表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/227

Episode36



「……ごめんなさいぃぃぃ……」


美菜は両手で顔を覆いながら、ソファで寝ている瀬良を見下ろした。


昨夜の記憶がところどころ曖昧で、気づいたら瀬良の家のベッドでぐっすり眠っていた自分に、起きて早々真っ青になったのだ。


「瀬良くんがソファで寝てるってことは……え、私、普通にベッド使っちゃった……?」


酔っていたとはいえ、これはさすがに申し訳ない。


慌てて謝る美菜の声に、瀬良がゆっくりと目を開けた。


「……おはよう」


寝起きの掠れた声と、まだ眠そうなまなざし。


その何気ない仕草すら妙に色っぽく見えてしまい、美菜は思わず目を逸らした。


「ご、ごめんね!瀬良くんの家に泊まっちゃって……しかもベッドまで……!」


「気にしてねぇよ」


瀬良は軽く目を擦りながら、ちらりと美菜の顔を覗き込んだ。


「それより、ちゃんと寝れたか?」


「あっ……えっと……」


美菜は昨夜の寝心地を思い出して、顔がますます熱くなる。


「ふかふかで熟睡してましたぁ……」


半泣きで正直に答えてしまう美菜。


(……めちゃくちゃいい匂いした……とか言ったら変態みたいだよな。セクハラセクハラ。言わないでおこう)


瀬良のベッドは適度な硬さと包み込むような寝心地で、さらには彼の柔軟剤の香りがほんのりと残っていた。


そんなことを思い出して勝手に顔を赤くする美菜を見て、瀬良がクスクスと笑った。


「そっか。良かった」


「……っ」


(この人、ほんとに気にしてないの……? 私だけこんなに意識してるの、バカみたいじゃん……)


落ち着かない美菜とは対照的に、瀬良はのんびりとソファから立ち上がる。そして、ふと何かを思い出したように足を止めた。


「シャワー浴びてく?」


何気ない一言。


だけど、美菜は一瞬固まる。


「……もももも、もしかして、わ、わぁ、わたし瀬良くんに昨日……不届きな所行を……」


瀬良は一瞬ぽかんとした後、肩を震わせ、堪えきれずに吹き出した。


「……ハハッ…不届きな所行…っ」


お腹を抱えて笑いながら、美菜の方を見てくる。


「してないよ。安心して」


「~~~~~っ」


その優しい笑顔に、さらに赤くなる美菜。


(この人、ずるい……)


好きな人にこんな顔をされたら、ますます好きになってしまう。


「あ……なら良かった……です」


かろうじてそう返すと、瀬良は普段通りの調子で続けた。


「とりあえず、お風呂入らずに寝たから、先に入るかなと思って聞いただけ」


「そっ、そうだね! お言葉に甘えちゃおうかな!」


キャパオーバーの美菜は深く考えず、慌ててお風呂を借りることにした。


瀬良は軽く頷くと、お湯を張りながらタオルや新しい歯ブラシを用意してくれた。



***



湯船に浸かり、ほっと息をつく。


(やばい……心臓が落ち着かない……)


昨夜のことを思い出すたびに、胸がざわつく。


すると、バスルームのドア越しにノックの音がした。


「……ごめん、服なんだけど、昨日の服着るの嫌だったら俺の着れそうなやつ置いとくから、それ着てもいいよ」


「へっ!? あっ……! ありがとう!」


お風呂のドアの向こうで瀬良がまた静かに去っていく気配がする。


(たしかに、居酒屋の匂いが染みついた服をまた着るのはちょっと……)


お風呂を出て、瀬良が用意してくれた服を手に取る。


少し大きめのサイズ。


(……かっ、彼シャツ……ってやつだ)


柔軟剤の香りがほんのりと漂う。


瀬良の匂い、というよりは彼が普段使っているものの香りなのだろうが、普段とは違う感覚に心拍数が跳ね上がる。


(いや付き合ってないからまだ彼シャツでは無いか!!!)


頭の中でツッコミを入れながら、そそくさと着替えを済ませる。



***



「お風呂ありがとうー……」


バスルームから出て、ちらりと瀬良の方を見る。


朝ごはんを作っていた彼が、固まった。


「…………ッ」


「あっ……」


美菜も、一気に赤くなる。


「…………ごめん、思ってた以上の破壊力だった」


素直に言う瀬良。


(ひぇぇ……)


(絶対今、変なこと考えた……! というか、わたしもなんか恥ずかしくなってきた……!)


「朝ごはん、食ってくよね?」


話題を変えるように、朝ごはんの準備を続ける瀬良。


「ありがとう……手伝うよ!」


ちょうど美菜も話題を変えたかったので、そのまま流れに乗る。



***



今日は幸いにもお店の定休日。


二人は朝ごはんを食べながら、のんびりと会話を楽しんだ。


面白かったゲームの話、お店のこと、たわいもないやりとり。


「今日も天気がいいねー」


「どこか出かける?」


瀬良の提案に、美菜は思わず嬉しくなる。


(まだ一緒にいたいって……思ってくれてるんだよね……?)


気恥ずかしさもあるけど、やっぱり嬉しい。


「出かけてもいいけど……瀬良くんと一緒にゲームがしたいかも」


笑いながら言うと、瀬良もどこか嬉しそうに微笑んだ。


「ならそうしようか」


コーヒーを飲み干す瀬良を見つめながら、美菜はじんわりと幸せを感じる。


そんな時。


「……あ、そういえば」


瀬良がふと美菜を見た。


「なに?」


「俺、美菜のこと好きだよ」


「…………あっ………」


美菜の脳が、一瞬フリーズする。


「わ、私も!!! 私も瀬良くんが好き!」


勢い余って立ち上がり、机をガタンと揺らす。


「……じゃ、付き合おうか」


あまりの美菜の勢いに瀬良は笑っている。

でも、どこか想いが繋がった事に対しても柔らかく笑っている気がする。そんな瀬良から目が離せなかった。


(……夢みたい)



27歳・河北美菜。


彼氏ができました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