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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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王都とテイラー領の今③ 地下帝国のドン

 パンパン、手を叩いて場を仕切り直す。


「えー、主催者が隠れちゃったので進行を代わります。とりあえず解った事を整理しましょうか」

 特に異議は無いようで、隠れたザコル以外の皆が頷いた。



 テイラーからマネジ宛に届いていた普通の報告書に、暗号文による補足を加える。それによって、今までざっくりとしか判っていなかった事がより詳細に浮かび上がってきた。



 テイラー邸は現在、かなりカオスな状況になっているらしい。


 私とザコル、そしてアメリアとハコネ、氷姫護衛隊や諜報員で構成された監視チームなどがごっそりいなくなった邸だが、その代わり、ホノルの父ボストンが率いる第一騎士団の半数が戻ってきて、邸の警護に加わっているようだ。

 それから、例の新聞ジャックのために保護する事になった新聞社や印刷所の関係者が使用人に扮し、邸の敷地内で過ごしているという。その数、なんと五十人強。

 猟犬ファンの集いの本会員なのはごく一部であるため、ほとんどが巻き添えも同然。しかしそんな非会員の彼らも、猟犬と氷姫を庇う記事内容には納得して協力してくれたのだという。本会員達の地道な布教の賜物のようだ。


「私達みたいな部下連中が他にもいるという事ですよね! いやあ、知り合えば仲良くできそうだ!」

 カファはまだ見ぬ同類に思いを馳せている。

「…それ、お兄みたいなのに振り回されてる人達って事だよね? まあ、このお二人のために働けた事は幸運でしょうけれど…」

 気の毒に、という言葉をすんでのところで飲み込んだらしいピッタだが、彼女も何だかんだいって毒されてきている。


「かのテイラー邸で寝泊まりとは羨ましい…!!」

「お二人が出会いお過ごしになった聖地ですぞ!!」

「それを言うならここだって聖地さ。何てったってご本人方がいるし…もはや聖地を超えて天界なのでは?」

『激しく同意!!』

 首がもげそうな程頷く同志組。


「緊張感皆無っすねえ…」

 エビーはツッコミ封印が解けかかっている。

「使用人用の棟を一つ貸切で使ってるんだって。テイラー邸にも同志村みたいなのができてるの草だねえ…。で、次は、ガッツリ暗号文書からの情報ね」

「はい、ミカ様」

 私はピッタが解析してくれたメモを手に取った。



 現在、王都の治安は悪化の一途を辿り、半数以上の住民が近隣の領に逃げ出したらしい。テイラー領でも難民の一部を匿っているそうだ。邪教や悪徳貴族の引き抜き合戦により暗部は事実上解体。それでも一部の者は残って治安の回復に努めているらしい。


「…恐らく、第一王子殿下に直接忠義を誓っている者達かと」

 ボソボソと執務机の辺りから声が聴こえてくる。

 ザコルやコマもそうではないのか、と思うが、彼らは現在仕える主をそれぞれに変えて活動している。第一王子は二人を引き止めなかったらしいが、それも何か意図があっての事なのかもしれない。


 王都は、名目上『慈善団体』を名乗る王弟や王弟派貴族の私兵が住民達を監視しており、逃げ出そうとする者を厳しく取り締まっているようだ。本来の警邏隊の者達も、逆らった者から投獄されたりなどして数が減り、残った者達は王弟派に従って何とかやり過ごしているような状況らしい。

 近衛騎士の大半は国王と王妃について公爵領に移動、王都近郊を守る騎士達は先程の警邏隊と同じような扱いを受けているという。ただ、逃げる住民達を手引きするため、王都外の森に潜伏しているグループもあるという噂だそうだ。


「ええと、そうやって数が減ったらしい警邏隊や騎士団ですが、どうやらそれにしても『数が合わない』と。投獄や処刑された人数と、現在王都に残る人数を合わせても到底元の数には及ばないそうです。近くの領に逃げ込んだ様子もないと。これはどういう事でしょうか師匠」

 執務机に向かって質問する。

「…地下遺跡かどこかにでも潜伏しているんじゃないでしょうか。あの方が今もまだ地下にいるなら、手引きしている可能性もあります」

 ちゃんと返事がきた。


 ピッ、セージが挙手する。

「はい、どうぞセージさん」

「はっ。お話の途中ではありますが、ここで少々、我が商会の現況をお伝えさせていただきたく。我が商会の王都支店は現在、一応ですが営業を続けております。他商会の店舗で閉めた所は軒並み破壊や掠奪などの憂き目に遭っているようで、ああなりたくなければ店を閉めるなと暗に脅されたそうです。こちらと支店とは、発注書に見せかけた独自の暗号文書でやり取りしておりますが、今の所連絡を取っているのはバレていないかと」


 ガタッ、執務机の辺りで物音がした。


「おお、流石は大商会! 独自の暗号パターンを持っているとは!!」

「他ならぬドーシャ殿にそう言ってもらえるのは光栄ですなあ。競合他商会への対策がこんな形で役立つとは。……カファ殿にピッタ殿、もしご興味がおありなら、後で『発注書』の一部をお見せしましょうか」

