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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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戦後の考察④ 血まみれでも、僕を抱き締めてくれますか

 私達とマージはあれからもお互いの報告を時折脱線しながらも進め、昨日から今日にかけて起きた事の整理をした。


 昨日と言えば、今日の戦にまつわること以外でも色々とあった一日だ。

 タキの娘であるミワや臨時救護所兼宿にいた赤ん坊が同時に熱を出し、流行病の兆候かと一騒動あったり。カリューに行った私達の帰りが遅いと、一部で不安が広がっていた事も初めて聞いた。カリューでも色々あったとはいえのんびりし過ぎたようだ。

 それに、戻ってきたと思ったらイーリアがザハリを罪人として連行しており、しかも私が魔力切れで言葉を失うという事件もあった。全く氷姫とかいう奴はとんだトラブルメーカーである。


 執事長がメリーにあらぬ事を吹き込んでいたのは、マージが執務や面会などで潰してしまった昨日の午後の間だと推測された。

 メリーがいつザハリの牢に入ったかは聞きそびれたが、今日の午後も不自然に牢番の従僕がいない時間を作っていたようだし、何度かチャンスをやっていたのかもしれない。



 今日は朝からザコルと私が子供達と交流していたので、マージもまたそれをほっこりと見守っていた。

 そしてまさかの魔獣と王子の襲来、イアンの捕縛、エトセトラ。放牧場での怪獣大戦争やモリヤとの一戦は、マージも見たかったと悔しがっていた。


「そっか、お姉様は、屋敷を離れることが基本的に少ないんですね」

「ええ、執事長が『女主人とは屋敷を守るもの』だと言うの。先代の奥様が決めたことだと言われれば従うしかなかったわ」

 執事長は、屋敷を動かないマージの代わりに目となり耳となり口となる事が多かった。これは、ドーランの執務を長らく肩代わりしてきたマージと、彼女の指示を表向きドーランのものとして伝えてきた執事長の関係性の名残でもあった。執事長はこれまで、マージの指示を曲げて伝えるような事は無かったという。


 そんな長年の信頼関係? に歪みが生じたように感じたのは、水害を経てドーランが失踪し、イーリアがマージに町長職を引き継ぐよう命じた一件からだった。

 しかし多くの町民は以前からシータイの町政を回してきたのがマージだと知っていたし、女帝への畏怖と信頼もあって、マージの町長就任をすんなりと受け入れた。表向きは何の問題もないはずだった。



 マージが最初に覚えた違和感の一つは、私とタイタが襲撃を受け、その後モリヤと協力して囮作戦を決行した日の事。何とマージは、私達がその日、同志村に泊まるという事を把握していなかった。

 当然のように私達が屋敷に泊まるものと考え、夕食前にどこか臨時の客間を準備するよう命じたところ使用人から指摘され、初めて私達がここに帰ってこない事を知った。


 その当時屋敷への連絡をしてくれたエビーによれば、昼間の内には屋敷に寄り、執事長に直接伝えたそうだ。結果として、その僅かな伝達の遅れのせいで、マージは警邏隊などの戦力を適切に配備する事ができなかった。

 私達は夕方に襲撃を受けた後、曲者を連れて門の方へ向かっているが、その頃にはザコルがマージが送り込んだ影をも警戒するようになったため、影達は監視を続けることができなくなった。自分の治める町の中だというのに、私達の動きを一瞬追えなくなってしまったのだ。


 確かに囮作戦の時、ザコルはマージや屋敷の関係者には直接応援を頼まなかった。

 モリヤに直に相談し、エビーにも避難所に詰めている町民と直接話すよう指示しているし、曲者の尋問についてもマージの手に渡る前に自分で済ませている。ザコルはこの時点で、マージが私に害意を持っている可能性があると考えていたらしい。


 実際にマージが私にした『嫁いびり』らしきものはたった一度曲者を泳がせ、囮として扱った程度の事だったが、ザコルを警戒させるには充分だったのだろう。マージが私にワンピースを貸してもてなした件も、彼の目には白々しく写った部分もあったのかもしれない。…まさかあのプロポーズ劇、半分はマージへの当てこすりではあるまいな…。


 そんな訳で、執事長の狙いだったかは定かではないが、マージとザコルの間には表面下で決定的な溝が生じてしまった。


「ザコルはマージお姉様を『黒幕』だと考えていたんですね」

「別に、マージの何もかもを疑っていた訳ではありません。少なくとも邪教や王弟など、外部勢力の関係者でない事は曲者の扱いなどからも判っていました。ただ、ザハリと同じようにミカへの私怨で動く可能性を考え、最低限の警戒を怠らなかっただけの事です。…自意識過剰のようであまり言いたくなかったのですが」


