Episode157
瀬良の実家のリビングは、やはり広く、温かみのある空間だった。大きな木のテーブルの上には、豪華な食事が並べられている。
「わぁ……すごい……!」
美菜は思わず感嘆の声を漏らした。
煮物や焼き魚、手作りの刺身盛り合わせ、天ぷらに味噌汁まで、どれも手が込んでいて美味しそうだ。
「実琴も帰ってくるし、何より美菜ちゃんが来てくれるって新羅が言うから、少し豪華にしてみたのよ」
微笑む真由美の言葉に、美菜は「少し……?」と内心突っ込んだ。これを「少し」と言うのなら、普段の食卓はどれほど豪華なのか。
「ん? 実琴も帰ってくるのか。そういや兄貴は?」
瀬良が母親に尋ねると、真由美は「少し遅くなるって」と返した。
「そうか……まぁいいや、とりあえず飯食おう」
瀬良がそう言い、みんなが席につく。美菜は瀬良の隣に座るよう促され、少し緊張しながらも席に着いた。
「いただきます」
食事が始まると、真由美が美菜に興味津々な様子で話しかけてきた。
「美菜ちゃんはお料理するの?」
「えっ? あ、はい、一応……! 自炊は好きです!」
「まぁ、偉いわねぇ! うちの新羅も、見習ってほしいわ……」
「俺、別にそこまで料理下手じゃねぇし」
「え? そうなの?」
真由美が驚いたように美菜も瀬良を見つめると、瀬良は少し視線を逸らしながら答える。
「まぁ、手が込んだものは作らねぇけど」
「あらぁ……意外とちゃんとしとんやねぇ」
「意外ってなんだよ」
「いや、なんとなくコンビニのご飯とかばっか食べてそうやから……」
「……」
瀬良が若干むっとした顔をすると、先程帰ってきたのか、突如実琴が笑いながら口を挟む。
「新羅、昔から味のこだわりはあるからね。適当に済ませるのは好きじゃないタイプだよ」
「へぇ……」
美菜は納得したように頷く。確かに瀬良は、何気ない食事でも味にうるさいところがあった。
「おかえり、実琴」
「ただいまぁー」
実琴は空いた席に座り、美菜を見て「久しぶり!」と挨拶して会話を続ける。
「美菜ちゃんも、新羅の食生活管理してくれると助かるわぁ」
真由美も嬉しそうに美菜を見て話す。
「えっ!? そ、そんな、私が……!?」
「ん、まぁ……してもらえるなら、悪くはないけど」
瀬良がちらりと美菜を見ながらぼそっと呟く。
「えっ……?」
唐突な一言に、美菜の顔が熱くなる。
「おお、新羅もついに嫁さんに胃袋掴まれる日が来たか!」
突然、父の誠が豪快に笑いながら酒を飲み干した。
「えっ、い、いや、まだそんな……!」
「まぁまぁ、慌てなくてもええ。こうして一緒に飯食べとるだけでも、親としては安心するもんよ」
「そ、そうなんですね……」
誠の言葉に、美菜は少し緊張をほぐしながら、再び食事に手をつける。
(……思ってたより、優しい雰囲気のご家族かも)
最初はかなり緊張していたが、思っていたよりも和やかな空気だった。
「それにしても、新羅もやっと彼女を連れて帰ってきたか……」
誠がしみじみと呟くと、母親の真由美も微笑む。
「新羅ってね、小さい頃から無駄にクールだったのよ。もっと甘えればいいのに、すぐ一人でなんでもしようとするし」
「……要らん事言うなよ」
「だって美菜ちゃんにも知ってもらいたいじゃない?」
「やめろって……」
瀬良が恥ずかしそうに顔をしかめる。
多少方言も出てきているのに瀬良は気づいていないようだが。
「ふふ、瀬良くんの子供の頃の話、もっと聞いてみたいかも」
「おい」
美菜が興味津々な顔をすると、瀬良が小さくため息をついた。
「まぁまぁ、せっかくだから色々聞かせてもらおうかな」
にやりと笑う実琴に、美菜も「楽しみかも」と小さく笑う。
「……くそ、帰ってくるんじゃなかったかもな」
瀬良は呆れたように呟きながら、箸を進めた。
そんな穏やかな食卓の時間が、しばらく続いた——。