 セージは分かりやすくソワソワしているカファ達に水を向ける。

「いいんですか!?」

「私達一応他商会ですよ!?」

「あなた方ならば信用も置けますし、貴会ならば扱う商材も競合にはなり得ませんのでな。何、見せる代わりに、暗号をより強固なものにするための助言などいただければ、という下心付きですよ」

 ニヤリ。悪い顔をしている。

「そんな事でいいのなら! 商人が使う暗号って興味があったんですよ! 造りも隠蔽のし方も軍用と全然違いますし、商会ごとの特徴も出ますから! ねえいいですよね若頭!」

「お兄!!」

「セージ殿がいいとおっしゃるならいいに決まっているだろう! 勉強させていただくがよいお前達!!」

 やったー、カファとピッタが子供のように喜ぶ。この二人は暗号に関わる仕事が天職なのだろう。研究者に近い感覚なのかもしれない。


 ガタガタ…。執務机が振動している。…まだ出てこないか。


「セージさん、それで、本題というか、今現在で何か分かっている事は他にありますか」

「ええ。と、その前に、ウチの王都支店の構造について少々説明をば。王都では地価の関係であまり広さを確保できませんでしたので、上階はもちろん、地下にも倉庫を持っているのですよ。ええ、もちろん建設許可は取りましたとも。ただ、建設の際に偶然、噂に聞いていた王都の地下遺跡への入り口を掘り当ててしまいましてな…。当時の担当役人に報告した所、入り口が見えぬよう隠しておけと、また、中は老朽化で危険な箇所もあるので無闇に立ち入らないようにとの指導を受けました」


 ………………。

 皆で顔を見合わせる。


「…えっ、それだけ…?」

「それだけです。後は面倒なので黙っているようにと。いやはや、役所仕事とは気楽なものですな。その先にどんな問題が起きようとも我関せず、まるで他人事だ」

 セージがわざとらしく両の手の平を天井に向け、やれやれと首を振って見せる。

「致し方ありませんのでな、普段は人目につかぬよう、入り口前には可動式の棚を隠し扉として置き、探索可能な範囲で遺跡内の朽ちかけた床や壁面を補修、灯りや井戸などを増設し、数年かけてそれなりの人や荷が収容できる施設へと整備いたしました。現在では、在庫の管理や職員の休憩場として大変重宝しております」


「…いっ、遺跡を倉庫代わりにしているのかい!? 大丈夫なのかい、そんな勝手をして!?」

 しれっと言ってのけたセージに、マネジが心配そうな声を上げる。他のメンツも同じような反応だ。


「はは、勝手とは人聞きの悪い。お役所から正式に『自己責任』というお墨付きをいただいた以上、あの入り口の活用法を考えておくのは半ば義務でございましょう? 我々はそんなお役所の『ご期待』に応えただけの事。それに、あの空間の老朽化を放置し過ぎてはいずれ地上にも被害が及びましょう。……社会貢献、とおっしゃっていただけますかな。辺境エリア統括者殿」


 ニヤァァァリ。セージは貫禄ある笑みを見せつけた。


「おお、おおお…! 大商会のドンっぽいですぞ…!!」

「流石だね、愚問だったよセージ!」

「すげえ、もうツッコミなんかするもんかって思ってたけどもう我慢ならねっすよ!! その施設っての絶対倉庫って規模じゃねえんだろ!? 勝手に地下帝国築いてっとか何考えてんすか!? こりゃあもう、ドン・セージだぜ!!」

『ドン・セージ!!』


 ドン・セージ!! ドン・セージ!!

 皆でコールを送る。


 ガタタッ。

「うるさいですよ、もう夜です! 周りの迷惑も考えてください!」

 執務机から猟犬が生えてきた。


「……で、どこまで手を入れたんです、セージ」

「ふっふっふ、南側の商店エリアに伸びた遺跡はあらかた網羅しております」

「遺跡全体の半分近くに及ぶ範囲ではないですか…。とんでもないですね」

 はあ、と溜め息をつきながらザコルがソファに戻ってきた。


「セージ。君は、例の貴人と面識はあるのですか?」

 例の貴人。もちろん、地下遺跡の中にラボを持つという第一王子殿下の事だろう。

 ザコルがそう訊くという事は、その南側の商店エリアの中に彼の研究室があるか、なくとも距離が近いのかもしれない。

「はい。かの方は当店のお得意様でもありますので。数百年前の王族が使用した衣や、古い絵画や壁画の修復のため、貴重な糸や繊維を調達するよう、度々のご指名をいただいております」

 セージの方も『例の貴人』と聞いて誰の事かすぐに判ったようだ。


 セージの営むアロマ商会は手芸用品を中心に扱う商会である。学芸員が欲するような修復資材まで取り扱っているとは。

 商会規模といい地下帝国といい手広さといい、大商会っていうかもう大企業って感じだな。そうかこの人、大企業の最高責任者か。超大物じゃん。そんな大物本人が危険を伴う水害支援部隊に堂々と混じっているとか…。全くこのファンの集いはどうかしている。


「なるほど、君は、かの方の駒の一人だったか…」

「駒とは恐れ多い。我々はただ、いただいた対価に見合うだけのサービスを提供させていただいているだけに過ぎません。あくまでも利を交換し合う顧客と商人、我々の関係はそうあるべきだと、かの方もおっしゃっておりますゆえ」