「ふふ、そんな事をおっしゃらないで。わたくしの坊っちゃまへの愛…いえ、親心は本物ですわ。だからこそ、そのお相手に複雑な想いがなかったなどとは言いません。でもね、わたくし、ミカの事も可愛くなってしまったのよ。会って間もないわたくしを信頼し、姉とまで呼んでくださった。何より、わたくし達の大事な坊っちゃまを誰より一途に想い、心から信頼してくださっている。わたくしはシータイ町長である以前に、一人の『姉』として、すっかり『妹』に絆されてしまったのですわ」


「マージお姉様…」

 私はこれでも、下心や悪意には敏感な方だ。もちろん見抜けない時がないわけではないが、数日接してきた中で、マージから悪意らしいものを感じたことは一度もなかった。

 私よりもザコルを優先している気配くらいは感じ取っていたが、だからこそだ。

 護衛対象の私を害しても、損を被るのは大事な坊ちゃんである。彼女が彼の味方である以上、私の敵であるはずがないと私は信じていた。


「疑われついでに白状しますと、シシには、お二人に対して機会をみて自分の能力を明かし、体調などの相談に乗るようにと指示してありました」

「そうですか。やはりシシは意図的にこちらに踏み込んできたんですね」

「ええ。しかし、わたくしが指示した時点では、ミカは魔法士である事を公表なさっておりませんでした。もしもミカがシシの力を必要となさるならば、わたくしを抜きに個人的に誓約を交わすなどしてもよいとも話してありましたの。ですが、どうやらシシの方も怪しまれているようですわね」


 マージはチラとエビーの方に視線をやった。


「まあ、そうですね。ですが僕は今の所は泳がせておいてもいいと思っています。情報を安売りするタイプには見えませんから。それで、どれくらい聞いているんですか」

「シシはそれこそ、核心をつく言葉はあまり言わないの。ミカの能力に関してはどれも『憶測』でしか伝えてくれないのですわ。彼から聞いたことと言えば、どうやらミカが強大な魔力によって周りに影響を及ぼしているかもしれない、というのと、彼女が関わった水にはわずかに魔力が宿っている可能性がある、というくらいのものです。魔力の移譲の件については割と詳しく教えてくれましたけれど…。ここで申し上げた方がよろしいかしら」

 マージは私とザコルの顔を交互に見る。

 私は首をブンブン横に振った。ザコルも控え目に首を振る。

「…言わなくていいです。ミカ、今後もシシにストレートに訊くのはよしましょう。言葉にしなければあくまでも『憶測』として済ませてくれるつもりのようですから」

「はい、分かりました」


 危ない、次に会ったらズバリ何でも訊いちゃおうと思っていた所だった。ちゃんとオカンの言う事は聞きましょうって事だ。


「何故僕を執拗にオカン呼ばわりする…。マージ、それを他の使用人などに喋っていないでしょうね」

「もちろんですわ。わたくしとシシの間で暗号文書をやり取りし、読んだ後はすぐに燃やしております。このために新しい暗号も用意しましたのよ」

「ああ流石はマー……」

 ザコルはそこまで言いかけて止めた。


「…そうだ、マージに関する記憶を一つ思い出しました。僕に暗号の基礎を教えてくれましたよね。暗号の面白さや奥深さに目覚めたのはきっとマージのおかげです。マージがいなくなってからも、一人で勉強を続けたんですよ」


 捕縛用の網作り、髪結いの他に、新しくザコルの趣味が判明した。暗号解読は最低限の素養、と彼に教えたのもきっとこのマージだ。マージは暗号作成と解読の名手だそうで、領内でもよく使われている暗号のいくつかは彼女の作品らしい。


「ふふ、坊っちゃまは変わらず勉強熱心でいらっしゃるのね。流石、私達のコリー坊っちゃまだわ」

「あれらの知識と経験は暗部に入ってから非常に役立ちました。ありがとうございます、マージ」

 ザコルが柔らかい笑顔をむけたのでマージが目を見開いて硬直した。

 そして眉を下げ、握りしめていたハンカチを再び目元に当てた。



 マージの報告は、やっと今日の午後の出来事に入った。


 例のザハリファンの女性達とは、マージが出陣のために屋敷を出た所で鉢合わせした。彼女らがここ数日ザコルへの反発を高めていた事は判っていたので警戒したものの、何故か彼女らは『ザコル様への間違った認識を改め、これからは彼とミカ様の力になりたい』と言い出した。


 シータイで活動するザハリファングループの先頭にいたのは、これまた何故かカリューから来たタキだった。タキが娘のミワの事で私達に恩義を感じている事は知っていたので、一旦はタキを信頼する事にし、目付を紛れ込ませた上で大軍の正面からぶつかるよう指示した。この時点で全く容赦ない処断をされている気もするが、ファンの一団は忠義を証明する機会を貰ったとばかりに喜び、エビーとタイタの後に付いて本当に前線へと駆け出した。その後の展開は先程も語った通りである。


