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Episode131

※一応先に書きますが男性同士のキスシーンがありますので苦手な方はこの話は読まなくても大丈夫です。



「よーし! みんな、改めてお疲れさーん!」


木嶋が勢いよくジョッキを掲げ、テーブルに並ぶ料理と酒に視線を落とす。


「おつかれさまでーす!」


「お疲れ様です」


「……お疲れ様です」


千花と美菜は笑いながらグラスを掲げ、百合子が控えめにグラスを持ち上げ、皐月もそれに倣って軽く会釈した。


「いやー、今回の大会、すっごい盛り上がりでしたね! 瀬良先輩もかっこよかったですし、美菜先輩のアシストも完璧だったし!」


千花が箸を持ったまま満面の笑みを浮かべ、瀬良と美菜を交互に見る。


「まあ、瀬良の注目度は異常だったよなー。俺がいなくても注目されちゃってぇ〜!この〜!」


途中から会場を見ていた木嶋が笑いながら瀬良の肩を軽く叩く。

瀬良は少し眉をひそめて木嶋の手を振り払った。


「お前、酔うの早くないか」


「は? まだ一口しか飲んでねーし! 俺はもともとテンション高いんだよ!」


「……確かに、いつも通りだね」


美菜が苦笑すると、皐月も「ですね」と静かに頷いた。


「瀬良くんは試合中、めちゃくちゃ冷静だったよね。私、内心めっちゃ焦ってたのに」


「そっちが冷静じゃない方が珍しいんだけど」


「え、そんなことないよ?」


「ある」


「えー?」


美菜が軽く唇を尖らせると、瀬良は少し口元を緩めながらグラスを傾けた。


「……伊月さん、打ち上げまで参加してくれてありがとうございます」


美菜がふと視線を向けると、隣に座っていた伊月はじっとグラスを見つめていた。


「……僕は美菜ちゃんがいたから来ただけだよ」


「えー? それってつまり、美菜ちゃんの事まだ好きってことぉ?」


「……」


木嶋の茶化すような言葉に、伊月は答えずにゆっくり酒を口に含んだ。


「でもざんねーん!!もう美菜ちゃんは瀬良くんの彼女なので美菜ちゃんセコムが発動しちゃいます!!」


「「……あっ」」


美菜と千花は思わず声が出てしまった。

ちらっと見ると、皐月と百合子が驚いた表情をしていた。


「……お前はまず、落ち着け」


「…………はい」


木嶋は汗をタラタラとかきながら小さくなっていく。

間違いなく失言だった。


「……先輩たちやっぱり付き合ってたんですね」


「まあそんな気はしてましたけど」


「あ、あはは〜、あんまり仕事に恋愛は持ち込まないようにはしてたんだけどね〜……」


美菜は笑って誤魔化すが知られてしまったからには仕方ない。

千花がフォローしつつ、皐月と百合子にも付き合っている話をした。


「別に迷惑がかかってるわけでもないし、いいんじゃないですか?」


「そうですよ!私たちは応援します!」


皐月と百合子も特に異論を言う理由もないので美菜を見て微笑む。

美菜は安心して今後もサロンワークができそうだ。


「ありがとね」



***



賑やかなやりとりが続く中、美菜はちらりと瀬良の横顔を見た。


「……瀬良くん、楽しんでる?」


「……まあな」


瀬良はそう言いながら、さりげなく美菜のグラスに酒を注いだ。


「……ありがとう」


小さく微笑んだ美菜の視線に、一瞬だけ瀬良の目が優しく細められた──。


だいぶ料理もお酒もすすみ、木嶋と千花のテンションはかなり上がっていた。皐月と百合子は二人のだる絡みに捕まっていたが、美菜たちはあえて触れなかった。


「おーい、お疲れぇ〜!」


個室の扉が突如開き、全員がそちらを見る。


「あ!田鶴屋さぁん!お疲れ様ですー!」


それぞれが挨拶をし、千花が呼んでいた田鶴屋が合流する。


そしてまず最初に、事情を聞いていた田鶴屋は伊月を見て頭を下げた。


「伊月くん、今回はモデル引き受けてくれてありがとうございました。店長としてお礼を言わせてもらいます。」


「いえいえ、お気になさらず。僕も自分の意思でしただけなので。」


「助かったよ。ありがとう。」


田鶴屋はそれだけ言うと過去の事は触れず、運ばれてきたお酒のグラスを持って改めて乾杯の音頭をとった。


「遅くなったけど、河北さんと瀬良くんの優勝おめでとうー!かんぱーーい!」


「かんぱーい!」


できあがった千花と木嶋は田鶴屋に続きお酒を煽る。

