Episode148
あれから1週間が過ぎた。
朝、美菜は目を覚まし、昨日まとめた荷物を持って急いで待ち合わせ場所へ向かう。心の中で、今日という日を楽しみにしている気持ちが膨らんでいく。
「……走ってきたのか?」
瀬良の声に振り向くと、彼が少し驚いた表情で立っていた。
「うん…!なんだか楽しみで…!」
美菜は嬉しそうに答えながら、少し息を切らしている。それでも、瀬良と過ごす一日を思うと、心の中のワクワクが収まらない。
瀬良は優しく笑って、美菜の乱れた前髪を軽く整える。その仕草がどこか余裕のある大人のようで、少し照れくさい気持ちになる美菜。
「……荷物、貸して」
「あっ、ありがとう...!」
瀬良はさりげなく荷物を持ち、二人で一緒に電車に乗り込んだ。駅のホームでのひととき、どこか緊張と興奮が入り混じっている。
「私、こんなに楽しみなの久しぶりだなぁ。それに遊園地なんて、学生の時の遠足以来かも!」
美菜が笑いながら言うと、瀬良も少し照れたように答える。
「俺もそんな感じだな。なんだか久しぶりだ。」
二人は並んで座り、電車の揺れに身を任せながら話を続ける。これから行く遊園地のこと、どんなアトラクションに乗るか、スマホで調べては笑い合った。
━━━━━━次は〜○○町〜○○町〜
アナウンスが流れ、二人は荷物を手に取る。
「先にホテルに荷物預けちゃおうか」
「そうだな」
電車を降り、二人はホテルに向かった。
どこか非日常的な空気が漂っていて、ホテルに到着した瞬間、美菜の目は大きく見開かれた。
「すごい、ここテレビで見たことあるホテルだ…」
美菜は驚きの声を上げると、瀬良が少し首をかしげた。
「有名なのか?」
瀬良はこういう事に疎い。美菜は内心、ホテルの値段を考えたが、あえてそれは口にしないでおこうと思った。
「お姫様になったみたい」
美菜が目を輝かせると、瀬良も同じように感心した表情を浮かべる。
「まるで城だな」
二人はその豪華な廊下を歩きながら、周りの装飾に驚きの声を上げていた。まるでおとぎ話の中に迷い込んだようだ。
「部屋、ここみたいだぞ」
瀬良が部屋の鍵を開けると、美菜は驚きながら中へ入った。部屋は広々としており、素晴らしい景色が窓から広がっている。思わずため息をついてしまうほどの美しさだった。
「わぁ…!」
美菜の声が部屋に響く。二人は部屋の中を見回すと、その豪華さに圧倒される。思わず、「こんなところ、私達が泊まっていいのかな?」と口に出してしまう美菜。それを察した瀬良も少し戸惑いながら、「でも、せっかくだから楽しもうな」とにっこり笑った。
(……あの三人、絶対張り切ってここ準備してくれたんだろうなぁ)
美菜と瀬良は、同じような気持ちを抱えながら顔を見合わせた。お互いに、どこか照れくさい気持ちがにじんでいる。
「お土産、たくさん買って帰ろうね」
「ああ」
***
荷物を置いて、二人は遊園地に向かう準備を始めた。
「……美菜、今日の服…似合ってるよ」
瀬良が静かに言うと、美菜はちょっと驚いたような顔をした。
「あっ…ありがと…」
普段、なかなか褒められることが少ない美菜は、照れ隠しに目をそらしてしまう。でも、その優しい言葉に心が温かくなるのを感じた。
瀬良はそのまま、美菜の手を優しく取る。まるで王子様のように美菜をエスコートするその仕草に思わずドキドキしてしまう。
「ふふっ……私、幸せだっ」
「よかったな」
瀬良の言葉に、美菜は満面の笑みを浮かべながら手を握り返した。二人はそのまま遊園地に向かって歩き出した。
***
遊園地に着くと、二人は目を輝かせながら、たくさんのアトラクションを見渡す。絶叫系の乗り物から子供向けのものまで、選ぶのが楽しみでたまらない。
