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Episode25



美菜が帰宅し、部屋のドアを開けると、ほっとした気持ちが広がった。外での何気ない出来事が、まだ胸に残っているような気がしていたからだ。部屋に入ると、椅子に座りながら昨日の雑誌を再び手に取った。


(あ、そうだ、あの時瀬良くん、少し笑ってたな)


少し恥ずかしさを感じながらも、雑誌のページをめくる美菜。今日のやりとりが、頭の中で何度も反芻されていた。瀬良の嬉しそうな姿も、田鶴屋の軽口も、まるで夢のようだったが、それらが美菜の心に少しずつ深く浸透していくのを感じた。


「ゲームってすごいんだな…」


瀬良のことを思い出すたび、ふと胸がキュンとする。彼が話していたプロゲーマーの話、ゲームの話になると柔らかくなる表情、普段とは違う一面をどうしても忘れられなかった。


「あー…やっぱり、私…」


美菜は、そんな自分に少し戸惑いながらも、雑誌をもう一度手に取って続きのページをめくり始めた。しかし、心は完全に雑誌の内容ではなく、瀬良のことに向いていることに気づく。


「好きなの…かな…」


美菜は頭を抱えたくなるような気持ちに包まれ、しばらくそのまま椅子に座り込んだ。目を閉じて深呼吸をしながら、自分の心の中に芽生えた小さな感情が、だんだんと大きくなっていくのを感じていた。


その後、ふとスマートフォンに目を向けると、瀬良から一通のメッセージが届いていた。


(あっ…そういえば電話だけじゃなくてメッセージもできるようにしたんだっけ…)


休憩中に電話だけじゃ不便だからと連絡先を交換しておいた。

しかしお互い何かを送るわけでもなくそのまま放置していたのだ。


《河北さん、今日もお疲れ様でした。》


ただそれだけのシンプルなメッセージだが、突然のメッセージに美菜はその文字を目にした瞬間、思わず顔が赤くなった。


「……お疲れ様、瀬良くん…」


そっとつぶやきながら、美菜は画面を閉じると、また無意識にそのメッセージを何度も確認してしまう。


(返信しなきゃね…)


《お疲れ様です!雑誌の件かな?

明日返そうとは思ってたけど》


指先から伝わる自分の少し早い鼓動。

もう分かっていた。


「…私、瀬良くんが好きなんだな…」


本当は前から分かっていたのかもしれない。

自覚するとより鼓動が早くなる。


《いや、雑誌はいつでも大丈夫》

《そう?ありがとう》

《河北さん今度の休み空いてる?》


美菜は、スマートフォンの画面に目を落とし、心の中で何度も自分に問いかける。瀬良からのメッセージが届いてからというもの、心臓が早鐘のように鳴り続けていた。


(今度の休み…?)


その言葉が頭の中で何度もリピートされる。普段、仕事以外でこんな風に誘われたことなんてなかったから、美菜は少し戸惑いながらも、指先をスマートフォンの画面に乗せた。


《休み、空いてるよ!何か予定でも?》


すぐに送信した自分に驚きながらも、心の中では答えがすでに決まっていた。


数秒後、すぐに瀬良から返事が来た。


《実はちょっと相談したいことがあって。》


美菜は、その言葉に心が少し温かくなるのを感じた。相談したいことがあるなんて、どうしても気になる。


《何の相談?》


素直に返信し、また心の中で深呼吸をする。少しでも冷静になりたかった。


しばらくしてから、瀬良の返信が届いた。


《今度の休みに一緒にランチでもどう?俺、ちょっと前から気になってるカフェがあって。》


その言葉に、美菜の胸はさらに高鳴った。ランチ…カフェ…瀬良と二人きりで出かけるなんて、現実なのか夢なのか分からないくらいに驚く。


「ランチ…?カフェ…?」


声に出してみたものの、もうその時には返事をする気持ちが固まっていた。


《いいですね!行きましょう!》


指先が震えるのを感じながら、心の中で自分の気持ちを再確認する。瀬良とのランチ、二人きりで過ごす時間。それがどんな意味を持つのか、まだよく分からないけれど、心から楽しみにしている自分がいた。


すぐに、瀬良からの返信が届いた。


《ありがとう。じゃあ、待ち合わせは駅前でいい?》


美菜はそのメッセージを見ながら、思わず口元を緩ませた。


「駅前で…」


その場所が決まった瞬間、心の中に一層強く、期待と不安が入り混じった気持ちが広がっていく。


「楽しみ…でも、ちょっと緊張するな」


美菜は少しだけ深呼吸をして、何度も自分の気持ちを整理しようとした。まだ冷静を保たなければならない。でも、今まで感じたことのないようなドキドキとした気持ちが、彼とのランチを一層特別なものにしてくれるような気がしていた。


その日の夜、眠る前に美菜はふとスマートフォンを手に取る。


(次の休みは…瀬良と、ランチだ)


そのことを繰り返し考えながら、心はすでにその瞬間に飛んでいた。


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