 マージの視点の中では、話に聞く限り執事長を糾弾するような決定的な証言は見つからなかった。状況証拠は限りなく彼をクロだと囁いているが。

 結局、依然として執事長の行方や、黒幕がいかにして町に大軍を引き込んだかの謎は解けていない。




 結局二時間近くかかった報告会を終え、その後はマネジ、同志達、ペータとユキ、脱衣所死守チーム、タンバ以外の怪我人達など、マージが各功労者の元へお礼や労いを伝えに行くのに同行した。


 それから、まだまだ屋敷の片付けをしている人々のために手洗い・清拭用の湯を用意したり、一緒になって掃除に参加…しようとして止められたり、戦の負傷者が押しかけているであろう診療所のため、臨時救護所を再び開設したりした。救護所は町営の宿ではなく、屋敷の庭に出しっぱなしだった入浴用テントを利用し、主に軽傷者を受け入れた。

 手当はもちろんエビーとタイタに任せ、私は出張ってきてくれた山の民の女性達と一緒に井戸の近くで包帯を煮沸した。


 ザコルは井戸からの水汲みをひたすら行ってくれ、それに気づいた同志達も屋敷から出てきて水汲みの手伝いを始めた。

 積み上げられた樽の山。これだけ水を汲んでおいてくれれば、日が高くなり次第入浴イベントも開ける。今回は避難民向けではなく、戦って血や泥まみれになった人達向けのイベントだ。


 ◇ ◇ ◇


「ずるいぞ、お前達。そちらは随分と楽しそうだったのではないか」

「イーリア様までうちの従者と同じような事をおっしゃって」


 イーリアが戻ってきたのは時刻としては朝四時とか五時とか、そんな頃だろう。夜空がほんの少しだけ白み始めている頃だった。


「ずるいに決まっている。愚息や同志達の活躍などは話に聞けば充分だが、マージを交えて昔話に華を咲かせていたそうじゃないか。どうして私を待たない! 私ならばその頃のマージがどんなに健気で美しく可憐だったか存分に語ったものを! 赤子を抱いた姿などそれこそ天使のようで邸内でも評判だったのだぞ!!」

「見る方によって目の付け所って全然違うんですねえ…」


 マージが慣れない育児でいっぱいいっぱいにになっている中、この女帝様は美少女と赤子の絡みを愛でていたようだ。マージ達が先輩メイドに嫌味をかまされていた要因の一つに、この女帝の贔屓があったりしなかったのかと疑いたくなる。


「イーリア様、お食事をご用意いたしましたから、こちらへどうぞ」

 マージがそんなイーリアの言葉を何事もないようにスルーして、執務室のソファへといざなう。

「結局夜通しとなってしまいましたわね、大変お疲れ様でございました」

「ああ、まだ終わっていないがな」


 モリヤと衛士、一部町民によって、森に潜む残党狩りが続けられているらしい。カリューからも応援が来たそうだ。


「マージも、そしてお前達もご苦労だった。地下牢の死守に関しては特に礼を言おう。よく間に合ってくれた、ザコル」

 ザコルがペコリと軽く頭を下げる。

「礼ならば、僕達にいち早く報せたマネジを始めとした同志達と、従僕のペータ、そしてミカに。彼らの機転がなければ何もかも手遅れになる所でしたので」

「ああ、もちろんだ。同志の彼らにはまた借りを作ったな。…それから、ミカにもだ。肝を冷やした、よくぞ無事でいてくれた。昨日に引き続き、あなたには何と詫びればいいか…」

 イーリアが私に頭を下げる。

「どうかお顔をお上げください。お詫びだなんて。むしろ、みすみす拐われるような事態を引き起こし、私こそ大変なご迷惑をお掛けいたしました。出陣くださった事へのお礼と共に、軽率な行動をお詫び申し上げます」

 私も頭を下げた。

「何を言うか、みすみす拐わせたのはこちらだ。文句を言われるならともかく、拐われて迷惑をかけたなどと言う姫はあなたぐらいだぞ、全く」

 イーリアは私ではなく、ザコルの方を睨む。ザコルは黙礼で返した。


「私かそこの馬鹿者がならばともかく、ミカが私に詫びる理由などあるわけなかろう。それに、あなたは自力で拐った男や待ち伏せた者達を沈めたそうだな」

「…ええと、はい。半分以上はメリーにお願いしましたが」

「例のザハリ信者のメイドか。その者の強い洗脳を一瞬で塗り替え、従えた手腕もまたあなたの実力だ。誇るといい。その後はともかく、誘拐事件としてはそこで解決していたはずなのだからな」