「瀬良くん!次はあれ乗りたい!」
美菜が指をさすと、瀬良はその方向を見て少し眉をひそめた。
「……あれって?」
美菜が指さした先には、フリーホールがあった。高い場所から一気に落ちるそのアトラクションは、瀬良には少し怖いものだった。
「こういうのってお腹がひゅんってなるよね!」
「俺はそれが苦手だ……」
瀬良は顔をしかめる。
「……やめる?」
美菜が心配そうに尋ねると、瀬良は少し悩んだ後、静かに答える。
「いや、大丈夫。乗れはする。」
美菜はほっとして、順番に並ぶ。
いざ乗る番になり、二人はシートに座ると、アトラクションが急に動き始めた。上に上がるにつれて、美菜は興奮して顔を輝かせたが、隣の瀬良は青ざめた顔をしていた。
「…美菜、手握っておいて」
瀬良の声が震えているようで、美菜は思わず吹き出してしまった。
「あははっ!!ごめん、やっぱりやめとけば良かったね!」
美菜は手を強く握ると、フリーホールが一気に落ちる瞬間が来た。アトラクションは勢いよく落下し、美菜はその爽快感を楽しんだが、隣の瀬良は青ざめた顔のままだった。
それでも二人は、その後のアトラクションでも一緒に笑いながら楽しんだ。
***
アトラクションを一通り楽しんだ後、二人は遊園地のカフェで休憩を取ることにした。疲れた体をゆっくりと休めるため、木陰に座り、冷たいドリンクを手にした。
「ふぅ…楽しかったね」
美菜が満足そうに息をつきながら言うと、瀬良も小さく頷いた。
「ああ、楽しかった。こんなに笑ったの久しぶりだな」
瀬良は少し疲れた顔をしながらも、心から楽しんでいる様子だった。
「あ、瀬良くん、ちょっと待ってね」
美菜はふと、持ってきたバッグをゴソゴソと探り始めた。そして、瀬良に向き直りながら少し照れくさそうに言った。
「ん?どうした?」
「あのね、いつももらってばっかりだから…今日は私からも何か渡したくて...」
そう言って、美菜は小さな箱を取り出す。それを瀬良に差し出しながら、照れたように目を合わせた。
「これ、受け取って」
箱を受け取った瀬良は少し驚いた顔をするが、すぐに優しく微笑んだ。
「...ありがとう、美菜」
箱を開けると、中には小ぶりなサファイアのピアスが入っていた。鮮やかな青色が光り、シンプルながらも上品なデザインが、瀬良らしいものだと思って美菜は選んだ。
「サファイアって、なんだか瀬良くんっぽいかなって思って…」
美菜は少し恥ずかしそうに言いながらも、瀬良が気に入ってくれるといいなと思っていた。
「石言葉って知ってる?ダイヤモンドの石言葉は『永遠の愛』で、サファイアは『誠実』なんだって。なんだかそれを定員さんから聞いたら、もうこれしか目に入らなくなっちゃった」
美菜が少し話しながら、自分の耳元についた瀬良からのピアスと、胸元で輝くネックレスを愛おしそうに触る。
「『誠実』か…」
瀬良はその言葉を反芻するように呟き、ゆっくりとピアスを手に取った。
「これからもずっと、仲良くしていこうね」
美菜が笑顔で言うと、瀬良は少し目を細めて頷く。
「もちろん、俺もそう思ってるよ」
瀬良は静かにピアスを耳に付けると、その後、美菜を見つめて優しく微笑んだ。
「...美菜が選んでくれた事自体がやっぱり嬉しいな。ありがとう。大切につけるよ」
美菜はその言葉に満足そうに笑いながら、再び周りを見渡した。
「じゃあ、次はどこ行く?」
「まだまだ楽しみたいな。あっちの観覧車に乗ってみようか」
二人はお互いに笑顔を交わしながら、再び遊園地の中を歩き出した。
ピアスの輝きは、二人の絆を象徴するように、そっと耳元で光っていた。