3人は楽しそうに話していた。


「いやー、今回の大会で学んだね!こーゆーイベントの時はお店はお休みにしてスタッフの勉強会として全員で行くべきだったね!」


「そうですよぉー!田鶴屋さんの予約が埋まってたから仕方なく営業もしたけど、モデルがいなくなる可能性が今後もあるんですからぁ!」


「すみませんでしたぁぁあ!」


木嶋弄りを楽しみつつ、田鶴屋は皐月と百合子の事も評価していた。

二人は労いの言葉に嬉しさを覚えつつ、千花に向かって改めてお礼を伝える。


「モデル、ありがとうございました」


「私たち……千花先輩がいたから頑張れました」


その言葉を聞いた千花が涙を流して二人を抱きしめる。お酒のせいもあるのか千花は感情的になっていた。


「うわぁぁぁん!こっちこそだよぉぉ!でも上手く歩けなくてごめんねぇ!」


「そ、そんな!あんなの誰だって緊張しますよ!」


「……千花先輩はやれるだけの事はやってくださいましたよ。」


「うわぁぁぁあん!二人とも大好きだよおおお!」


それを見ていた木嶋も一緒に涙する。


「うんうん、青春だねぇ。」


傍から見ると若干めんどくさい事になっていきそうだったので、美菜と瀬良と伊月は少し席を離して飲むことにした。


「そういえば伊月さんって今はなんのお仕事されてるんですか?」


「ん?今は株の投資だよ。意外と上手くいったからもうこれで遠分は過ごすかなぁ。」


「投資……すごいですね」


「美菜ちゃんならいつでも養えるから言ってね」


「えっ……」


その言葉を聞いてか、瀬良がドカっと間に座り不機嫌そうに伊月を睨む。


「……やだなぁ冗談ですよ」


「今回の事は助かった。が、美菜に今後何かしたら許さないからな。」


「はいそこ喧嘩しなぁぁあい!」


酔った木嶋が伊月と瀬良の間に入り、場を収める。

木嶋に煽られながら、伊月と瀬良はお酒を進められた。



***



楽しい打ち上げも、時間が経つにつれて全員かなり酔いが回ってきていた。


「そろそろお開きにするかー」


田鶴屋がグラスを置き、締めに向かおうとしたその時だった。


「……木嶋さん」


静かだった皐月がふらりと立ち上がり、木嶋をじっと見つめる。


「……!?!?!?」


木嶋は酔いのせいか、視線の鋭さに恐れをなしたように身を引いた。


「……皐月くんどーしたのかな〜?なーんか近くないかなぁ〜……?」


しかし、次の瞬間──


「……んっ」


「!?!?!?」


皐月が木嶋の首に手を回し、まさかのキス。


一瞬の出来事に、場の空気が凍りついた。


「……きゃああああああ!!!」


千花と百合子がキャーキャーと騒ぎ出し、個室の熱気が一気に上がる。


「ちょ、え、ま、まじで!?」


木嶋は完全にパニックになり、顔を真っ赤にしながら呆然としていた。


美菜と瀬良は何も言えず、その光景を見つめていたが──


「……」


瀬良は美菜の肩をぐっと引き寄せるようにして、さりげなく庇う。


(……瀬良くん、今守ってくれてる……?)


美菜は驚きつつも、瀬良の優しさにほのかに嬉しさを覚えた。


しかし、事態はこれだけでは終わらない。


「……伊月さん」


「ん?え?ぼ、僕!?」


「んっ」


「っ……!?」


まさかの二度目。

皐月はターゲットを変え、今度は伊月にキス。


「……きゃぁ!伊月海星の生キスシーン……!」


千花は顔を覆いながらも、指の隙間からガッツリ見ている。


「これは……」


百合子に至っては、興味深そうにガン見していた。


「……ん、んん!? さすがにこれは──」


伊月はさすがに耐えかねたのか、すぐに皐月を引き離した。


「はい!しゅーりょーーー!」


田鶴屋が立ち上がり、皐月を捕獲する。


「もうだめだからねーー! レッドカードでーす!!皐月くん、撤収!!」


「……ふふっ、お酒ってすごいですね……」


「ち、千花には激しすぎましたよ……」


ふらつきながらも、皐月は静かに回収された。


「……いや、最後の最後でとんでもないもの見たんだけど」


木嶋が頭を抱え、伊月はため息をつき、美菜は瀬良の袖をそっと掴んだまま、呆然としていた。


こうして、騒がしくも愉快な打ち上げは幕を閉じたのだった。


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