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Episode1




「……はい、ということで、今日はみんなとの雑談枠だったけど、またこんな感じの枠もとりたいねー。

みんなとお話できて楽しかったよーー!!コメントたくさんありがとう!全部読み切れなくてごめんね。

それじゃぁ今日はもう遅いし寝ようか〜…

みんなありがとー!いい夢見てね!おやすみなさい!」


時刻は午前0時。

自分の好きな事をする時間はあっという間だ。


(あーーー……楽しかった〜〜

やっぱりこの時間が私の至福なんだよね〜)


その日の配信が終わり、美菜は自分のPCの前でふと考え込んだ。

ファンからのコメントを見返していると、一つのリクエストが目に留まった。


【みなみちゃん、ゲーム実況もやってほしい!】


美菜はそのコメントを繰り返し見た。自分がVTuberとしてゲームを配信するなんて、考えたこともなかった。

みなみちゃんの今の配信スタイルは、雑談やリスナーからの相談を解決する事がメインで、思い返してみるとゲーム枠というのは配信した事はない。


なぜなら美菜はゲームに一切触れてこない人生だった。


小さい頃、母親に1度だけゲームを買って欲しいとねだった事があった。

周りの友達が楽しそうにゲームで遊んでいる姿や会話を羨ましく思い、勉強漬けの生活しか知らない美菜は母親に思い切って相談してみた事があった。

すると母親は

“ゲームなんて時間の無駄。ゲームをする時間があれば勉強をしなさい”

と一喝し、それ以降美菜からゲームという単語は無くなってしまった。

親に擦り込まれた固定概念というのはなかなかに根強いものだ。


(ゲームねぇ〜……あんまりいい思い出ないし避けてきたけど…)


しかし、どうしても興味を持ったそのコメントが気になり、少し心が揺れた。


「ゲーム実況か…。それも面白いかもしれないなあ」


もう成人して自分の好きなことをして好きな事に時間を使える。

現に美容師としての職と、趣味である配信で美菜は人生を楽しんでいる。


(まぁ、結局あんなに言われてた有名大学入学も大手企業就職もせずに反抗期こじらせて家出てっちゃったんだけどねぇ〜……)


親の言われた通りに進み、勉強漬けで過ごした青春時代はもう今の美菜には無い。


━━━━━━━━━━ただただ自由なのだ。



***



翌日、美菜の指名予約は落ち着いており、手のあく時間があったので、アシスタント業務に務めていた。


「じゃぁピンク系の明るい感じで染めていきますね」


サロン全体を見ていると、カラーの準備をしている同期の瀬良新羅せら しんらが目に止まった。


(あ、瀬良くんの所のお客様は今からカラー塗るのか……なら私アシスタント入ろっかな。)


美菜は瀬良の方をちらりと見て、軽く微笑んだ。

彼はサロン内で若手の中で1番頼りにされている人材で、技術も抜群だった。


それに、休憩時間になるとよくサロンで取り寄せているゲーム雑誌を休憩室に持って行き、ゲームの記事を見ている事を美菜は知っている。この間も瀬良は顧客と楽しそうにゲームの話で盛り上がっているのを見かけた。

きっと彼の話に耳を傾けることができれば、少しだけでもゲームについて学べるかもしれない。


美菜はバックルームにカラー剤を作りに行った瀬良を追いかけ、軽く声をかけてみた。


「瀬良くん、今からカラーのアシスタントしても大丈夫?」


瀬良は手元でカラー剤を準備しながら、少し驚いた表情で美菜を見上げた。


「うん、大丈夫。ありがとう。」


美菜は嬉しそうに頷き、すぐに調合を手伝いを始めた。

しばらく作業を進めながら、美菜は軽い感じで話しかける。


「ねえ瀬良くん、前に隣の席で接客してる時に瀬良くんのお客様との会話聞こえちゃったんだけどさ、瀬良くんってもしかしてゲームとか好きだったりする?

