Episode129
会場の空気がどんどん熱を帯びていく中、美菜と瀬良はランウェイに並ぶモデルたちをじっと見つめていた。
大きなテーマ「モダン」に基づく、このショーの中で、二人のサブテーマは「ユニセックス」だ。
男とも女ともとれる、そんな抽象的で美しい魅力を持つ伊月が、そのテーマをどれだけ表現できるかに全てがかかっている。
「表現するってこんなにも難しいんだね…」
美菜が少し息を呑みながら呟いた。
目の前を歩くモデルたちはどれも素晴らしく、時に自分の役割が分からなくなるほどに圧倒されてしまう。
プロのモデルが多数登場する中で、まるでこの世界が自分とは違う場所であるかのように感じることもある。それが、このランウェイのすごさだ。
***
ようやく千花の番になり、ランウェイを歩いているがどうしても緊張が抜けないようだ。
少しポーズが決まらず、歩く足取りもおぼつかない。
(千花ちゃん……頑張って!!)
美菜は心の中で声をかけ、瀬良と共に千花を見送る。
「もう少しあのあがり症治した方がいいよな」
瀬良が冷静に言葉を続ける。
しかし言葉には温かさがあり、千花を励ます意図が込められている。
千花を近くで見終わったのか、皐月と百合子が合流し四人で「お疲れ様です」と互いに声を掛ける。
あたりは客席からの歓声と流れるBGMに包まれかなり盛り上がっていた。
***
その後登場したのは星乃と津田が担当したモデルだった。
会場が暗転し、一気に空気が変わる。
緊張していた美菜はその熱気に飲み込まれてしまいそうだ。
そしてまさに今、テレビでよく見かける人気モデルがランウェイを歩き出す。
スカートを翻し、堂々とランウェイを歩く姿に観客は釘付けだ。
「すごい……」
「モデルの知名度もあるけど、カットもメイクもあのモデルにあったものにちゃんと仕上げてきてるな……」
美菜はその様子を、息を呑んで見守った。
自分の魅せ方を知り尽くしている、まさにプロだ。
美菜は無意識のうちに、瀬良の手を握ってしまった。
「……大丈夫だ。あいつは俺たちの全てを伝えてくれる」
「うん……」
瀬良の言葉に、美菜は少しだけ力が抜ける。
「やれるだけの事はしたんだ、信じてみよう」
モデルはランウェイを歩き終えると、手を振りながら裏手へと下がった。観客は拍手でその功績を称えていた。
***
そして、ついに伊月の番が来た。
美菜は心の中で祈るようにその瞬間を待った。
「お願い……!頑張って!」
会場が一瞬、暗転する。
そしてBGMが伊月にぴったりなものに切り替わると、ライトを浴びながら伊月が姿を現した。
「きゃーーー!伊月くんだ!」
「えー!モデル復帰したのかな!?」
「雰囲気全然前と違うね!!すごい!!」
「モデルだったの?知らないけど綺麗に仕上がってんなー」
「伊月くーーーん!」
瞬間、観客から歓声が上がった。
それは伊月の元ファンも、伊月を知らない人も全てを巻き込み会場全体が一気に盛り上がった。
伊月は歩き始めると、MCがその紹介を始める。
伊月のユニセックスを感じさせる魅力を、言葉で表現していく。
「これが伊月さん…」
美菜はその姿を見つめながら、息を呑んだ。
言葉では言い表せないような美しさが、伊月にはあった。
ユニセックスというテーマを最大限に活かした姿。
その立ち振る舞いは、まるで芍薬のように品があり、歩く姿は百合の花のように優雅だった。
観客の目線は、彼の体の隅々まで追っている。伊月の指先が動くたびに、男性も女性も魅了されていく。男女問わず、全ての視線が伊月に釘付けになっていた。
寧ろ“自分を見ろ”と言わんばかりの自信だ。
美菜はそ何度も心の中で「頑張れ!」と声を上げた。自分の担当したモデルが、こんなにも堂々とした姿でランウェイを歩くことができるなんて、信じられないほど嬉しかった。
「……やるな」
瀬良も伊月を認めるかのように呟く。
施術者の意図を読み取り、伊月は最大限に魅せていた。
中央で伊月がポーズを決め、会場は盛り上がりのピークを迎える。大きな画面に映し出された伊月は満足そうな顔をしていた。
そして振り向いた彼の視線が、美菜とぴったり合う。目が合った瞬間、伊月は優しく微笑んだ。その笑顔が、会場の熱気をさらに引き上げる。
「すごい……」
美菜はつい声を漏らした。その瞬間、周りの女性たちも、伊月に魅了され、黄色い声を上げているのが聞こえた。百合子ですら、その魅力には抗えなかったようだ。
そして、伊月はそのままランウェイを終え、堂々と歩いて帰る。その後ろ姿に、会場からは大きな拍手が送られ、全てが伊月のものになった。
「すごかったですね……!」
百合子が感嘆の声を漏らす。
「まさに主役だな」
瀬良も静かに言った。
美菜はその後、伊月が裏手に去るのを見送りながら目頭が熱くなるのを感じる。
「伊月さん、ありがとう。本当にありがとう……!」
伊月はその歩き方で、サブテーマのユニセックスの美しさを最大限に表現し、全ての人にその魅力を伝えた。それはまさに、伝えたい想いを形にした瞬間だった。
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