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Episode33



飲みに行くことになったものの、どこに行くか決めていなかった。


「瀬良くん、どこか行きたいお店ある?」


「いや、別に。美菜が飲みやすいとこでいい」


(仕事中じゃないと美菜…って呼んでくれるんだ…)


別に付き合っている訳ではないのに仕事以外では結構下の名前で呼んでくれるようになった瀬良。

なんだかとても気恥しい。


(付き合ってないのに名前で呼ばれるのってなんか勘違いしちゃうよね…)


自惚れだと思いながらも、瀬良も自分と同じ気持ちなんじゃないかと思ってしまう。

まだ慣れはしないが、美菜は瀬良に名前を呼ばれる事は嫌ではなかったのでこのまま触れないでおこうと思った。


「えっと……じゃあ、駅前の居酒屋にしよっか!」


美菜が行きつけの店を提案すると、瀬良は「わかった」と短く頷いた。



***



二人並んで歩きながら、どう切り出そうかと美菜は考える。

「配信」の話題に触れるなら、やっぱりゲームの話から入るのが自然だろうか。


(でも、変に警戒されたら嫌だし……)


思い悩んでいるうちに店に着き、カウンター席へと案内される。


「何飲む?」


「じゃあ、とりあえず生で!」


「俺も」


注文を済ませ、すぐにビールが運ばれてくる。

瀬良が無言のままグラスを持ち上げたので、美菜もそれに倣った。


「おつかれー」

「おつかれ」


軽くグラスを合わせ、それぞれ一口飲む。

喉を潤してひと息ついたところで、ようやく美菜は口を開いた。


「瀬良くんって、家でかなりゲームしてる?」


瀬良はビールを置き、あまり表情を変えずに答える。


「そりゃまあ」


「やっぱり! めちゃくちゃ好きだもんね!」


「好きじゃなきゃやらないだろ」


淡々とした言葉に、美菜は苦笑する。

それはそうなんだけど、もう少し会話を広げてほしい。


「でも…さ、配信とかではやらないんでしょ?」


美菜はさりげなく探りを入れるように言った。


すると、瀬良はグラスを指でなぞりながら、少しだけ目を細めた。


「……どうして?」


「えっ?」


「何でそんなこと聞くんだよ」


意図を見抜かれたような言い方に、美菜は一瞬言葉に詰まる。


「えっと……ただの興味?」


「ふーん」


瀬良はそれ以上何も言わず、またビールを口にする。


(なんか、余計に気になる……)


美菜は慎重に言葉を選びながら、もう一歩踏み込んでみることにした。


「もしさ、瀬良くんがゲーム実況してたら、見てみたいなーって思って」


「……そうか」


それだけ言うと、瀬良はほんのわずかに口元を緩めた。


それは、笑ったような、呆れたような、どちらともつかない表情だった。


瀬良は少し口元を緩めた後、またグラスを手に取って口をつける。


「…今はしてないけどな」


「え、じゃあ昔はしてたんだ?」


美菜は驚きながらも、少し興味津々に尋ねる。


「まあ、ちょっとな」


瀬良は少し照れたように笑いながら答える。


「最初は楽しかったんだよ。ゲームしながら、みんなと喋るのが。でも、だんだんそれが面倒になってな。話すより、ゲームだけしてるほうが楽しくて」


「そうなんだ……でも、みんなの反応とかって楽しくなかったの?」


「うーん……最初は楽しかったけど、だんだん慣れちゃってさ。配信しなくても、別にゲームしてるだけで満足できるようになったんだ」


「それなら、またやりたくなったりしないの?」


美菜は少し期待を込めて尋ねる。


瀬良は一瞬考え込み、少しだけ目を細めてから答える。


「気が向いたら、やるかもな」


その言葉を聞いて、美菜は少し驚きながらも、どこか安心したような気持ちになった。


「気が向いたら、ね」


「うん。無理にやるつもりはないけど、もしやりたくなったらその時はまた話すよ」


美菜は頷きながら、少しだけ肩の力を抜いた。


「そっか、わかった」


二人はそれぞれのお酒を飲み干すと、再び静かな時間が流れ始めた。


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