 イーリアは目の前のサンドイッチを口に放り込んで飲み下す。


「して、どのように沈めた。あなたの武勇伝を聴きたいな」

 イーリアは白湯の入ったカップに口をつけた。食べ方は一見豪快でも、カップの持ち方は優雅の一言だ。二階三階にあった食器類は全て攻撃に使われてしまったが、一階の食堂で保管されていたお高い食器類はまだ無事だったらしい。

「でしたら、ここに件のメイド、メリーを呼んでもいいでしょうか。私、彼女に『今なら庇ってやれる』と約束してしまったんです。メリー自身は極刑もやむなしと考えているようですが、約束は約束ですから」

「ふむ、よかろう」

「イーリア様、罪人ですわ」

 マージがイーリアを止めようとする。そして咎めるような目線を私にも向けた。

「そうだな、罪は罪だが、ザハリが生んだ被害者の一人でもある。アレの信者がしぶといのはお前も分かっていただろう。それが、どのようにしてミカに魅入られたのかが気になる」

 マージは黙って一礼し、外に控えていた使用人に一言声をかけた。


 かくして、罪人メリーは監視役の女性達に伴われ、執務室へと姿を現したのだった。




「あの男が急な激痛に倒れ込んだ後しばらくしてミカ様が身を起こされ自らを結構な危険人物なのだと歌うように申されつつゆらりと立ち上がった瞬間の妖しく煌めく黒水晶に射抜かれた愚かなる私の心臓はすっかり全て鷲掴みにされよもや魔法をあのようにお使いになれる事を今日まで周囲にまるで悟らせずにいらした思慮深さ賢明さには簡単には手の内を明かさぬ玄人の風格を感じられそれに普段の慈悲深く清らかなる女神のようなお方から発せられたとは到底思えぬあの容赦ない殺気には歴戦の猛者でさえ怯むに違いないと愚かなる私もかの邪教の手先ども完全にのまれ」


「長い…」


「そしてそこからの怒涛の展開あれ程鮮烈に胸を焦がした瞬間は愚かなる私の一生を賭けてももう二度と出会えないものとミカ様が愚かなる私などを庇うために拳を振るってくださった瞬間愚かなる私の世界は一瞬で何かから解き放たれたように輝き始め沈みゆく太陽の紅き光を反射しながら踊る神秘的な黒髪敵を見据える黒水晶の瞳相手の心臓を串刺しにする言葉の数々そして未熟で愚かなる私が討ち漏らした敵にミカ様ご自身が叩き込んだあの天女の舞のごとく美しく鋭い一撃を放たれた直後の研ぎ澄まされた刃の美しいその切先によく似たあなた様の横顔に」


「長い…!! 長いしくどい…!! 私は物怪の姫か!? 愚かなるって何回言う気!? せめて息継ぎして!!」


 チュンチュン、外で鳥達も囀り始めている。こんな時間になってもまだこのテンション、若さってすごい。


「ミカ様という素晴らしき唯一無二の存在が私の心を体を夜通し突き動かし続けているのです! それに、それに…!! ミカ様がザコル様に対しいだかれているその苛烈なまでの想いとお覚悟。それをあのように見せつけられては…!! どうしましょう、ずっと胸がときめいて止まらないのです…!! ああ今すぐここに教会を建てたい…!!」

「メリー殿、あなたはどうやら推しカプという沼にハマられてしまったようですね」

「やはり!? やはりそうなんでしょうかタイタ様!!」

「もー!! 教祖は黙ってて! これ以上話をややこしくしないで!」

 教祖…エビーが小声で吹いている。


「あー、呼ぶんじゃなかった…」

 頭を抱える私の肩をポンと叩く存在がある。ドングリ先生だ。

「誰がドングリ先生ですか。人がせっかく慰めの言葉でもかけようとしているのに」

「言っときますけど、ザコルも沼の一部なんですからね。何を他人事みたいな顔してるんですか」

 ザコルが私の肩に手を置いた瞬間からこっちを爛々と凝視しているメリーを指差す。ザコルはそっと肩から手を引いた。


 マージが呆れたように額に手をやっている。監視役の女性達は心なしかぐったりしている。彼女ら、まさかコレを夜通し聴かされたのでは…。イーリアはさっきからずっと手を口元にやっているが、あれは絶対に笑いを噛み殺している。


