Episode2
「それじゃぁ、とりあえず始めていきますよー!!」
意気揚々とゲーム配信を始めたものの、いざ画面が動き始めると、美菜の指はぎこちなかった。
「えーっと、まずは移動して……、あ、これが攻撃ボタン……ん?あれ?なんか違う??」
キャラクターが予想外の動きをするたびに、美菜は慌てふためいた。
【みなちゃん、右スティックでカメラ操作!】
【Lスティックで移動だよ】
【初心者感あって可愛いw】
コメント欄はすぐにサポートモードに切り替わり、アドバイスが次々と流れ始める。
「なるほど……!あー、こういうことね!いやぁ、みんながいなかったら私、序盤で詰んでたわ……」
なんとか基本操作を覚え、フィールドを歩き回り始めた美菜。しかし、次の問題がすぐに訪れる。
「え?戦闘ってどうやるの?……わっ!?敵出た!!」
画面いっぱいに現れたモンスターに驚き、美菜は手元の買って帰ったばっかりのコントローラーをぎゅっと握る。
【攻撃ボタン押して!】
【回避もしないと!】
【がんばれみなちゃん!!】
「えーっと……あっ、攻撃!……わっ!?ちょっと待って!!回避ってどこ!?……あーーーー!!」
画面の中のキャラクターは無残にも倒れ、美菜は頭を抱えた。
「うそでしょ!?最初の敵にやられるってある!?え、私これ向いてないのでは……?」
【ドンマイww】
【最初はみんなこんなもんだよ】
【成長を見守るのが楽しいんだよ】
コメント欄は大いに盛り上がっていた。
「……でも、なんか楽しいかも」
苦戦しながらも、少しずつ操作に慣れ、次第にゲームの世界に引き込まれていく美菜。ゲームなんてほとんどやったことがないのに、いつの間にか時間を忘れて楽しんでいた。
配信が終わる頃には、すっかりゲームの魅力にハマっていた。
「みんな、今日はありがとう!めちゃくちゃ楽しかった!!また次回もゲーム実況やるから、よかったら見に来てねー!」
画面が暗転し、美菜は大きく伸びをする。
「はぁー……思ったより面白かったなぁ」
ベッドに寝転がり、今日のことを振り返る。
(瀬良くんが教えてくれたゲーム、意外とハマっちゃったな……)
そう思いながらスマホを手に取り、何気なく検索をかけた。
『ゲーム 初心者 おすすめ』
普段なら絶対に調べないワードだった。
でも今は、少しずつゲームの世界を知りたいと思っている。
***
翌日。
「おはようございます!」
いつも通り美容室に出勤し、仕事の準備をしていると、瀬良が静かに近づいてきた。
「昨日の休憩時間の話だけど……ゲーム、やってみたのか?」
不意に話しかけられ、美菜は一瞬ドキッとする。
(まさかバレた……?いや、そんなはずないよね?)
「あ、うん……ちょっとだけね!やっぱり最初は難しかったけど、思ったより楽しかったかも」
瀬良は少し驚いたように目を細めた。
「そうか。なら、もうちょっと簡単なゲームとか、操作のコツを教えてやってもいいけど?」
「え、本当!?……じゃなくて、そんな悪いよ!」
思わず食いつきそうになり、慌ててごまかす。
(ダメダメ!配信のためにゲームをやってるってバレたら、絶対変に思われる!!)
「まあ、興味があるなら今度また教えてやるよ。……ゲームに関しては俺の方が詳しいしな」
瀬良は淡々と言いながら、セット面の準備を始めた。
その横顔を見ながら、美菜は心の中で密かに思った。
(……瀬良くん、ほんとにゲーム好きなんだなぁ)
仕事の時とは違う、一瞬だけ見えた彼の柔らかい表情。
普段は無駄な会話をしない瀬良くんが、こんな風に少しずつ距離を縮めてくれるのが、なんだか新鮮だった。
(……まぁ、せっかくだし、ちょっとくらい教えてもらってもいいよね?)
そうして、美菜の隠しごとを抱えたままのゲーム生活が、少しずつ広がっていくのだった。