Episode37
「美菜……」
「あっ……だめっ、瀬良くん…!待って!」
「待てない」
「待って、お願いっ…!」
「………」
「あっ、だ、だめ!ダメええぇぇぇぇ!!」
画面には美菜のキャラクターが倒れ、瀬良のキャラクターが立っていた。
「美菜弱すぎ」
「だってやった事無いんだもん〜…」
予定通り瀬良と今日はゲームをする事にしたが、以前話していた格ゲーを一緒にしていた。
何回もしているが美菜はボコボコにされる。
瀬良はゲームでは手は抜かないタイプのようだ。全く優しくない。
操作説明も必殺技も全部教えてはくれるが、美菜は初めての格ゲーで上手くできなかった。
「……もう一回!」
コントローラーをぎゅっと握りしめ、美菜は瀬良に向かって言い放った。
「お前、何回やっても俺に勝てねぇぞ」
「いいもん! いつか絶対勝つんだから!」
負けず嫌いの美菜は、何度もボコボコにされながらも諦めるつもりはない。瀬良はまるで当然のように美菜の再戦に応じ、再び対戦が始まる。
初めての格ゲーに苦戦していた美菜だったが、回数を重ねるうちに少しずつ成長していた。最初は圧倒的な差で負けていたのに、今ではそれなりに戦えるようになってきた。
そして迎えた、一進一退の攻防戦。
「……いける! これ、勝てるかも!」
美菜のキャラクターの体力ゲージがまだ余裕があるのに対し、瀬良のキャラクターはあと数発で倒れそうなほど削れている。
「ねぇ!! これ勝ったらなんかご褒美ちょうだい!!」
興奮のあまり、思わず口をついて出た言葉。
瀬良は一瞬黙り、それから小さく笑う。
「いいよ」
「よっしゃ!!」
美菜は完全に勝利を確信し、最後の一撃を放つ――はずだった。
次の瞬間、
「……え?」
画面には、美菜のキャラクターが倒れた映像。
「えっ、えええええ!?!?!?!?」
何が起こったのか理解できず、美菜は硬直した。
「……なんで!? あとちょっとだったのに!!!」
「最後の隙、甘かったな」
どこか誇らしげな瀬良。美菜はコントローラーを握りしめ、悔しさに歯噛みする。
「くぅ~~~!! もうちょっとだったのに!!」
「悔しい?」
「めちゃくちゃ悔しい!!!」
「そうか」
瀬良はすっと体を寄せ、美菜の頬にふわりと口づけた。
「……っ!!!!?」
頬にじんわりと熱が広がる。
「俺が勝ったから、ご褒美ちょうだい」
瀬良はそう言い残し、何事もなかったように立ち上がる。
「飲み物とってくる」
短く言い残し、部屋を出ていく瀬良。
その場に取り残された美菜は、顔を真っ赤にしながら固まっていた。
(な、ななななな、何!? 何今の!?!?)
完全にノックダウン。
勝負には負けたけど、それよりももっと大きな何かにやられた気がする。
(ほっぺにキスぐらいで……この歳でこんなにドキドキするなんて……)
悔しさと戸惑いと、とんでもない破壊力のせいで、美菜の思考は完全にぐるぐると混乱していた。




