Episode21
その日の夜、サロンをいつもより早めに出て美菜は帰っていた。
(千花ちゃん、恋バナ好きだもんなぁ〜……)
彼女の追及を逃れるように、そそくさと店を出たものの、頭の中はさっきの会話でいっぱいだった。
(瀬良くん、本当に……? いやいや、考えすぎ……)
そんなことを繰り返しながら歩いていると、ふとバッグの軽さに違和感を覚える。
(……あれ?)
思わず立ち止まり、バッグを開ける。
(しまった! 今日はサロンに置いてあるゲームの雑誌、もらって帰る予定だったのに!!)
昼間、田鶴屋に確認を取ったとき、彼はニヤニヤしながら「持って行っていいよ」と二つ返事で渡してくれた。きっと「みなみちゃん」の配信で使うのだろうと考えていたのだろう。
実際、この雑誌は瀬良もよく読んでいるものだったし、ゲームの情報は気になっていたから、何冊か持ち帰るつもりだったのだ。
(今から戻れば、誰かいるかも……!)
美菜は足早にサロンへ引き返した。
***
「……河北さん?」
ちょうど戸締まりをしていた瀬良が、息を切らして駆け寄ってきた美菜を見つけ、少し驚いたように声をかけた。
「ま、間に合ってよかったぁ〜……」
店の鍵を持っているのは店長と瀬良だけ。もう少し遅かったら、完全に閉められていたかもしれない。
「忘れ物?」
「そーなの! ゲームの雑誌、持って帰っていいって言われてたのに、すっかり忘れちゃって!」
ヘラヘラと笑いながら、店内に入った美菜はカウンターの上に置かれていた雑誌を手に取る。表紙には話題の新作ゲームが大きく載っていた。
「……」
瀬良はじっと美菜を見つめていたが、少し考え込むような仕草をした後、ぼそっと言った。
「俺の家にある雑誌もいる?」
「え! 読んでみたい!」
美菜は反射的に答えてしまった。
すると、瀬良はあっさりと続けた。
「じゃあ、うち寄って帰りなよ」
「えっ?」
「家に何冊かあるから、好きなの持ってっていいよ」
美菜は一瞬驚いた。
(……あ! 明日持ってきてくれるとかじゃないんだ!)
普通なら「明日持ってくる」と言われる場面なはず。なのに、さらっと自宅に誘われたことで、なぜか妙に意識してしまう。
(いやいや、ただ雑誌借りるだけだし)
変に意識する自分がバカみたいな気がして、美菜は「あ、じゃあ、お邪魔します」と軽く返した。
瀬良は特に気にする様子もなく、鍵を閉め直すと歩き出した。
美菜は彼の背中を追いながら、さっきの会話を思い出してしまう。
(……瀬良くん、本当に私のこと……?)
胸の奥が、妙にざわついていた。




