「俺の勝ち、だね」
「か、勝ちとかないからっ!」
美菜は照れ隠しに少し強く言ったが、心の中で彼の優しさに温かさを感じた。
「いや、あれだけの反応が出るとは思わなかったからさ」
瀬良は楽しそうに微笑んで、再び美菜の横に座る。
「やっぱり、美菜は可愛いな」
その言葉に美菜は顔を赤くしながらも、心から嬉しく感じた。
静かな時間が再び流れ、二人はしばらく笑い合いながらリラックスした夜を過ごした。
***
その夜、テレビを消すと、二人は静かに横になった。そろそろ寝る時間だという雰囲気が漂い始める。
美菜は、ふと自分のシングルベッドを見て、少し困ったように思った。部屋にあるのはシングルベッド1つだけ。もちろん、お客様布団なんてものは用意していない。
「……やっぱり狭いね」
美菜は少しだけ苦笑いを浮かべながら、瀬良に話しかけた。
「ん、引っ付いてれば大丈夫だよ」
瀬良はそう言って、優しく美菜を抱きしめながら、布団にくるまった。
美菜はその言葉に少し驚きながらも、心臓が速くなったのを感じた。あまりにも近くにいる瀬良の温もり。まるですぐそこにいるかのように感じる彼の匂いが、鼻先に届く。
(……私、これ寝れるかな……)
美菜はそんなことを考えながら、心臓の鼓動がうるさく響くのを感じた。
「いい匂いがする」
瀬良は少し鼻をすするように言った。
「直接言わないでくださいぃぃ……」
美菜は顔を赤くしてじたばたとする。
こんなに近くで、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった美菜は、かなりの恥ずかしさが押し寄せてきた。
美菜の心臓はさらに速くなり、ドキドキと耳に響いている。すると、瀬良は軽く笑いながら言った。
「すごい……音が伝わる」
美菜は少し慌てたように「すみません……」と小さく言ったけれど、実際はその心音が伝わっているのがなんだか嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
「美菜、寝れる?」
と、瀬良が優しく聞いた。
美菜は少し迷ってから、ゆっくりと答える。
「……ぜ、善処します…」
その言葉に瀬良はにっこりと微笑み、しばらくは無理に言葉を続けず、静かな空気が流れた。その間、瀬良は美菜が少しでも落ち着けるようにと、ゆっくりと雑談を始めた。
瀬良は穏やかなペースで話し、美菜もそのリズムに合わせて話す。
「……それでその時に、」
しばらくして、彼女の呼吸が深くなり、次第に寝息が聞こえてきた。美菜は少しずつリラックスし、心の中で安心感を感じながら眠りに落ちていったようだ。
瀬良は話すのをやめて美菜に微笑みかける。
「おやすみ、美菜」
瀬良はそっと美菜の額にキスをして、2人は穏やかな眠りに包まれていった。