 セージが口角を上げると、ザコルもニヤ、と口角を上げた。

「そうですか。顧客の情報を他人に明かしてしまうとは、悪い商会のようですね」

「おや、バレてしまいましたか。この件はどうか内密にお願いいたします。口止め料は、我が商会自慢の『発注書』ではいかがでしょう。それとも、異国製の珍しい意匠のリボンの方がよろしいでしょうか? こちらもとっておきなのですよ」

「賄賂を受け取るのは性に合いません。ですが物は見せていただきましょうか」

「承知いたしました。明日、ユーカとカモミにどちらも持たせる事にいたしましょう」

 ふっふっふっふっふ、裏社会のドンと大商会のドンが悪い笑みを交わす。いいなあ、裏取引ごっこ。楽しそうだ。


「…ホッター殿、発言してもいいだろうか」

「はい、もちろんですハコネ騎士団長」


 主催者が戻ってきたのに何で私に許可を求めるんだろう。コホン、とハコネが咳払いをする。


「で、その消えた警邏隊と騎士団は…セージ殿、貴殿の整備した地下施設に収容されている、という解釈で合っているだろうか」

「そうですな……いえ、詳しい素性までは存じ上げませんが、顧客のお一人に『友人達』をしばらく匿ってくれと依頼されたのは事実でございます。ご不便がないように、寝具や衣服の替え、お食事のお届け等は当商会にて承っております。せっかくの腕が鈍らぬよう、地下には鍛錬のできるお部屋もご用意いたしました。力の維持は何より大切ですからな」

 さらに日光を浴びねば健康が損なわれるという事で、毎日順番で廃屋の屋上に案内し、数十分間の日光浴までさせているという。至れり尽くせりだ。

「鍛錬が必要な者達か。なるほど」

 ハコネはふむ、と頷く。『友人達』とは警邏隊か騎士団のことで間違いなさそうだ。


「当商会は顧客第一をモットーにしております。例の顧客様とご友人以外にも、適切な手順を踏んでいただいたお客様に関しては、秘密裏に地下へご案内するよう、支店の者には伝えてあります」


 店頭に置いてない、ある深緑色の刺繍糸を店員に問い合わせるのが合言葉がわりになっているらしい。


「なるほど、一般住民にも開かれた避難用地下シェルターって事なんですね。凄い。これは紛う事なき社会貢献じゃないですか。セージさん、その例の貴人様は、数年前からこの事態を見越していた、という事になりますか?」

「はいミカ様、恐らくは。例の入り口を有効活用するよう、ご助言くださったのも例の貴人様でございますゆえ。施設の一部には、かの方のご趣味の品と共に、毛布や食料などもお預かりしております。有事の際には民に配るようにとも」


 ふん、とザコルが腕を組み、背もたれに体重をどっかりと預けた。


「なるほど、どうせそのご趣味の品の保管が主目的だろうとは思いますが、一応責務を忘れていない所はあの方らしい。僕が乱心して王都を焼き尽くしたとしても、行き場のなくなった民を救う手立てくらいは考えていたようですね」

『えっ』

「?」

 思わず声を漏らしたカファとピッタを、ザコルが不思議そうな顔で見た。


 …………………………。

 そのまま三人は数秒の間見つめ合う。


「あ、あの」

 やっと言葉を発したピッタが、おずおずと手を挙げた。

「何でしょう、ピッタ」

「はい。ええと、現在、ご乱心して王都を占拠しているのは王弟殿下の一派、なんですよね?」

 聞き間違いかもしれないから確認、という感じで彼女は質問した。

「ええ、愚かしいでしょう。ですが民を見捨てて公爵領に逃げた陛下や王妃殿下とて大差ない同じレベルかと。ですから一時は、あの碌でもない連中ごと王都を焼き払い、更地にでもしてやれば万事解決かと考えていたのです。もちろん僕一人で」

「そ、そうなんですか…」

 聞き間違い説が一瞬で消え、言葉に詰まるピッタ。


「僕としては王都というか王宮に群がる連中など誰も彼も同じようなものだと思っていましたし、いっそなくしてしまった方が世のためかと思っていたんです。しかし主はいい顔をなさらないし、ミカも僕がそうすることは望んでいないようなので、徐々に考えを改めました。セージ、君の商会を巻き添えにしなくて済んだのは本当によかった。やはりミカの良識や意向には従っていた方が後悔が少なくて済むようですね。こうしてミカに僕を預けたのも主、セオドア様のご判断によるものですし、本当に恵まれていますよ、僕は」


 うんうん、ザコルが満足気に頷く。

 カファとピッタは完全に言葉を失った。


「……えー、ウチの姫が毎秒この国を救ってるって事がお分かりいただけましたかねえ。あとセオドア様も」

 エビーの言葉に、ピッタとカファがコクコクと首がもげそうなくらい頷く。何故かザコルもだ。


「ちょっ、何でザコルまで頷いてるんですか。何度も言いますけど、ザコルが私を預かってるんですからね!? えっと、大丈夫だからね二人とも。この人、焼き尽くすとは言ってるけど皆殺しとまでは言ってないし、結局、自分が一人で悪いものを一掃しちゃえば皆が助かると思って言ってるとこあったから…。そんな考えを改めてくれたのは、私やセオドア様のためだけじゃないよ。こうして、仲良くしてくださる皆さんの存在あってこそだからね」


