Episode3
仕事を終え、帰宅した美菜は真っ先にゲームの電源を入れた。
「さて……昨日のリベンジ、行きますか」
画面に映るのは、昨日何度も挑み、敗れた中ボス戦のステージ。
指先に力を込め、コントローラーを握る。
(昨日は動きが読めなかった……でも、今日は違う)
慎重に間合いを取りながら、敵の攻撃を見極める。タイミングを合わせ、確実に攻撃を当てていく。
【動きがスムーズになってる!】
【初日とは別人】
【これは勝てるのでは!?】
「ふふん、昨日の私とは違うのだよ!」
テンションが上がり、思わず笑みがこぼれる。
だが、敵も容赦はない。
「うわっ!?ちょ、待って!!」
避けきれず、大ダメージを受ける。画面のHPバーが一気に削られた。
【回復!回復!】
【落ち着いて!!】
【まだいける!】
「くぅぅ……負けるかぁぁ!!」
必死に回避し、攻撃のチャンスを狙う。敵の隙を突き、渾身の一撃を叩き込んだ。
そして――
「……やった!!勝ったぁぁ!!」
画面に『VICTORY』の文字が踊る。
達成感と興奮が一気に押し寄せ、思わずガッツポーズをする。
【ナイス!!】
【感動した!!】
【成長がすごい……】
【中ボス倒しただけなのにこの感動】
【まだクリアはしてないww】
【8888888】
「みんなありがとー!!めちゃくちゃ嬉しい!!」
心臓がまだ高鳴っている。
(まさか、ここまでゲームに熱中するとは思わなかったな……)
電源を落とし、ベッドに倒れ込む。
目を閉じると、ふと瀬良くんの顔が浮かんだ。
(……明日、話したらどんな顔するかな)
そんなことを考えながら、静かに眠りについた。
***
翌日。
いつも通り美容室に出勤し、手際よく準備を進める。
瀬良も黙々と道具を整えていた。
何気なく彼の横顔を盗み見る。
(……言おうか、どうしようか)
そんなことを考えていると、不意に瀬良くんが言った。
「……昨日、やったのか?」
予想していたとはいえ、見抜かれていたことに驚く。
「……まぁ、少し」
「それで?」
「……勝ちました」
瀬良は手を止め、一瞬だけこちらを見た。
そして、わずかに口元を緩める。
「そうか」
それだけ言い、また仕事に戻る。
(……え、それだけ?もうちょっと何かないの!?)
拍子抜けしつつも、その小さな変化に妙な満足感を覚える。
(……もっと上手くなったら、もう少し話してもいいかもしれない)
そう思いながら、静かに仕事に集中することにした。