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Episode124



皐月と百合子がサロンに入ってから数ヶ月が経ち、気づけば夏の足音が近づいていた。


二人はすっかり仕事に慣れ、サロンの雰囲気にも溶け込みながら、アシスタント業務を順調にこなしている。次第に多くのスタッフからも掛川の事は皐月くん、若月の事は百合子ちゃんと親しみを込めて呼ばれるようになっていた。


そして最近最も力を入れているのが、この夏に行われる美容メーカー主催の大会だ。

大会の内容は、メイクとカットの担当で協力し、仕上げは二人で行うものだ。


皐月と百合子はペアを組み、日々練習に励んでいた。


「大会はもうすぐだよぉー!二人とも、しっかり準備しなきゃ!!頑張ろうね!皐月くん、百合子ちゃん!」


千花がニコリと微笑みながら言うと、皐月と百合子はしっかりと頷く。


「はい!よろしくお願いします」


「優勝狙いましょう」


千花は二人の先輩であり、頼りになる存在だ。

サロンワークをしていくにつれ絆を深めあい、二人の面倒をよくみていた千花が今年はモデルを引き受けた。


営業や練習の後、三人は集まって作戦を練り、どんどん大会への準備を進めていく。


皐月はメイク担当、百合子はカット担当、仕上げは二人で協力して行うという流れだ。


「千花さん、いつも本当に助かります」


皐月は千花に頭を下げいつものように練習にとりかかる。


「ふふふ、気にしないでいいんだよぉ〜。私も応援してるから、思いっきり頑張ってね」


「ありがとうございます!おかげで心強いです」


百合子が嬉しそうに笑うと、千花は軽く手を振って答えた。


入社したての頃の百合子とは異なり、日常的にかなり自然な笑顔が増えてきた。

千花と一緒にいたおかげもあるのだろう。

百合子は真面目に、しかしどこか安心してサロンワークができていた。



***



「……いいね、なんかチームって感じ!」


「ああ、伊賀上がいい感じに中和してんだろうな」


一方、田鶴屋の声かけもあり、美菜と瀬良も大会に出ることが決定していた。

普段から仲良くしているメンバーだが、この大会に関しては良い意味でのライバル関係が生まれている。


「千花ちゃんたち、かなり本気みたいだね。私たちも負けてられないね」


「やるからには勝つ」


美菜と瀬良は皐月と百合子の練習を見て、自然とやる気が湧いてきた。



***



遡る事数ヶ月前━━━


田鶴屋に声をかけられた時、ペアを組んで大会に出るなら……と美菜は考え、やはり一番最初に浮かんだのは瀬良だった。


美菜は瀬良に相談を持ちかけると、彼はしばらく考えた後、ニヤリと笑いながら言った。


「モデルさえ見つけられれば、俺も美菜と出たい」


その言葉を受けて、美菜はモデルをどうしようか悩み、すぐに木嶋を思い浮かべた。


「じゃあ、モデルは木嶋さんにお願いしようかな。あの人なら華やかで大会にもぴったりだし」


「木嶋か。確かに、顔はモデル並みだよな」


「うん、なら木嶋さんに相談してみよっか!」


美菜は笑顔でそう言って、木嶋にモデルをお願いすることを決めた。


「……とうとうこの日が来てしまったか……。実は俺も自分自身の潜在能力には薄々勘づいてはいたんだ……。この秘められし整った顔!!!今こそ発揮すべき!!そう!時はキタッッ!!!!」


「……美菜、やっぱりこいつにモデル頼むの間違いじゃないか?」


「うーん……まあ木嶋さんもノリノリだし……」


美菜は苦笑いを浮かべながら瀬良と相談する。

木嶋のテンションはモデルの話が出た途端爆上がりしていた。


「いやー、俺も千花ちゃんや新人ちゃんたち見てたら面白そうだなーって思ってたのよ。俺大会とか出た事ないからさー。しかも協力プレイって最高じゃね?大会攻略この3人ならできんじゃね!?」


「ゲームする時みたいに言うなよ……」


「まぁまぁ瀬良くん、木嶋さんもせっかく受けてくれたし、みんなで頑張ろう?」


同じサロンからの出場ということもあり、ライバル心が少しずつ芽生えていたが、それでもお互いに切磋琢磨しながら成長していくことに意義を感じていた。


今回、美菜はメイク担当、瀬良はカット担当で、二人は練習に取り組んでいく。


「木嶋さん、次のお店の定休日に衣装を3人で買いに行こうか」


「おっけー!俺基本何でも似合うから、美菜ちゃんたちがコーディネートしてくれたんでいいからねー!」


木嶋の頼もしい言葉に、美菜は少し照れたように微笑んだ。



***



営業後や休みの日には、三人で衣装や道具を整える時間が増え、仲良く過ごす時間も増えていった。

練習の合間には冗談を言い合ったり、お互いの意見を交換したりすることが多くなり、だんだんと絆が深まっていくのを三人は感じていた。


「なんだか三人でゲームしてるみたい」


美菜の何気ない一言に瀬良と木嶋は微笑む。


「だな」


「だよねー!協力プレイ!協力プレイ!」


大会が近づくにつれて、緊張感が高まる中でお互いを支え合いながら、どんどん本番に向けて準備が整っていくにつれ、一体感が生まれる。


美菜も、メイクでどんな作品ができるのか、どんな結果を残せるのか、楽しみで仕方がなかった。

そして、瀬良も真剣にカットに取り組み、常に美菜をサポートしてくれる姿に、彼女はさらにやる気を燃やしていた。


大会当日が近づくにつれて、みんなの心の中で、ただ一つの目標が固まっていった。それは、誰が一番良い作品を作り上げるかということ。


先輩、後輩、仲間……そんな肩書きを無視して、全員がそれぞれで燃えていた。



***



そして大会当日がやってきた。


緊張感と興奮が入り混じる中、サロンのスタッフたちは早朝から会場に集合し、最終確認を行っていた。会場の空気は、まるで勝者を決める戦場のようで、誰もが真剣な眼差しで各々の準備を進めていた。


美菜は大会会場の一角に座り、メイク道具を整えながら心を落ち着けようとしていた。

しかし、隣に座る瀬良の姿を見ると、なんだかその冷静な雰囲気に安心感を覚える。


「大丈夫、俺がついてる」


瀬良が自然に声をかけ微笑む。その一言が、美菜の不安を一瞬で消し去る。


「ありがとう、瀬良くん。私も頑張るよ」


美菜は真剣に頷き、改めて大会に挑む決意を固めた。


その頃、木嶋は会場内をウロウロと歩き回りながら、「モデルとしての自覚を持て!」と自分に言い聞かせている様子だ。木嶋はこの大会に向けての準備が本気で楽しいようで、そのテンションの高さは大会前の緊張感を和らげるのに一役買っていた。


「おう、二人ともー?準備はできてるかー?今日の俺、最強だからな!」


木嶋が大きな声で言うと、笑いが漏れる。


「ありがとね、木嶋さん」


美菜は笑顔で返しつつ、心の中で確信していた。

この大会はどんな結果になろうとも絶対に成功させる。

そう決めていた。



***



大会が始まる前の最終リハーサルでは、皐月と百合子も真剣そのものだ。お互いの呼吸を合わせるように何度も何度も練習を繰り返していた。


「あと少しで本番だね。皐月くん、頑張ろうね」


百合子が明るく言うと、皐月も静かに頷く。


「はい、全力を尽くします」


「二人とも、全力で千花を輝かせてね!」


「「はい!!」」


それぞれが自分の役割に集中し、心をひとつにして大会に挑んでいた。


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