 ザコルが心中してまでこの国を終わらせようと思わなくて済むようになったのは、私や主家の存在以上に『大事な知り合いが増えたから』に他ならない。色んな立場の人と交流した事で、今を生きる王都の民の生活にまで思いを馳せられるようになったのだ。


「…ただね、ザコルの気が変わってくれてめでたしめでたしって訳じゃないんだよ。同志の皆さんは重々お解りでしょうけれど、サカシータ一族そのものを怒らせてもこの国は終了です」

「それはそう。間違いありませぬ」


 私の言葉に、同志組が一斉に頷く。カファとピッタは再び青ざめた。

 私は場をシメるためにパンパン、と手の平を打ち鳴らした。


「いいでしょうか、皆さん。ザコルはともかく、イーリア様やサカシータ領民の皆さん、さらには山の民や山派貴族の皆さんの事も『ご乱心』させず、なるべく事を穏便に済ますのが今回の戦の本当の要なんです。セオドア様もきっとそうお考えのはず! …うん、たぶん! さあ皆さん、いい感じに立ち回ってこの国の危機を乗り越えましょう!」

 えいえいおー。拳を突き上げる。皆も何となくぱらぱらと拳を挙げてくれた。


「…ふぐっ」

 ピッタが急に口を覆って泣き出した。

「あれっ、どうしたのピッタ」

「どうしたもこうしたも無いですよ! 皆やる気あるんですか!? どうして異世界から来たミカ様がこの国の存続を一番に考えてくださってるんですか!? 背負わせ過ぎじゃないですか!?」

「ピッタの言う通りです。こんな国など救ってやらなくとも、僕と一緒に三年程どこかの山中にでも潜伏していれば安全…」

「黙れこの変態無頓着め。ピッタ殿の意見を捻じ曲げるんじゃない。そういう極端な事を言うからホッター殿が苦労するんだぞ!」

「その苦労をさせないための潜伏案です!」

 ギャイギャイギャイ。ついに黙っていられなくなったらしいハコネがザコルと言い争う。


「まあまあまあ、三年も音沙汰なかったら全国の猟犬ファンが悲しむでしょ。せっかくあなたと知り合って、あなた自身を慕ってくれる人もたくさんできたんですから。皆が幸せになれる道を探しましょう。ね?」

「…………ミカが、そう言うなら」

 私が手を出すとザコルも素直に手を乗せてくれたので、私はぎゅっと両手で包んだ。…ちょっと『お手』をしている気分になった。


『…ふぐっ』

 今度は同志達が泣き出した。

「ご自身の安全より、我々ファンへの供給を考えてくださるミカ様……神…!!」

「たとえ三年供給を絶たれようとも国が滅びようとも、我々はしぶとくお待ち申し上げておりますぞ!!」

「お二人の絆に合掌…!!」


 ピッタの言う通り、彼らは国の存続自体には関心が薄そうである。商人や職人だしな、統治者が変わっても別にやっていけるのかもしれない。


「…俺は納得いかんぞ……!! 結局貴様はホッター殿の言う事しか耳に入らんのか!?」

 騎士団長はついにザコルを貴様呼ばわりし始めた。

「全くハコネは鬱陶しいですね…。別に聞いていない訳ではありませんよ。こうして会話もしているでしょう」

 ザコルは気にしていないようだが、会話になっているようで会話になっていないのは相変わらずだ。


「まあまあ団長、深く考えたら負けすよ。慣れれば楽しくなりますって」

「そうですよ騎士団長様! 猟犬様とてウチの若頭に比べれば全ッ然良識あるお方です! ご一緒させていただいていれば解りますから!!」

 キャパを超えたらしいハコネを、エビーと何故かカファが宥め始めた。

 ちなみにカファにザコルより良識がないと言われたドーシャといえば、何一つ響いていなさそうな笑顔で頷いている。…確かに手ごわそうだ。


「ザコル殿が『一人で王都を燃やしに行くのをやめる』という趣旨の事をおっしゃった時の感動は今でも忘れられません。口癖のようにご自分が全ての罪を被ればいいとまでおっしゃっておられた方が…。それもこれも、ミカ殿ご自身が王弟殿下を単身始末に行かれるとおっしゃり出した事で、ザコル殿も残される側の気持ちに立つ事がおできになったからなのですよ」

 タイタが笑顔のまま自分の眦を拭う。騎士団長は私の方を見た。目が『お前もか』と如実に語っている。


「ああ、僕は既に懐かしい気分だよ執行人殿…。今となっては嘘のようだけど、一時はこれ以上国が猟犬様を悩ませたら、国という枠組みそのものがなくなってもおかしくない、そうしたら猟犬様を追う事自体が難しくなるかもしれない、と我々も覚悟したんだ。そこに彗星の如く現れた氷姫様によって、猟犬様も国も、ひいては我々も世界も救われた! 僕らがどれだけ氷姫様の存在に感謝したか…!!」

 大袈裟な…と止めようとしたが、同志の四人は揃って勢いよく立ち上がった。

「今日も推しが日の当たる場所で燦然と輝いておられるのはまさに氷姫様のおかげですな!!」

「氷姫様万歳!! ミカ様万歳!!」

 ばんざーい! ばんざーい!