「…っくく、いいだろう、この者への罰はミカが決めろ」

「イーリア様! それでは他の者に全く示しがつきませんわ!!」

 マージが声を荒らげる。私に任せると甘い処断を下すと思っているんだろう。

「義母上、流石に雑すぎやしませんか。マージの心労にも配慮してください」

 坊っちゃまも世話係の姉やを援護する。

「雑とは随分だな。私とてこの者を簡単に赦そうなどと考えていない。ミカ。この者により大きな精神的なダメージを与えるとしたら、どんな罰がいいと思う?」


 むう、このにわか強火オタクに精神的ダメージをか…。


「…うーん、そうですねえ…。このメリーは死ねと言っても喜んで死にそうなので…」


 例えば、一年くらい私達に会うのも私達の話をするのも禁止と言いたいところだが、オタトークはともかく、全く会えないようにするとなると結局は監禁するか放逐にでもしないと現実的じゃない。それでは死ねと言っているのとあまり変わらない気もするし、『たとえ一生口に出せずとも心内に炎を燃やし続けてみせます』とか『放逐くださるならば喜んで全国邪教殲滅の旅に』とでも言い出しそうだ。想像できた。

 結局のところ、極刑も含め、正攻法ではこの子に関しては大した罰にならない。イーリアもそれをよく解っているのだ。


 ザハリを預ける予定の『洗脳班』とやらの事を思い出す。一瞬、彼らに預けた場合について考えてみた…が、メリーは別に同担拒否ではないし、同志とは『推しカプ』話で盛り上がるだけで何の罰にもならない。却下だ。


 というか、もし同志とメリーが結託したら…。ゾッ、何とも言えない悪寒が私を襲う。


 メリーは若いが、一端の、いや一流の戦闘員だ。命の取り合いにも躊躇がない。そういった戦闘員の覚悟や境地を、あくまで『屈強な一般人』でしかない同志達に伝授でもされたら…?

 例えばジャンヌ・ダルクのように、革命よろしく同志達を率いて王都にでも突っ込んだりとか…………


 私は首を横にブンブンと振った。

 駄目だ駄目だ。混ぜるな危険。善良なる同志達でなく、もっとどうでもいいものを生贄に差し出そう。それがいい。


「あ、そうだ。あの新人従僕見習い達。彼らにつきっきりで仕事を教えるっていうのはどうでしょう。メリーならあの阿呆の子にみすみす手籠にされる事もないでしょうし。まあ、何か問題が起きれば責任重大ですけど…」

「ふむ。あの阿呆共が問題を起こさぬ訳がない。丁度いいじゃないか」

 どうでもいい人が丁度よくこの屋敷にいてよかった。


 阿呆共…? とメリーが疑問符を浮かべている。この子もユキと同じように王子の襲来には同席していなかったか。記憶を辿ってみると、確かにあそこにいた使用人はベテランばかりだった気がする。若手はのきなみ怪我人の避難誘導でもしていたんだろう。


「もし任せるのなら、阿呆の子の素性は明かしますか? 虐待などしないよう見張り役が必要になるかもしれませんが」

 この強火業火ファンが、新人をかの第二王子と認識して手を出さずにいられるかどうか…。

「軟弱な阿呆共だ。虐待されるくらいで丁度いいのでは」

 身も蓋もない。

「ええと、一応、傷なんか残させたらご子息のせいになるのでは…」

「どうせ無傷でも言いがかりはつけられる。だったら苦痛くらいくれてやった方が精神衛生上得というもの」

 得…、後ろでまたエビーが吹いた。

 どうやらお母様は義理の息子が貶められたことに随分とお怒りのようだ。

「精神衛生を保つためでは仕方ないですね」

「ああ、仕方ない。決まりだな」

 イーリアが立ち上がる。


「な、何が決まりですの! いくらあの新人をしごくためといえど、この者への処罰が新人の教育のみというのはあまりにも…!!」

「では、断髪でもしてもらおうか。あの色ボケの阿呆の前では従僕として振る舞え」

「断髪!? 承知いたしました! 今すぐにでも」

 メリーが三つ編みにしていた自分の髪を勢いよく引っ張る。

「いい心がけだ」


 イーリアは剣を抜くと、監視の者を下がらせて剣をシパッと振った。はらりとメリーの頬に短くなった髪が垂れる。メリーは掴んでいた髪束を自分の前に置いて差し出し、サッと美しい土下座を決めた。イーリアはその眼前に剣先を突きつける。


「ミカの温情に感謝しろ。解っているだろうがお前に選択権は無い。お前にはさる者達の教育を任せる。そいつらが起こした問題はお前の責任となるのだ。心して励め」

「おおせのままに」

 メリーは女帝の言葉に頷き、床に額を擦り付けた。



 マージがメリーの三つ編みを拾い上げる。

 あれをかつらにしたいなどと言ったら怒られるだろうか。


「悪趣味な発想は封じてください」

「でも、もったいないですよ。良い色ですし」

 メリーの髪は暗めのブロンドというか、明るめの茶髪といった色だ。よくある色だし、変装には丁度いい。

「もしやかつらにでもとお考えなのかしら? これはダメよ。かつらが必要ならば他に用意して差し上げます」

 マージはまだ少しムスくれているようだ。無理もない、自分の屋敷の使用人の処遇を勝手に決められてしまったのだから。というか、またもやぽっと出の謎女がしゃしゃり出て…。


