Episode17
(……どうしよう……)
配信を続けながらも、美菜の頭の中は混乱していた。
田鶴屋店長――いや、タヅルが、今もコメント欄にいる。
しかも、何事もなかったように楽しそうにコメントしている。
【みなみちゃん、今日もかわいいね】
【そのゲーム、前にやってたやつの続編?】
【今日の雑談、めっちゃ面白い!】
(……いやいや、普通に馴染みすぎでしょ!?)
そんなに自然体でコメントされると、逆に意識してしまう。
(でも……店長は、私が気づいたことに気づいてない……?)
それとも、あえて気づかないフリをしてくれてる……?
考えれば考えるほど、わけがわからなくなってくる。
「うーん……えっと……」
言葉に詰まると、コメント欄がざわついた。
【みなみちゃん、どうしたの?】
【なんか今日、様子変じゃない?】
【眠い?】
(あ、やば……)
変に意識しすぎたせいで、リスナーたちに違和感を与えてしまったらしい。
「ううん、大丈夫だよ!」
慌てて取り繕うように笑う。
「ちょっと考えごとしてただけ! えーっと……そうだね、そろそろ次のコーナーにいこうかな!」
気持ちを切り替えるように、話題を変える。
(……とにかく、今は深く考えすぎないほうがいい)
そう自分に言い聞かせながら、いつものテンションを取り戻すように、配信を続けた。
***
配信が終わると、どっと疲れが押し寄せた。
「はぁ~~~~……!!」
椅子にもたれかかり、天井を仰ぐ。
「やっぱり……気にしすぎちゃうなぁ……」
コメント欄を振り返ると、タヅルの最後のコメントが目に入る。
【今日も楽しかった! おつ~】
(……普通すぎる……)
まるで、今まで通りのリスナーのように振る舞っている。
本当に、気づかれていないのか。
それとも、美菜が気づいたことに気づいた上で、知らないフリをしているのか。
(どっち……?)
悩んでも答えは出ない。
「……でも、なんか……」
胸の奥が、少しくすぐったいような気がした。
5年前から、ずっと見ていてくれたリスナー。
配信を続けるきっかけになった人。
そして、今も変わらず応援してくれている人。
(……田鶴屋店長って、こういう人なんだな……)
仕事中とは違う、リスナーとしての一面を知ったような気がして、美菜はそっと微笑んだ。
「……まぁ、いっか!」
悩んでも仕方がない。
今はただ、これからも楽しく配信を続けていこう――
そう思いながら、美菜はパソコンの電源を落とした。