Episode39
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夕方になり、そろそろ帰ろうかと美菜は立ち上がった。
「そろそろ帰るね」
「送る」
瀬良はあっさりと言う。
「えっ、でもそんなに遠くないし、大丈夫だよ」
「コンビニ行く予定だったし、ついでだ」
「……そっか」
(でも、さっき冷蔵庫に飲み物とかお菓子あったような……)
少し引っかかるものを感じつつも、美菜はそのまま瀬良と一緒に歩き出した。
帰り道、特に意識せずいろいろな話をする。
「今日のハンバーグ、ほんとにうまかった」
「そんなに? じゃあまた作ってあげるよ」
「マジか、約束な」
「うん」
自然と交わされる言葉が、心地よかった。
***
やがて、美菜の家の前に到着した。
あっという間…と感じた美菜だった。
「送ってくれてありがとう」
「別に」
「……ねえ、改めて確認なんだけど、私たち……付き合ってるんだよね?」
少し照れくさそうにそう言うと、瀬良は一瞬だけ美菜を見つめ、それから静かに頷いた。
「当たり前だろ」
そして、ふっと微笑んで、
「好きだよ、美菜」
「~~っ!!」
まっすぐに告げられた言葉が、思った以上に破壊力があった。
「わ、私も……っ」
最後まで言えずに、美菜はぱっと玄関のドアを開けた。
「お、おやすみっ!」
「おう」
顔が熱くなるのを必死に隠しながら、勢いよく家の中に駆け込む。
(も、もう、なんなのあれ……!!)
壁にもたれかかり、心臓を落ち着かせる。
(色々あったけど、今日は……幸せだったなあ)
そう思いながら、何気なくベランダに出てみる。
するとそこには道を歩く瀬良の姿が見えた。
(あ、コンビニ……)
視線の先には、帰り道にあったコンビニ。しかし、瀬良はそこに寄ることなく、すっと通り過ぎる。
(……あれ?)
言葉通り、何か買うつもりなら、ここに寄るはず。
(もしかして……コンビニに行くっていうのは……)
美菜を送るための口実だったのかもしれない。
そう思っていると、瀬良がふと足を止め、何かを感じたのか上を見上げた。
視線が合う。
すると、瀬良は少し気まずそうに笑って軽く手を振った。
(やっぱり……)
美菜は頬がゆるむのを感じながら、小さく手を振り返す。
(そういうとこも……好き)
瀬良のさりげない優しさに、心がふわりと温かくなるのだった。