「ひいいいやめてください! もう夜ですってば!! だから何でザコルまで万歳してるんですか!? ていうか何で『万歳』の文化があんの!? もー!! やめやめやめ!! 私を持ち上げるの禁止!!」


 結局、ふざけて加わったエビーに、カファやピッタ、ハコネまでがヤケクソで万歳を叫び始め、皆を止めるまでに五分以上もロスしてしまった。





「で、邪教ですよ邪教! ラースラ教の動きを探るとかいうのが主目的じゃなかったですか!?」

「ああ、そういえば。そのためにマネジ殿をお呼びしたんすよね、兄貴」

「ええ。そうです。まずは暗号文書の方から読み上げていきましょうか」

 私をイジり倒して満足したのか、冷静さを取り戻したザコルがカファが解析したメモを手にとる。


 この会は本来、テイラーからの情報を解析し、同志達がどこまで邪教の情報を掴んでいるかを確認するために開かれた会だ。


 邪教の信者目撃例は、全国で日増しに多くなっているようだ。信者達もわざと姿を見せつけているのか、例の香と黒いローブをトレードマークのようにまとって平然と街の大通りを歩いているらしい。王宮が混乱中のため明確な対処法も決まっておらず、領によっては入信を禁止した所もあるらしいが、民衆から思いの外反発があり、行政側もあまり強く出られないのが現状だという。


「彼らを弾圧するとなれば、他の新興宗教等の布教活動も弾圧されると危惧した者が多いようですね」

「動きを活発にしているのはラースラ教に限った事ではないからな」

 ザコルとハコネの会話の通り、国の乱れにより、様々な宗教団体や思想団体の活動が各地で活発になっているようだ。


「ぶっちゃけ我らの活動もアレコレ引っかかりますからな」

「集会を催して役人に苦言を呈された事数知れず」

「飛脚の連中だって急いでる時は関所なんて通らないからね。バレたら怒られるくらいじゃあ済まないよ」

「そうそう、どこかでスパイ疑惑をかけられて指名手配された者もおりましたなあ」

「ああ、いたねえ! そんなのあの彼だけだろ、間抜けにも程があるってずっとイジられてるじゃないか」

 ははははは、と物騒な事を楽しげに語る同志達。騎士団長は再び眉間を揉み始めた。


「ラースラ教は明確にミカ様を狙っておりますからね、我々も警戒を強めておりますよ。彼らの『渡り人を魔獣の番にする』という教義が実現できるとすれば、もはや今をおいて他にない。それだけに彼らも躍起に…」

「つがい…? えっ、魔獣の、つがい…!?」

 マネジの話にピッタが目を剥く。

「ただの生贄じゃないんですか!? いやっ、生贄でも大問題ですけど…!!」


 彼女はラースラ教の教義や目的については知らなかったようだ。カファとヴァンも顔を見合わせている。逆に言えば、この三人以外はラースラ教の教義について内容を把握しているという事だ。


「ああ、何かねえ、彼らに捕まると、私は魔獣の仔を産まされる? らしいんだよ。果たして産めるのかどうか分かんないけど…」

「なっ、何を恐ろしげな事を呑気に語ってらっしゃるんですか!! ミカ様が死ぬより辛い目に遭うかもしれないんですよ!?」

「だって、全く現実味がないからさ。実際難しいでしょ、獣とまぐわむぐっ」

 口を押さえられた。

「その口で過激な事を言うな」

 ザコルが低い声でそう言えば、ピッタも勢いよく頷いた。


 エビーが代わって説明してくれる。

「あいつら、氷姫を監禁、洗脳して『聖なる獣神』だとかってのに仕立てるつもりなんだ。そんであいつらが現在神として崇めてる魔獣っつーか獣神の嫁にして、二柱目の獣神って事で崇められたのち、最終的に魔獣の仔を産まされて新しい神のご母堂になるんだってよ。そんで、この猟犬殿はその獣神の嫁候補を穢す悪魔って呼ばれてんのさ。こないだ捕まえた曲者によるとそんな感じだ」

「な、何て身勝手な…!」

 ピッタがワナワナとするので、カファがどうどう、となだめ始めた。

「で、ついでに話すと……兄貴、このメンツなら、香や薬の事も喋っちまっていいすよね?」

 ザコルがコク、と頷く。


 エビーはこれまでに判っている範囲で、邪教徒達がまとっている香がもたらす魔力抑制効果や、香とニタギの毒を合わせる事で麻薬のような作用がもたらされる事を一通り話した。


「よくそこまで吐かせたじゃないか、エビー」

 ハコネが感心したようにエビーを褒める。そうだ。香や薬の効能を信者から聞き出し、薬のサンプルまで手に入れてきたのは、エビーのお手柄なのだ。

「へへっ、あいつらがチョロいんすよ。適当に味方のフリしたらすぐペラペラ喋ってくれました。まあ、その前にザコル殿とタイさんがドギツイ尋問かましてたって背景もありますけどお…」

