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Episode103



瀬良の家に戻ると、二人は買い物袋を片付けてから、リビングのソファに腰を下ろした。さっそく美菜がゲーム機を起動し、買ったばかりのソフトをセットする。


画面にタイトルロゴが表示され、ロードが始まる。その間、瀬良がふと口を開いた。


「そういえば、みなみちゃんの配信って何が楽しいんだ?」


美菜は少し考えてから、ゆっくりと答える。


「うーん……やっぱり、リスナーさんと交流できるのが一番かな。みんなのコメントを読んで話したり、リアクションしたりするのが楽しいんだよね」


「なるほどな」


瀬良はコントローラーを手に取りながら、興味深そうに頷いた。


「どんな配信が好きなんだ?」


「雑談も好きだけど、やっぱりゲーム配信が一番楽しいかな。好きなゲームをみんなと一緒にプレイして、ワイワイ盛り上がるのがすごく楽しくて」


「お前の配信、人気あるもんな」


「ふふ、ありがと。でも、やっぱりリスナーさんがいてこそだよ。私一人じゃ成り立たないから」


美菜はそう言って微笑む。瀬良は画面を見つめたまま、少し考え込むような表情をした。


「……お前にとって、みなみちゃんはどんな存在なんだ?」


「え?」


「VTuberって、ただの趣味とか仕事とか、そういう枠じゃ収まらない気がする。お前にとっては、どうなんだ?」


美菜は少し目を瞬かせた後、静かに答えた。


「うーん……そうだなぁ。たしかに最初は趣味だったけど、今はもう、みなみちゃんは私の一部みたいな感じかな。美菜としての私も、みなみちゃんとしての私も、どっちも本当の私だから」


「……そっか」


瀬良は短く返すと、美菜の言葉を噛み締めるように黙った。しばらくして、ゲームが始まり、二人は操作を確認しながらプレイを進めていく。


「瀬良くんはさ、大会で優勝した時、どんな気持ちだった?」


美菜の問いかけに、瀬良は少しだけ指を止めて考え込む。


「……達成感はあった。でも、満足はしてない」


「そうなんだ?」


「勝てたのは嬉しいけど、まだまだ課題もあるし、上には上がいる。次はもっといいプレイをしないとって思った」


「真面目だね」


美菜がくすっと笑うと、瀬良は少しだけ肩をすくめた。


「木嶋さんとはどんな感じ?」


「気楽だな。昔からの仲だし、プレイスタイルも理解してるからやりやすい」


「へぇ……息ぴったりだもんね」


「まあな」


そんな他愛のない会話を交わしながら、二人はゲームを進めていく。時間が経つのも忘れるほど、夢中になっていた。



***



気づけば夜も更け、ゲームを終えた二人は並んでソファに座り、静かにくつろいでいた。雑談をしながらコントローラーを動かし過ぎた手を休める。


画面にはゲームロビーのBGMだけが響いている。

二人で話すには丁度良かった。


「こうやって、のんびり話すのも悪くないな」


瀬良がふと呟く。


「うん……私も、すごく楽しい」


美菜は瀬良の肩にもたれながら、目を閉じた。彼の体温が心地よく伝わってくる。こうして何気ない時間を一緒に過ごせることが、何よりも幸せだった。


画面の光がぼんやりと部屋を照らし、穏やかな空気が流れる。


「……瀬良くんって、ゲーム始めたのっていつ頃なの?」


ふと、美菜が口を開いた。


「小学生の時。姉貴に勧められたのが最初だった」


「え、お姉さんに?」


「ああ。実琴がやたらと強くてな。最初は負け続けて、悔しくて本気でやり込んだ」


瀬良は思い出すように少し笑い、美菜もその様子を微笑ましく見つめる。


「それでいつの間にか、プロゲーマーに?」


「気づいたらそうなってた。ゲームが好きで、もっと強くなりたくて続けてたら、結果的にプロになってたって感じだな」


「すごいよね……だって、プロってほんの一握りしかなれないんでしょ?」


「運もあるし、タイミングもある。でも結局、やり続けるやつが強くなる」


瀬良の淡々とした口調には、揺るぎない自信があった。美菜はそんな彼を改めて尊敬する。


「でもさ、やり続けるのって簡単じゃないよね。モチベーションとか、維持するの大変そう」


「そうだな……俺は単純に、勝ちたいって気持ちが強かった」


「負けず嫌い?」


「昔からな」


「……そっか。だから、あんなに強いんだね」


美菜はしみじみと呟くと、瀬良は少しだけ視線を逸らした。


「お前だってそうだろ。配信、ずっと続けてる」


「うん。でも、私の場合は瀬良くんと違って、そこまでストイックじゃないよ。ただ、楽しいから続けてるだけ」


「楽しいって思えるのは強い」


瀬良のその言葉に、美菜は一瞬驚いた。


「……そうかな?」


「そうだ。好きで続けられるやつが、一番伸びる」


その言葉は、彼自身の経験から出たものなのだろう。シンプルだけど、重みのある言葉だった。


「じゃあ、瀬良くんは今も楽しい?」


「……楽しいよ」


少しの間を置いて、瀬良は静かに答えた。


「でも、もっと上にいきたいとも思ってる」


「なるほど……」


美菜は彼の横顔を見つめながら、心の中でふと考えた。


(私はどこまでいきたいんだろう?)


みなみちゃんとしての活動は順調だ。リスナーも増え、人気もある。でも、これから先、どこまで続けるのか。どこを目指すのか。明確なゴールを決めているわけではなかった。


「美菜」


瀬良が呼ぶ。美菜が顔を上げると、彼はゆっくりとした口調で言った。


「お前は、これからもVTuberを続けるのか?」


「……うん。続けたいって思ってる」


「そっか」


瀬良はそれ以上何も言わなかったが、どこか安心したような表情をしていた。


二人は再び静かに並んで座りながら、ゲームロビーの光を眺める。


「ねぇ、もう一戦やる?」


「……いいぞ」


瀬良はコントローラーを手に取り、美菜も笑顔でそれに倣った。


こうして、二人の夜はもう少しだけ続いていった。


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