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Episode11



次の日。


夢のせいで朝からずっと落ち着かない。


朝練の時間になり、美菜と瀬良はいつものようにカットの練習を始めたが、美菜はどこかぎこちない。


(なんで夢にまで出てくるのよ……!)


瀬良が近くにいるだけで、昨夜の夢を思い出してしまい、まともに顔を見られない。


そもそも、朝練中は無駄な会話はほとんどない。瀬良は元々黙々と練習するタイプだし、美菜もそれに合わせていた。


けれど、今日は違った。


瀬良が珍しく、じっと美菜を見ている。


「……お前、何か悩んでるのか?」


美菜は思わずビクッと肩を揺らした。


(ど、どうしよう……! まさか夢に瀬良くんが出てきたせいで集中できない、なんて言えない……!!)


「べ、別に? なんでもないよ!」


慌てて答えると、瀬良は少し眉を寄せる。


「……そうか」


それ以上は追及せず、また静かに練習を続ける瀬良だったが、美菜の様子がどこか落ち着かないのは明らかだった。


(気のせいかもしれないけど……ちょっと赤くなってないか?)


瀬良はちらりと美菜の横顔を盗み見ながら、首を傾げた。



***



後輩たちも朝練に合流し、店のオープン準備が始まる。


美菜は鏡を拭いていると、隣の席で店長の田鶴屋晃たづや こうが同じように掃除をしながら話しかけてきた。


「業績も上がってきてるし、美容師の仕事は楽しいか?」


田鶴屋店長はスタッフ全員から慕われる存在で、技術も接客も一流のカリスマ美容師だ。


「はい! 楽しいですよ。でもやっぱり、先輩方が教えてくださったことが今の私につながっていると思います。それに、まだまだ足りないこともあるので、もっと勉強していきたいです!」


美菜は謙虚に、けれど力強く答えた。


田鶴屋は少し驚いたように目を丸くした後、穏やかに微笑む。


「頼もしくなったなぁ……」


そう言いながら、ガシガシと美菜の頭を撫でた。


「わっ……!」


美菜は少し驚いたが、嫌ではなかった。


「店長、それセクハラって言われますよ~?」


冗談っぽく笑いながら、美菜も店長と一緒に笑う。



***



――その様子を、受付カウンターから瀬良がじっと見ていた。


別に、店長が美菜を特別扱いしているわけではないことはわかっている。


ただの信頼関係だ。先輩として、後輩を可愛がっているだけ。


(……なのに、なんだ、このモヤモヤは)


瀬良は少し眉を寄せた。


店長が美菜の頭を撫でたことが引っかかる。


(……いや、俺もやってるし)


そう、自分も美菜の頭を撫でたことはある。


でも――


(……なんか、違う)


瀬良は無意識に立ち上がり、店長と美菜の元へ向かった。


「店長、今日の件でちょっと確認したいことがあるんですけど」


「お、なんだ~?」


田鶴屋は美菜を撫でる手を止め、瀬良と予約表を見ながら話し始める。


そして、しばらくして店長は受付のパソコンへ戻り、瀬良と美菜だけが残った。


瀬良は無言で、美菜のほうを見る。


美菜の髪は、田鶴屋に撫でられたせいで少しくしゃっとなっている。


(……なんか、気に入らねぇ)


瀬良は無言で美菜の頭に手を伸ばし、くしゃっと撫でた。


「えっ……?」


驚いて目を丸くする美菜。


それは店長のときよりも、どこか新鮮な反応だった。


「ばーーか」


瀬良はそれだけ言うと、軽く指先で美菜の髪を整え、何事もなかったように業務に戻っていった。


美菜はしばらく呆然としていたが、徐々に顔が熱くなっていくのを感じる。


(な、なに、いまの……!?)


撫でられた部分がじんわりと熱を持つような気がして、美菜は思わず頬を両手で押さえた。


(瀬良くん、なんで急に……?)


モヤモヤしているのは、美菜のほうも同じだった。

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