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Episode164



配信中、木嶋とゲームを楽しんでいると、突如グループ通話アプリに新たな参加者の通知が表示された。


(あ……瀬良くん!)


通話に上がってきた名前を見た瞬間、思わず心の中で声を上げる。


「おつかれ」


低めの落ち着いた声がヘッドセット越しに聞こえた。


「Irisさんこんにちは!」


美菜はいつも通り、VTuberの「みなみちゃん」として明るく挨拶をする。


「おつー! 今みなみちゃんと配信しながらワールド・リーゼやってるー」


木嶋もノリよく応じる。配信中なので、あくまでネット上の知り合いとしての対応だ。

もし瀬良くんが彼氏だとバレたら、それこそ大炎上は避けられない。慎重に振る舞わなければならない場面だった。


「ん、トロール辺りから見てた」


「変なとこから見られてるね!」


「成敗してやったぜ」


そのやり取りが流れるや否や、コメント欄が一気に騒がしくなる。


【Iris!?】

【Irisだーー!!】

【プロチーム勢揃い】

【Irisおはよー!】


突如現れたプロゲーマーの登場に、リスナーたちは興奮を隠せないようだった。


「てかさぁ、連絡したのにぃ〜!」


木嶋がやや不満げな声を上げる。


「トロールちょい前に起きたから気づかなかった」


「あのさぁ……トロール基準で話すのやめてくんない!? 誤解されるから!!俺がトロールしたみたいじゃん!?」


木嶋の的確なツッコミが炸裂し、さらにコメント欄が湧く。


【トロール基準www】

【わろた】

【木嶋@トロール】

【www】


「ほら! 俺がトロールしてるみたいなコメントばっかじゃんかー!」


「今のは自分で誘導しただろ」


木嶋が必死に弁解しているのを聞いて、美菜はつい吹き出してしまう。

やっぱりこの二人の掛け合いは見ていて楽しい。


その後もコメント欄は大盛り上がりで、配信はさらに賑やかになっていった。



***



お盆休みの話題と、夜の約束


「Iris、コメントで【お盆休み何してたの?】って聞かれてるぞ」


木嶋がゲームの合間にコメントを拾い、軽い調子で瀬良に話を振る。画面の向こうでは、視聴者たちが続々とお盆休みの話題に乗っかってきていた。


「実家帰ってた」


瀬良は視線を画面に向けたまま、淡々と答える。


「へぇ、実家かぁ。じゃあ、お盆休みの間は全然ゲームできなかったってこと?」


「まあ、そうなるな」


「そっかー。瀬良がオフラインだと、なんか寂しい感じするよなー」


【Irisのいないお盆、虚無】

【実家でゲームすればよかったのに】

【親孝行大事】


コメント欄が一気に反応し、和やかな雰囲気が広がる。


そんなやり取りを見ながら、美菜はゲーム画面の向こうにいる二人をぼんやりと眺めていた。自分も参加したい気持ちはあるが、今日は見守る側に回っている。すると、コメント欄に新たな話題が飛び込んできた。


【みなみちゃんは?お盆休みとかあるの?】


「あ、うん!あるよー」


美菜は少し間を置いて、明るく答えた。


「私は……旅行に行ってました!」


実際は旅行ではなく、瀬良の実家にいた二日間だった。けれど、それを話すわけにはいかない。


【旅行!いいなー!】

【どこ行ったの?】

【みなみちゃんと旅行とか最高かよ】


「どこ……とかは言えないけど、すっごく楽しかったよ!温泉とかご飯とか、めちゃくちゃ満喫した!」


「ほへぇー、旅行いいなあ。俺も休みどっか行けばよかった」


「木嶋さんはずっとゲームしてたんですか?」


「うん!めちゃくちゃゲーム三昧!」


【休みこそゲーム!】

【木嶋は俺たちの希望】

【最強のインドア】


美菜はクスクスと笑いながらコメント欄を眺めた。リスナーたちの楽しげなやり取りに混ざるのは心地よく、それだけでお盆休みがもうすぐ終わる寂しさを忘れられそうだった。


(……お盆休みもあと少し。今日はそろそろ掃除を始めようかな)


名残惜しさを感じつつも、そろそろ配信を終える決意をする。


「今日は先に落ちますね! みんな、楽しいお盆休みを!」


そう言って、美菜はIrisと木嶋、そしてリスナーたちに挨拶をした。



***



「ふぅ……」


配信を終えた美菜は、少し伸びをしてから椅子を回転させる。部屋を見渡すと、思ったよりもホコリが溜まっていることに気づいた。まずはパソコン周りを掃除しようと、布巾を手に取る。


机の上のミナツキちゃんのフィギュアをそっと動かしながら、軽くため息をついた。楽しかったお盆休みもあと少し。仕事に戻るのは嫌ではないけれど、もう少しだけこの自由な時間を楽しんでいたい気持ちもある。


ちょうどそのとき、スマホが震えた。通知を見ると、瀬良からのメッセージが届いていた。


『木嶋が飯行きたいらしいけど、来る?』


「木嶋さん、お盆休みずっとゲームしてたって言ってたしなぁ……」


美菜はクスッと笑いながら、すぐに返信を打つ。


『行く!』


すると、すぐに瀬良から次のメッセージが届いた。


『なら18時半にいつもの居酒屋で』


『了解!』


送信を終えてスマホを置くと、自然と楽しみな気持ちが湧いてきた。


「よし、掃除の続きしよ」


軽く気合を入れ直し、美菜はまた布巾を手に取る。夜の予定ができたことで、少しだけ気分が軽くなった。



***



掃除も一段落し、ふと時計に目をやると、時刻はすでに16時半を回っていた。


「……! やば! そろそろ支度しなきゃ!」


思わず声に出してしまい、美菜は慌てて立ち上がった。

約束の時間まではまだ余裕があるとはいえ、準備にはそれなりに時間がかかる。


急いでシャワーを浴び、髪をタオルドライしながら鏡の前に立つ。

スキンケアを丁寧に済ませ、ベースメイクを整えた。

アイメイクも普段より少し華やかにして、ほんのり色づくピンクのリップを塗る。


(服どうしようかなぁ……)


クローゼットを開けて服を選ぶ。

いつも仕事では黒やベージュのシンプルなブラウスを着ることが多いが、

今日は少し気分を変えたくて、奥の方にしまっていた白いシャツを取り出した。


ノースリーブでフリルがあしらわれたデザイン。

可愛くて買ったものの、仕事には着ていけず、そのまま眠っていた服だった。


(よし! せっかくだしこれにしよう!)


タイトスカートと合わせて鏡の前に立つと、

いつもよりフェミニンな雰囲気になった自分がそこに映っていた。


「アクセサリーは……」


ふと考え、ジュエリーボックスを開ける。

指先でそっと触れたのは、瀬良からもらったネックレスとピアス。

どちらもシンプルで上品なデザインで、美菜のお気に入りだった。


ネックレスを丁寧に首元にかけ、ピアスを耳につける。

鏡を見ながら髪を整えると、自然と笑みがこぼれた。


「……そろそろ行かなきゃ!!」


気がつけば、時計の針は18時を指していた。

軽くバッグの中身を確認し、靴を履いて玄関のドアを開ける。


外に出ると、ほんのりと夕暮れの風が頬を撫でた。

美菜は軽く息を吸い込み、ウキウキした気分のまま、待ち合わせ場所へと向かった。

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