「全く、あの坊や達はわたくしがきっちり矯正して差し上げようと楽しみにしておりましたのに」

「そこですか…。お姉様が直々に躾けてくださるなんて、坊や達が喜ぶだけですよ」

 マージはメリーの髪束を執務机の上にあった紙で包み、引き出しにしまった。そしてイーリアへの報告を再開した。


 未だに顔を伏せているメリーを見下ろす。ざんばらになった髪は後で整えてやった方がいいだろう。そういえば坊や達は今どうしているのだろうか。何となく緊張感も何もなく寝こけていたりしそうな気もする。というか、誰も彼の無事を直接確認してやらなくていいんだろうか…。


「どうせ全員血と泥まみれですし。彼らは抵抗力も弱そうなので、しっかり身を清めるまでは対面しない方がいいと思います」

「なるほど。合理的配慮ですね」

 他の人程じゃないけれど、私ですらも返り血を浴びている。王宮育ちの坊やには心身ともに刺激が強すぎるだろう。


「姐さん、あの男倒すのに、魔法使ったんすね」

 エビーが雑談の延長のように訊いてくる。敢えて軽い調子で探りを入れられている気もする。そこ、やっぱり気になるよね…。

「あー…うん、黙っててごめんね」

「いや、別に謝らなくたっていいんすよ。あの、大丈夫すか」

 軽い口調が、気遣わし気な声色に変わる。

「うん、大丈夫。そうやって心配させるかと思って言えなかったんだ。使ったのは最初の不意打ちだけで、氷結じゃなくて熱湯魔法の方なの。酷い火傷っぽくなってたけど、一応治るとは思う」

「ほー、そりゃ痛そうっすねえ」

「うん、痛がってたよ。…後は、それをネタに脅しつつ時間稼ぎがてらメリーを説得して……男の方はともかくメリーが本気でかかってきたら勝てないと思ってね。彼女には魔法使いたくなかったし。あのジミーとかいう男、取り乱してるメリーを人質に取ろうとしたもんだからさ、咄嗟にドングリで目潰しして、ブレスレットを拳に絡ませて人中に叩き込んで、魔法使うぞってまた脅して…。そこでメリーが少し冷静になってくれたから助かったよ。藪に潜んでたのはメリーにほぼ丸投げできたし。私はジミーと、メリーが取りこぼしたのを一人沈めるくらいで済んだ」


 エビーとタイタが互いに顔を見合わせる。


「…いやいやいや、姉貴、その冷静さ何なんだよホント。目潰しとか人中に拳叩き込むとか、拐われた姫のやることじゃねえだろ」

「俺も、誘拐時の詳細は今初めてお聞きしましたが……。よもや本当に…」

「へへ、何せ危険人物だからね、私」

 フイ、何となく皆から視線を外す。その瞬間、頬をガッと掴まれた。

「んぶぅっ」

「ミカ、また思い詰めているでしょう、今回は判ります」

 無理矢理掴まれたまま、顔を覗き込まれる。ペータ相手の時は顎クイだったのに、この扱いの差は何だ…。

「あ、俺が大丈夫かって訊いたのは曲者野郎の安否じゃねえすよ。姐さんが魔法で仮にも人間傷つけてショックとか受けてねえかって意味すからね」

「しょりぇは、ずぇんずぇんぢゃいじょーぶ…」

 それは全然大丈夫。

 そんな事は気にしていない。どうせ物理で攻撃したって相手が怪我する事には変わりない。どちらかといえば拳で鼻を潰した感触の方が気持ち悪過ぎて印象に残っているくらいだ。

「ミカはほぼ丸腰だったでしょう。担がれた状態でできる不意打ちなんて、魔法を使うくらいしかできなかったはずです。もし僕が同じ立場でも…」

「じゃきょりゅ…ふぁぬぁすぃとぇ」

 ザコル、離して。このままじゃまともに話せない。

 ザコルが私の頬から手を離す。すりすり、頬をほぐす。


「…ふう。別に、曲者相手に魔法行使した事を気に病んでいる訳じゃありません。脅し材料としても丁度良かったですし。でも、私ってやっぱり危険人物なんですよね…。メリーにも言いましたけど、私、魔法を使えばどんな膂力の人でも無力化できてしまうんですよね。…嫌でしょ、そんな悪魔みたいな女の護衛なんて…」


 ああ、駄目だ、今の言い方は良くなかった。

「んだと姉貴、またそんな事」

「ミカ殿、俺達をご信頼いただけないのでしょうか」

 詰め寄ろうとするエビーとタイタに首を横に振る。

「違うの、ごめん、今のナシで。信頼できないとかそういう事じゃないんだよ」


 やろうと思えば水魔法で自在に人を害せるというのは、一応彼らも知っていた事だ。しかしこうして実際に人体に魔法を行使してしまったと打ち明けるのは、ついに自分が人間を辞める方向に舵を切ったとでも宣言しているようで…。