だとしたらお願いがあるんだけどさ……」


「……なに?」


瀬良の肩が一瞬だけピクリと動いた。


美菜にとって同期と言えば一緒に練習したり励ましあいながら切磋琢磨して技術を磨いていくものだと思っていた。


だがこの瀬良新羅は違った。



そう彼は

«天才»だった。



美容師としての技術は入社して直ぐにも関わらず既に育っていた。誰よりも早くアシスタントを上がり、美菜がもたもたと技術の練習をしている中、お店を引っ張っていくスタイリストの先輩達と肩を並べていた。


(瀬良くんって同期だけどちょっと違うっていうか、近寄り難いっていうか……あんまり仲良くなれなかったんだよなぁ。まあ何だかんだでもう残ってる同期って瀬良くんだけなんだけどね。みんな美容師辞めちゃったりお店変えたりして居なくなっちゃったし)


一瞬身構えた瀬良の態度からして壁を感じる。

これまでさほど雑談することも無く、業務の話しかほぼしてこなかったので今更気軽に雑談するのも変なのか……。


「あーー、もし好きだったりゲームしてるならちょっと次の休憩の時に話したいなぁーって。」


「……いいけど……」


(あ、いいんだ)


心の中では断られると思っていたので少し拍子抜けしてしまう。


「このお客様の施術終わったら俺も予約落ち着くし、後で休憩一緒にとろうか。」


そう言うとカラー剤を持って手早くお客様の所に戻っていった。

その後を追いながら美菜はふと思い出した。


(……というか初めて一緒に休憩取るなぁ……)



***



昼休み、美菜は約束通り瀬良の席に歩み寄り、軽く話しかけた。


「ねえ、瀬良くん、ちょっと聞いてみたかったんだけど、最近ゲームしてる?」


瀬良は少し驚いたように顔を上げるが、すぐに冷静な表情を取り戻す。


「ゲーム?ああ、たまにやってるけど…。どうした?」


(んーー、さっきからなんでちょっと驚いた反応するんだろ……そんなに今更休憩誘ったり話すのがハードル高いのかなぁ……)


美菜は少し躊躇しながらも、話を続けた。


「実はさ、最近ちょっとゲームに興味を持ってて…。でも、初心者だから、難しいのは無理かなって思ってて。何か簡単にできるゲームがあったら教えてほしいな。」


瀬良は少し考え込むと、すぐに答えた。


「簡単にできるゲームか…。なら、RPGの方がいいかもな。ストーリーを楽しみながらできるし、難易度を調整できるから初心者でも大丈夫だと思う。」


美菜はそのアドバイスを真剣に聞き、メモを取りながらうなずいた。


「RPGか…。それならちょうどいいかも。ありがとう、瀬良くん!」


「おう。このゲームなら楽しいと思うよ。

…あ、パソコンでゲームはインストールはできるけど、コントローラーあった方がやりやすいかもな」


「ん、そうなの?なら買って帰るね!」


「……おう」


美菜はそのまま微笑みながら、少し気まずそうに席に戻った。

もちろん自分がゲーム実況をしていることは隠したかったため、あくまで「興味がある」というふうに誤魔化していた……つもりだ。


彼のアドバイスをありがたく受け取り、残りの休憩時間を過ごしたのだった。



***



その日の夜、美菜は瀬良から教わったRPGを早速インストールし、配信を開始する。


「えっと、今まで雑談配信とか歌ったりとか相談枠とかしかしてこなかったんだけど、今日からみんなのリクエストでゲーム実況もはじめていくことにしました!実況するゲームは初心者でもできるって聞いたRPGのゲームにしようと思います!!」


コメント欄を見ると


【待ってました!】

【ゲーム実況楽しみ!】

【キターーーーー!(゜∀゜)━!】

【クリア頑張って!】


などのあたたかいコメントがたくさんきていた。


「それじゃぁとりあえず始めていきますよー!!」


意気揚々と始めたゲーム配信。

美菜はこの日初めてゲームをはじめてみた。


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