Episode162
「んー!何処から行くよ!」
実琴の声と共に四人は愛媛観光へと繰り出した。
「うーん、天気もいいし、観光日和やな」
那月は空を見上げながら伸びをする。
「夏の愛媛ってこんなに暑いんですね……」
美菜は日差しの強さに思わず額の汗を拭った。
「まあねぇ。でも、今日は風があるから少しはマシやろな」
那月がそう言いながら、観光プランの入ったパンフレットを広げた。
「よし、まずは道後温泉からやな」
***
四人はまず、愛媛が誇る道後温泉を訪れた。歴史ある木造の建物が目の前に広がると、美菜は思わず感嘆の声を上げる。
「わぁ……!本当にレトロで素敵な建物!」
「ここが日本最古の温泉って言われてます!」
実琴が誇らしげに説明する。
さすがは先生だ。
教科書に書いてそうな事を美菜に説明してくれる。
「どうせなら入っていくか?」
瀬良が何気なく提案すると、美菜は少し戸惑ったように瀬良を見た。
「えっ……今?」
「まあせっかく来たんやし、ちょっとくらいええやろ」
「いいね!観光で歩き回る前にリラックスしとこ!」
実琴も賛成し、四人はさっそく温泉へ向かうことにした。
***
男女別に分かれ、それぞれ温泉を堪能する。
美菜はお湯につかると、思わず心地よさそうにため息をついた。
「はぁ~……極楽……」
「気持ちええやろ?」
「うん……体の疲れが全部溶けていく感じ……」
実琴とゆったりとお湯に浸かりながら、しばしのんびりとした時間を楽しんだ。
一方、男湯では瀬良と那月が肩まで湯に浸かっていた。
「やっぱ道後の湯はええな」
「道後温泉って実際地元の人ってそんな入らないよな」
「たしかに」
瀬良と那月は淡々と答えたが、その表情はどこか穏やかだった。
***
温泉でリフレッシュした後、四人は松山城へ向かった。
「お城っていいですよね!歴史を感じる!」
美菜は目を輝かせながら、石畳の道を歩く。
「こういう城下町の雰囲気、ええよな」
那月も景色を楽しみながら歩く。
松山城は小高い山の上にあるため、ロープウェイを使って登ることになった。
「おぉー!結構高い!」
「…………」
「あ、瀬良くん怖いんだぁ」
美菜が瀬良をからかうように言うと、瀬良はムッとした顔をする。
「そんなことねーよ。ほら、ちゃんと景色楽しんでる」
「ふふっ、そうだね」
美菜はクスッと笑いながら、の隣に立った。
ロープウェイから見下ろす景色は絶景で、松山の街並みと瀬戸内海が一望できた。
「すごい……!」
美菜は感動したように窓の外を見つめる。
やがて山頂に到着し、四人は松山城の天守閣を目指して歩き出した。
「お城ってやっぱりいいなぁ。昔の人がここで生活してたんだよね」
「せやな。天守閣からの景色もすごいからね」
天守閣に登ると、そこにはさらに美しい景色が広がっていた。
「わぁ……!」
美菜は思わず声を上げる。瀬戸内海の穏やかな青、遠くに見える島々、そして松山の町並み。
「愛媛ってこんなにきれいなところなんだね……」
「まあ、悪くはないだろ」
瀬良は少し照れくさそうに言った。
***
お城を見学した後、四人は城下町の商店街で軽食を楽しむことにした。
「まずは、愛媛名物のじゃこ天!」
那月が注文し、揚げたてのじゃこ天を受け取る。
「これが噂の……!」
美菜はワクワクしながら一口かじる。
「……おいしい!魚の旨味がすごい!」
「酒のつまみにもなるしな」
「買って帰る?」
「田鶴屋さんが喜びそうだしな」
美菜達は歩いているとみかんソフトクリームを見つけ、興味本位で注文してみた。
「愛媛と言えばやっぱりみかん……やけどアイスって美味しいのかなぁ?」
実琴がみかんソフトを手に取り、美菜に渡す。
「どう?」
「うん!爽やかでとても美味しいです!」
「甘すぎなくていいよね」
「瀬良くんも食べる?」
「いらん」
「あ、方言出てる〜!」
美菜は瀬良の顔の前にソフトクリームを差し出しながら思わず笑ってしまう。
瀬良が恥ずかしそうにしている姿はとても愛おしい。
「ほら、せっかく来たんだから一口くらい」
「……仕方ないな」
瀬良は小さくため息をつきながら、一口食べた。
「……まあ、悪くない」
「ふふっ、素直じゃないなぁ」
美菜は楽しそうに笑った。
***
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方には瀬良の実家に戻ることになった。
誠と真由美が玄関先で見送ってくれる。
「本当にお世話になりました」
美菜は深々と頭を下げた。
「またいつでもおいで」
「せやな。美菜ちゃん、次はもっとゆっくりしていきなよ」
「ありがとうございます!」
「新羅、美菜ちゃんのこと、大事にするんよ」
「……わかってる」
瀬良が静かに頷く。
「美菜ちゃん!また来てね!」
「待っとるけんな!」
「ありがとうございます!お義父さん!お義母さん!」
美菜はタクシーの窓から笑顔で手を振りながら、瀬良と共に空港へ向かった。
こうして、瀬良と美菜、そして実琴と那月の愛媛の旅は幕を閉じた。
だが、この旅が皆の距離をさらに縮めたことは、間違いなかった。