「ミカは、今日の僕の姿を見て何か思うことはないんですか」

「え、好きですけど」

 ずざ。ザコルが後ずさる。つい反射で答えてしまった。

「違う! そういうんじゃない!! だ…っ、だから! 僕は今日、あなたの前で初めて……殺しを、したんです。それも数え切れない程の人数を…。僕は、今までもこうして殺す事で生きてきた人間だ。血まみれの僕を見て、改めて何か思うことはないんですか。ミカだって以前、もし目の前で凄惨な現場でも見れば感じ方も変わるかもしれないと言っていたでしょう」

「言いましたっけ、そんな事」


 ザコルのつま先から頭までを改めて眺めてみる。

 まだ外は薄暗く、ランプの灯りのみなのでそう鮮明に見える訳じゃない。手や顔の血は湯で落としているが、黒い騎士団服にはまだ色んなものがこびりついている。何かが浮いたように見えるモノは、全て人の血肉だろう。


「何か思うこと……そうですねえ、とりあえず、あの気配も殺気も音や風さえも纏わずに繰り出されるホンモノの技の数々は、もはや尊みしかなくてもう内臓全部吐きそうでしたよね。剣がまるで生き物みたいで、血を拭う仕草一つにも色気があって。凄惨といえば凄惨でしたけど、それ以上に、とにかくスゴいとかヤバいとかヤバいとか…、何かもう感動のしすぎて私の語彙は無事死にました。ああそうそう、その匠の技を心から称賛できる自分自身の感性には感謝しましたよ! 私の趣味最高!! うちの彼氏最強カッコいい!! って……あれ?」


 夢中になって語っていたら、いつの間にかザコルが頭を抱えて蹲っていた。デジャヴ。


「それでこそ我らの氷姫様! ミカ殿には是非そのまま生き生きとしていていただきたく!」

 タイタには褒められた。

「へへっ、ミカさんはそーでなくちゃな。…で、何自分だけカッコいいとか言われてんだよ。俺らだって真剣に戦ったってのによお。撃沈してんじゃねえよ」

 エビーがザコルの丸くなった背中をゲシゲシと蹴る。

「あ、もちろんエビーもタイタもカッコ良かったからね! 後で個別に褒め褒めタイム作るから! …それであの、ごめんなさい、ザコルはこういうのは引いちゃうんでしたね…」

 ついつい好意をド直球で伝えた挙句、オタク語りまでしてしまった。メリーの事を言えない。


「ぐう…だから、引いている訳じゃないと、何度言えば…」

 ザコルがヨタヨタと立ち上がる。あの洗練された身のこなしと比べるとギャップがすごい。


「僕が言いたいのは…。僕だって、いや僕こそ、人間を辞めていると揶揄されるような、化け物に違いないんです。…フカミドリの犬の次は歩く火薬庫だぞ。僕は火薬なんて使わないのに。せめて生き物に例えて……いや、そんな事はどうでもいい」

 まとまらなくなった考えを振り払うように、ザコルは首を横にブンブンした。


「僕は今日、あなたには何度も救われているんです」

「救われ…? 救ってもらったのは私の方ですよね」

「物理の話じゃありません」


 すー、はー。ザコルは深呼吸して息を整えた。


「…血まみれでも、抱き締めていいかと言ってくれました。潰れてもひしゃげてもいいから、側にいて触れてほしいと言ってくれました。こんな化け物を、一切忌避せずに受け入れてくれるあなたが、たった一度魔法を使って自衛したくらいで、一体何を気にする必要がある? どうかそんな事を後めたく思わないでほしい。思わないでくれ。どうか…」

「…………」

「…ああ、もう、泣くなよ…ミカ」

 ぎゅ、ザコルが私の頭を抱き寄せる。



 しばらくして、タイタとメリーのただならぬ視線に気付いて私達は息を飲む事になった。




「ミカはそのように瑣末なことを気にするのだな、意外だ」

 いつの間にかマージとの話をやめてこちらを伺っていたらしいイーリアにはそんな事を言われた。恥ずか死ぬ…。


「瑣末、とは…。あまり人間離れすると他人様に恐怖を与えるかと思いまして」

「安心なさってミカ。わたくしだって、ミカの魔法の性質ならばとその可能性に気付かなかった訳じゃないのよ。でもね、ミカならばきっと正しく使えるに違いないと心から思えるの。神様はミカの強く清廉な魂にこそ相応しいと、その魔法をお授けになったのね」