 エビーがチラッと横を見ると、タイタがにっこりと微笑んだ。


「なるほどなるほど、リュウ殿はその薬の解析のためにコマ殿に拉致られた訳ですな」

「彼は隠し事が下手ですからなあ、うっかり聞かぬよう気をつけるのが大変でしたな」


 同志の間でも、お互いに託された秘密やプライベートを探る事はしないのが暗黙のルールらしい。

 会員の多くは一般人とは聞いているが、ここにいるドーシャやドン・セージのように、一般人とはいえない顔を持つ者も実は少なくないのだろう。


 私は口を塞いでいるザコルの手に、敢えて自分の手を添えてすり寄せる真似をする。と、すぐに手は引っ込んだ。いちいち照れるザコルをハコネとピッタが微妙な顔で見ている。


「あまり私の弱点を晒したくなくて黙ってたんですよ。同志の皆さんには気を揉ませて申し訳なかったですね」

「いえいえ、どこに曲者が潜伏しているか分からない以上、無理からぬ事ですよ。…ああ、あの脱衣所でタンバ殿が火をつけようとしたあの土くれはその香だったという訳ですね。…そうか、彼は邪教の…」

 マネジが当時の出来事を反芻する。

「あの時はマネジさんがすぐに消してくださったので助かりました。あの『魔封じの香』で魔力が封じられると、魔法が使えなくなるだけでなく、頭痛やら吐き気やらイライラやら、副作用で散々な事になるんです。全く動けなくなる訳じゃないですが、地味に嫌な攻撃なんですよねえ…」


「それって、ミカ様はもうその香を吸った事があるって事じゃないですか? 大丈夫だったんですか!?」

 ピッタがまた身を乗り出す。

「うん、大丈夫だよピッタ。空気の綺麗な所に移動してしばらくすれば、毒が抜けて良くなる事は判ってるから。それに、ピッタは知ってるかもしれないけど、私って魔法を使わないでいるだけでも身体に魔力が溜まりすぎるみたいで、同じような症状に陥る事が度々あったんだよ。だから慣れてはいるっていうか…。ああ、でもそんな魔力過多になってる時に例の香が強烈にキマったりするとヤバいかもしれないね……えっ、そうなったらどうなるんだろ。最悪爆散とか…? 怖っ!」


 あの頭痛が酷くなり過ぎたらどうなるのか想像したくもないが、もしも周りを巻き込むような現象が起きたら洒落にならない。


「そんな事にはさせません。密室で嗅がなければまだいいんですから、いざとなったら僕が建物を破壊して空気を入れ替えます。普段から適度に魔力を消費するのは今後とも心がけましょう」

「自分じゃ魔力残量を正確に把握できないのがもどかしいですよねえ…」

「ミカ様、魔力をお使いになります!? 桶に水をいただいてきましょうか!?」

 ピッタが立ち上がった。ザコルが静かに首を振る。

「ピッタ、今日はむしろ使い過ぎを危惧している所です。また言葉が解らなくなったら困りますから…」

 ザコルの言葉に、ストン、とピッタが床に座り込む。そしてワッとローテーブルに突っ伏した。

「あれは怖かった…! ミカ様ともう一生お話しできなくなるかと…!!」

「同感です。僕もあれ程の恐怖を味わったのは久しぶりで…」

「ありゃ流石にビビったすよねえ。でも片言で『ありがと』って言ってくれたミカさん超可愛かったんだよなあ。もう一回くらい…あだっ! いでぇッ!?」

 ザコルが投げたドングリがエビーの額に命中し、ピッタの鋭い蹴りが脛に決まった。ダブルコンボ。



「話の腰を折って申し訳ありませんでした、辺境エリア統括者様」

 蹲ったエビーを無視し、ピッタがマネジに頭を下げる。

「いや、僕は構わないよピッタ君。エビー殿の話も前提として聴けて良かったと思うし。この後も分からない事があれば遠慮なく質問してほしい。では、先程の続きをお話ししましょうか」

 そうスマートにフォローし、マネジが話し始める。彼は対ザコル以外では非常にモテ男感がある。



 まず当然だが、深緑の猟犬ファンの集いとラースラ教の目的は相容れない。


 猟犬ファンの集いは全会一致で猟犬と氷姫を『推しカプ認定』しており、私達がくっつくものと考えて疑わない上、それを引き裂こうとする者に対しては明確な敵意を示している。

 例としては王弟や邪教、第二王子を貶める新聞ジャックだ。…くっつく事にもう異論はないのだが、将来的にうまくいかなかくなった場合、彼らがどういう行動に出るのかを考えると少し不安になる。


 対するラースラ教の目的は、神と崇める魔獣に渡り人の嫁をあてがい、次代の神を創成する事にあるらしい。

 その事実をシンプルに捉えるならば、今の神を代替わりさせようとしているという事であり、その神とされる魔獣に何らかのタイムリミットが迫っている可能性が高いという事になる。口頭尋問で得られた情報だけが頼りなので確実とは言い難いが、こうしてバンバン刺客を送ってきている所を見るに彼らも焦っているはずだ。


