Episode201
福引の列がじわじわと進み、ついに木嶋の順番が回ってきた。
彼は、まるで戦地に赴く兵士のような真剣な表情で、福引のガラガラを見つめる。
「いよいよですね……」
「ここで俺が最高の結果を出して、みんなのために一等を引き当てます!!」
謎の使命感を背負いながら、木嶋は拳を握りしめる。
「それでは……いきます!!!」
自分で自分のテンションを最大限に上げながら、彼は力強くハンドルを回す。
——ガラガラガラガラガラッ
「こい……!」
━━━カランッ
木嶋の期待を込めた視線の先に転がった球は……
「……し、白色……?」
皆が一斉に覗き込む。
「あー、残念!白はポケットティッシュになります!」
係員が申し訳なさそうにポケットティッシュを1個手渡す。
「ポ、ポケットティッシュ……!?」
木嶋はその場に崩れ落ちる。
「おのれ……無念……」
大げさに肩を落とし、哀愁漂う背中を見せる木嶋。
しかし、その姿を見て、千花が力強く前に出た。
「木嶋さんの仇は……私がとります……ッ!!」
彼女は決意に満ちた表情でガラガラの前に立ち、じっとハンドルを見つめる。
——そして、渾身の力を込めて回した。
━━━カランッ
転がり出た球は……
「……え?また白色……?」
まさかの結果に、千花が硬直する。
「……これ白色しか入ってな……っふ、はふぁふぁん!?」
言いかけた瞬間、田鶴屋がすかさず千花の口を塞ぐ。
「はいはーい、千花ちゃんはもう引いたから列から外れましょうね〜」
千花は何かもがもが言っているが、田鶴屋にそのまま強制連行されていく。
「……何やってんだあいつら」
「ふふふっ、残念だね」
そんな二人を横目に、瀬良の番が回ってくる。
美菜と瀬良は、すでに結果を悟っていた。
(どうせポケットティッシュだろ……)
瀬良は半ば諦めの境地で福引の前に立つ。
「……どうせティッシュなら、サクッと回すか」
ぼそっと呟きながら、彼はゆっくりとハンドルを回した。
——ガラガラガラガラッ
新春ガチャの爆死を思い出し、遠い目をする瀬良。
(白色だろうな……)
━━━カランッ
「…………あ」
転がり出た球は——金色。
一瞬、誰もが固まる。
「え?」
瀬良は自分の目を疑った。
「おめでとうございます!大当たりでーす!!!一等京都旅行券!!出ましたー!!」
福引の係員が大げさにベルを鳴らし、周囲の人々から感嘆の声が漏れる。
「え!?瀬良くん一等当たったの!?」
驚いた美菜が瀬良の腕を掴む。
「……みたいだな」
まさかの展開に、瀬良は未だに実感が湧かず、ただぽかんとしていた。
その頃、どうせ当たらないだろうと完全に諦めた木嶋と千花は、自動販売機で飲み物を買い、ティッシュの恨みを語り合っていた。
「いやいや、あれ絶対白色しか入ってないって!!」
「ほんとそれ!せめて3等くらいはさぁ……」
——そこへ響き渡るベルの音が聞こえてくる。
「え?」
木嶋と千花は顔を見合わせ、次の瞬間、目を輝かせながら全力で駆け寄った。
「え!?瀬良先輩当たりました!?!」
「瀬良きゅん!!当たり!?当たり!?」
「……うるさい」
瀬良は二人の騒がしさを軽く流しながら、係員から京都旅行の賞品を受け取る。
「一等賞品は、5人1組の宿泊+新幹線チケットになります!」
瀬良は眉を寄せる。
(5人1組……?)
美菜、田鶴屋、木嶋、千花、皐月、百合子、そして自分——どう考えても人数が合わない。
「5人1組だと……みんなでは行けないね……」
美菜が少ししょんぼりしながら賞品を覗き込む。
「5人で行く必要なくない? 2人で……」
瀬良がそう美菜に言おうとした瞬間——
「……OKOK!なら社員旅行、行っちゃう?」
田鶴屋が指を鳴らして提案する。
「え!? 社員旅行!?」
「おお!それは楽しそう!!」
「ってことは、みんなで行けるってこと!? 最高じゃん!」
千花と木嶋が大はしゃぎし、百合子と皐月も思わず顔を見合わせて微笑む。
「せっかくの一等なんだし、みんなで楽しんだ方がいいだろ?」
田鶴屋は瀬良を見ながら、自然な笑みを浮かべる。
「……まあ、悪くないか」
瀬良は小さくため息をつきながらも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
こうして——彼らの『社員旅行』が決まった。




