Episode16
「こんばんは~! みなみちゃんだよ~!」
カメラ越しのアバターが、元気よく挨拶をする。
配信開始と同時に、コメント欄が一気に流れ始めた。
【待ってましたー!】
【昨日はお休みだったね! 体調大丈夫?】
【みなみちゃん、今日もかわいい!】
美菜は画面を眺めながら、笑顔で答える。
「みんな心配してくれてありがとー! ちょっと眠かっただけだから全然大丈夫だよ!」
それから雑談を交えつつ、いつものように配信を進める。
とはいえ――
(……気になる……)
気にしないつもりでいたのに、意識してしまう。
この中に、田鶴屋店長がいるかもしれない。
いつも何気なく流れていたコメントが、急に違ったものに見えてしまう。
(この人……? いや、この人かも……?)
考えれば考えるほど、誰がそれっぽいのか分からなくなる。
「……あっ、そうだ!」
ふと思い立ち、美菜は配信中に話題を振る。
「ねえねえ、みんなってさ、推しの配信、どれくらい前から見てる?」
【えーと、半年くらい!】
【1年ぐらいかな?】
【最初期から!】
【2年前!】
それぞれのコメントが流れる中、美菜は目を凝らす。
(……5年前からって人、いるかな……)
期待半分、不安半分で見守っていると――
【5年前からいるよー!】
そう書き込むアカウントが、ぽつりと現れた。
(……来た……!)
一瞬、心臓が跳ねる。
でも、冷静に考えれば、5年前からのリスナーは他にもいる。
決めつけるにはまだ早い。
(……うーん、どうしよう……)
さりげなく探りを入れたくて、美菜は続けて話を振る。
「5年前からってすごいね! じゃあ、私が最初のころにやってた企画とかも覚えてる?」
【覚えてるよー! 相談コーナーとかやってたよね!】
(……!!)
相談コーナーの話。
もちろん、他のリスナーも覚えている可能性はある。
でも、ここまでピンポイントで反応してくるのは――
(やっぱり、この人……?)
気になって、さらにコメントを遡る。
アカウント名は……
【タヅル】
(タヅル……?)
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
(……いや、これもう、ほぼ確定じゃん!!)
冷静を装っていたつもりが、心の中ではパニック寸前だった。
(ど、どうしよう! 絶対田鶴屋店長じゃん!!)
「……えっと、じゃあ……」
思わず声が上ずる。
コメント欄には、タヅルの新しい書き込みが流れてきた。
【今でも配信、楽しみにしてるよ】
(~~~!!!)
ダメだ。
こんなの、意識しないほうが無理に決まってる。
でも、気づいていることを悟られるのも恥ずかしい。
美菜はぎこちなく笑いながら、話題を変えた。
「う、うん! これからも頑張るね!! じゃあ、次の話題にいこっか!」
頭の中がぐるぐるしながらも、なんとか配信を続ける。
――でも、気づいてしまった以上、もう普通には戻れそうになかった。