 異世界からの渡り人召喚が世界的に禁止され、機密扱いとなり早百年。儀式の情報は簡単に手に入らなくなり、国内で詳細を知る家といえば王家とサカシータ家のみ。王宮もサカシータ領も迂闊に踏み込んだら命はないという点では共通している。

 そんな中、現代ではもはや実現不可とさえ思われていた渡り人ゲットのチャンスが巡ってきた。誰が召喚したかは彼らにとって重要ではなく、喚ばれたのはきっと神のお導きだとでも語る様子が容易に想像がつく。

 つまり、神が必要とする氷姫をあろうことか独占し、彼らの心願成就を邪魔する猟犬こそが彼らラースラ教徒の敵なのである。


 深緑の猟犬を神と崇める秘密結社に、片やそれを悪魔と貶める宗教団体。通じ合える要素は初めから一つもないのだ。


「一応、邪教や王弟派の勢力相手に直接やり合うなと会長からお達しが出ておりますので、他の同志達も表沙汰になるような事件は起こしていないはずです。基本的には余計なことをしないよう監視し、法に触れた時点で然るべき機関に突き出すか、せいぜい嫌がらせ程度のちょっかいくらいで留めている事でしょう」


 マネジの言葉が気になった私は、控えめに手を挙げた。

「あの、その嫌がらせ程度のちょっかいとはどういう…」

 マネジはドーシャとセージの顔も見て頷き合う。話してもいいよね、の合図か。


「そうですね、例えば、奴らのアジトを見つけ次第、地元の警邏隊に通報するのはもちろん…」

「現場に大量の虫や爬虫類を放ってみたり…」

「掛けられていた黒ローブを赤や青に変えてやったり…」

「彼奴らがいつも焚いている香を全部馬糞とすり替えたり…」

「奴らの儀式に紛れ込んで魔法陣らしきものに一本線を加えてみたり…」


 あー、それそれ。私もやったやったー。とまるで学生ノリで盛り上がり始める同志達。


「あの、その、ここにいる三人は全員その嫌がらせに加担した事があるんですか?」

「ええ、もちろん。しかし嗜み程度ですぞ」

 嗜み程度の嫌がらせとは…?

「猛者ならばアジトに火薬まがいのものを放り込むくらいはしますからな。近隣の迷惑になると禁止になりましたが」

 それって迷惑以前に法に触れるのでは…?


「ここ半年くらいで随分とラースラ教信者も増えたようですが、数としては我々の方が圧倒的に多い。しかもあちらは練度が低いので、我々ならば後をつけたり忍び込むくらいは割と簡単にできるのです」

「邪教グループを見つけたら、その近くには必ず我らが同志も潜んでいると考えて間違いないかと」

「嫌がらせも早い者勝ちですからな!」


 気づけなかった…と、また眉間を揉んでいるのは騎士団長だ。テイラー第二騎士団でも散々邪教の調査は行なっていたはずだが、同志らしき存在が捜査線上に浮かぶ事はなかったらしい。同志達だって元はと言えばテイラーの令息の息がかかった者達だというのに、本家の騎士達の目さえ欺いて潜伏しているというややこしい状態になっている。


「しかし、ここサカシータ領に忍び込んでくるような邪教徒はやはり一味違いますね。我々の嗅覚くらいでは見抜けない練度の者ばかりのようだ。現に、僕もあのタンバ殿がそうだとは考えもしていませんでした。しかし、彼が持っていた『魔封じの香』とやらは、今まで嫌がらせしてきた信者が使っている香とはまた性質が違ったような…」

「それは本当ですか、マネジ」

 しばらく皆のやり取りを静観していたザコルが口を挟む。

「ええ…、気のせいだったら申し訳ないのですが、実は僕も、脱衣所でタンバ殿が持っていた香の煙を吸い込んだせいか、あの時は珍しく頭痛を起こしていたんです。ですが、今まで下っ端の信者がまとっている香りや、アジトで焚きしめられた香を吸い込んでも頭痛など起こした事はなかった。あの、脳を直接侵食するような感覚とは根本的にタチが違ったかと…」


 ふむ、とザコルは考え込む素振りをする。

「僕には、毒が効かない。もしかしたら他のあらゆる某術の類も効かないか、感知もできない可能性もある。だが嗅覚には自信があるんです。僕もテイラー領内や深緑湖の街で邪教徒に接触していますが、彼らは一様に同じ成分のにおいをまとっていたと判断していました。とすれば、やはり…」

 ザコルが私に視線を寄越す。話してもいいよね、という合図だろう。


「やはり、あの香、いえ、正確には私への攻撃目的で使われた香には特別、呪いの類が施されている可能性があるって話ですか?」

『呪い!?』

 エビーとタイタ以外の全員が驚いた声を出す。


「今日、シシ先生が可能性の一つとして述べていた説ですよ。香の主成分は一般的で、香り付けに使われた香草もせいぜい心を落ち着かせる穏やかな効能を持つ種類のものだろうというのがシシ先生とリュウ先生、お二方の見解なのだそうです。それにも関わらず魔力抑制という強い効果を発揮しているとすれば、香自体に呪いの類を施した可能性があるのでは、と」

