Episode12
忙しい業務をこなし、昼休憩の時間になった。
美菜はスタッフルームのソファに座り、ふうっと息をつく。お昼を食べる時間もあまりなく、ようやく落ち着ける時間だった。
そこへ、コーヒーのカップがすっと差し出される。
「……はい」
「え?」
美菜が顔を上げると、目の前には瀬良。無言でコーヒーを持ってきたらしく、気だるそうにしながら隣に腰を下ろす。
「なに、瀬良くんが差し入れ?」
「たまたま買ったついで」
「ふーん?」
素直じゃないな、と思いながらも、美菜はありがたく受け取った。
「……ありがと」
「別に」
瀬良はカップを軽く傾けながら、一口コーヒーを飲む。
二人とも特に深い会話をするわけでもなく、しばらくはぼんやりとコーヒーをすすっていた。
けれど、沈黙が長く続くのも気まずい。
美菜は何か話題を探し、ふと思い立ったように尋ねた。
「瀬良くんって、普段休みの日は何してるの? やっぱりゲーム漬け?」
瀬良は「んー」と少し考えるような間を置いたあと、
「まあ、ゲームがほとんどかな……。あ、でも最近ゲーム仲間が推してるVTuberの…名前何だっけな。……んー、あっ、“みなみちゃん”って人の配信は、俺も見てるかな」
「――っ!?」
美菜は危うくコーヒーを吹き出しそうになった。
(えっ、えっ、ちょっと待って……! それ、私なんですけど……!!)
なんとか平静を装いながら、慎重に尋ねる。
「へ、へぇ〜、みなみちゃんねぇ〜。……面白いの?」
「まあ……まだ数回しか見てないけど。でも、なんかゲーム実況してるときのあのテンションとか話し方とか、妙に引き込まれるんだよな」
(うわああああ!!)
美菜は心の中で叫びながらも、顔には出さないよう必死に耐える。
「へ、へ〜、ちなみにどのゲーム実況?今度私も見てみよっかな〜……なんて……」
「……?俺もガッツリ見たわけじゃないから忘れたんだけど、確かRPGだったような……あ、河北さんに勧めたやつもしてたかな?」
「ふーーーーん!なるほどなるほど!なるほどね!」
とりあえずそう言っておくが、瀬良は何気なく続けた。
「そういえば、なんかどことなく河北さんに似てるんだよね」
「っ……!」
(え、え、え……!?)
美菜の頭の中が一気にフル回転する。
(ど、どうしよう!? バレた!? いや、でも、ただ雰囲気が似てるって思われてるだけかもしれないし……!?)
「だからかな。なんか応援したくなる」
「え……」
その言葉が、やけに素直に聞こえた。
美菜は焦りながらも、なぜか心臓がドクンと跳ねるのを感じる。
瀬良は特に気にした様子もなく、コーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「じゃ、戻る」
そう言って、美菜を置いて休憩室を出ていく。
美菜は、ぽつんと一人残されたまま、カップを握りしめた。
(バレてる……? いや、バレてない……? どっち……!?)
分からない。分からないけれど、一番分からないのは――
(瀬良くんの、ちょくちょく見せるあの気持ちって……なんなの……?)
コーヒーの熱がまだ残る指先を見つめながら、美菜はぼんやりと考え込んでいた。