「呪い、か。そんな次元の話まで出ていたとは。しかしまず、呪いをかけられるような力を持った魔法士の噂など昨今聞いたこともないぞ」

 ハコネが疑問を呈する。

「ええ、シシ先生も同じように、現在、この国はもちろん近隣諸国でもそのような力を持つ人に心当たりはないとおっしゃっていました。ここからは私の考えになりますが、実際に香りに魔法をかけたのは果たして人間なんでしょうか。例えば、ミリューのように魔法が使える魔獣の仕業である可能性も考慮すべきでは? と私は思っているんですが、いかがでしょう」


「発言していいすか」

 脛の痛みが引いたらしいエビーが挙手した。

「どうぞ、エビー」

「その『魔封じの香』なんすけど、俺が色々聞き出した信者の野郎共は、ある獣を大人しくさせるための道具だって話してたんです。獣とやらの魔法を封じるためのモンだと。その獣とやらがあいつらが崇める魔獣自身だったとすると、魔封じの呪いを自らかけるのはおかしくないすか?」

「ああ、確かにねえ」


 ピッ、タイタが挙手する。

「俺も、発言をよろしいでしょうか」

「もちろん、タイタ」

「エビーが情報を引き出した信者達ですが、そのうちの女の一人がある獣の世話を一時期引き受けていた事が判っております。獣の形状は、頭に角が一本生えた、馬に近い見た目と大きさだと」

 ユニコーンだろうか。魔獣というより聖獣っぽいが。

「魔法が使えたかどうかは判りませんが、その女は意思疎通ができたようには語っていませんでした。それに、扱い方を聞く限り、とても神として崇めている対象にする仕打ちには…………あ、いえ、これは俺の主観ですので、参考にならないかもしれませんが…」

「ううん、大丈夫だよ。これは議論だからね、タイタの感じた事を率直に聴かせて」

「…かしこまりました。数回に渡って尋問した結果をまとめますと、女は、その馬のような獣について、常に例の香が焚きしめられた部屋で、足枷を付けられた状態のまま何年も飼われているといった趣旨の発言をしておりました。他の信者も人語も解さぬ穢らわしい獣だと口にしており、とても『神』に対する態度とは思えず」

「なるほど。じゃあ、神扱いされてる魔獣とやらは『魔封じ』されてる子とは別にいるのかもしれないって事かな」

 ふーむ。皆で唸る。


 ピッ、とハコネが挙手する。

「邪教の信者らしき者達が魔獣とみられる獣を連れていた、という目撃事例なのだが、俺がテイラーと最後に連絡を取った時点で十件以上は上がってきていた。信憑性の高いものだけに絞ってその数だ。ほとんどは王都周辺だが、テイラー領でも数件ある。ジーク領でも数件あるとジーク伯から聞いた。もし同じ獣を連れて回っていたとすると、それなりの距離を移動させている事になるだろう。もしそうなら、逆にもっと目撃事例があっても良さそうなものだと俺は思っている。よって、奴らが保有する獣は複数いて、各地に散らばっていると考える方が自然だ。…まあ、どれもが本物の魔獣かどうかは怪しいがな」


 バッ、ドーシャが勢いよく挙手した。

「魔獣らしきのを連れているグループなら、サギラ侯爵領にいる同志も見たと話しておりました! そうだろう、ヴァン!」

「ああ、そういやそんな事言ってたな…」

 ヴァンが首を捻る。

「本当かドーシャ殿。その同志殿は、そのグループを見た後どうしたのだ」

「確か、もし本当に魔獣なら手に負えぬと判断して、警邏隊に通報すると同時に、領主様にも一筆書いて出したと話しておりました。その同志は今カリューにて支援に当たっておりますゆえ、連絡を取ってみてはいかがでしょう。息子の方ですぞ、執行人殿」

 ドーシャがハコネからタイタに視線を移す。

「ああ、彼ですね。団長、サギラ侯爵領の港で貿易を営むご一家のご長男です。連絡を取りますか」

「どうする、ザコル殿。テイラーの軍人でしかない俺から聞き出すのは問題があるだろう。貴殿がファンとの交流という形を取るのが無難かと思うが」

「彼はまだ僕に慣れていません。話を聞くだけならタイタに任せた方がいいかと」

「慣れていない…? ファンなのだろう?」


 かくかくしかじか。

 同志がザコルの前でまともに会話できるようになるまでに、最低数日はかかる旨をエビーがハコネに説明する。


「…そうか。失礼な言い方になるかもしれないが、ザコル殿と同志の貴君らは実に似たもの同志というかなんというか…」

「僕のどこが彼らに似ているというんです。共感できる部分もなくはないですが」

 不満そうなザコルにハコネがジトリとした視線を落とす。

「ホッター殿」

 騎士団長から要請を受けてしまったので、仕方なくザコルの腕に引っ付く。あくまで仕方なくだ。

「なっ、やめろ、くっつくな」

 何とか私が引き剥がそうと頭をグイグイと押してくる。

「そういう所だ」

 ハコネの冷静な指摘にピタッとザコルが止まった。



つづく

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