「マージの言う通りだ。堂々としているがいい」

「あ、ありがとうございます…」

 相変わらず買い被りにも程があるし、信用もしすぎだ。きっと、二人とも私の性格の悪さを知らないんだ。


「ミカが僕に対して自衛の手段を持っているなんて素晴らしい事ではないですか」

「何言ってるんですか、ザコルに魔法で攻撃するなんて何があろうとも絶対にあり得ません」

「…よし、僕にもブーメランの使い所が回ってきました。僕だってミカに殺気を放つなんて絶対にあり得ませんから!」

 フフン、と得意げに腕を組むザコル。かわいい。

「別に殺気くらいいいじゃないですか。死ぬ訳じゃなし」

「それが、過去に僕の殺気を浴びた直後、急に心臓が止まって死んだ者が何人かいるんですよね…」

「何ですかそれ!! 殺気だけで人殺せるって事ですか…!? すっごい、ますます直撃喰らってみたくなりました!!」

「ミカこそ本当に何を言っているんですか…」

 出た、怪訝な顔。すき。


「兄貴よう…。俺にはそんな殺傷力の高いモノしょっちゅう向けてるって事すか…?」

「お前は耐性が低そうなので弱い殺気から始めて徐々に強めている」

「一体何を言ってんすか…!?」

「お陰でさっきのマージの強い圧にも耐えられたじゃないか、感謝しろ」

 フン、盛大に鼻を鳴らしてふんぞり返った。なでたい。

 …やばい、さっきの言葉に浮かれているのか脳が退化している気がする。一旦落ち着こう。


「ザコル、お前にも兵器だの化け物だの心が無いだのと言われて傷付く心はあるのだな。昨今芽生えたのか?」

「ですから、僕はあまり表に出ないだけで元から感情ある人間だと言っているでしょう」

 お母様は酷すぎる。

「わたくしは、深緑の猟犬も、歩く火薬庫も、なかなか格好良いと思っていますわよ。坊っちゃま」

 姉やは甘すぎる。


「マージは良くとも僕は嫌なんです! 父上や義母上は『アカイシの番犬』と『アカイシの女帝』で一応国境守りらしい意味のある二つ名なのに! 僕は使い古したマントの色、しかも猟犬。猟犬は小型犬が多いじゃないですか。ただの悪口なのは明白です!」

 要は『ボロを着たチビ』とでも言いたいのでしょう、とザコルはまた鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「まあ。そんな意味に捉えていらっしゃるの? 考え過ぎですわ」

「意外に器の小さいことも考えているのだな。ボロを着なければいいだろうが」


 確かに、ザコルは長身の者が多いテイラー騎士団などに混じるとパッと見では小柄に見える。そうは言っても筋肉の厚みで言えばぶっちぎりで優勝だし、そもそも日本人だったら全く違和感のない高さだ。使い古したミリタリー色のマントだって私はいいと思う。まあ、よく見ると所々破れかかっていて確かにボロではあるが…。


「私が気にしないならどうでも良いような事を言っていたじゃないですか」

「そうですね、僕も別に自分の背丈や身なりを恥じた事はありませんが、悪口そのものより、悪口に近い二つ名を平然と国までが公用してくるのに納得がいかないのです」

「それは確かに…。ザコルが気にしてると思ってないんですよ。今度新しい二つ名を考えてあげましょうか」

「ミカに考えさせたらもっと酷い事になりそうなので結構です」

 失礼な。最高にイカした二つ名を考えてみせるのに。


「おい、ゴチャゴチャ言うくらいならもう少し自分の身なりを恥じたらどうだ」

 イーリアもザコルと同じようにふんぞり返って目を眇めている。この腕と脚の組み方、そっくりだ。

「今後僕の服はオリヴァー様が監修なさるそうですから。彼が飽きるまでは僕に服装の選択権などありません」

「マントくらい替えろ。大体いつからあれを使っている。いくら何でもボロ過ぎだ」

「オリヴァー様があのマントは伝説だからいいのだとおっしゃるんです。勝手に替えたら機嫌を損ねるかと」

「お前はビスクドール殿の言いなりか?」

「主家の跡取りです。いずれ彼が僕のルールになるので」


「そんな十歳の跡取りと子供みたいな喧嘩してサーラ様に怒られてたくせに…」

 オリヴァーはツンデレだ。大好きなザコルに対しては思いっ切り突っかかってしまうので、ザコルの方は嫌われているものと完全に勘違いしていた。そしてほぼ同レベルの口喧嘩をしていた。ふふっ。


「笑うんじゃない。大人げなかったのは理解しています。今となっては、そんなところも可愛らしいとは思いますが…」

「ザコルも案外ツンデレ好きなんですねえ…」

「へへっ、敵煽り倒して追い詰めてる姉貴の姿に惚れてるだけありますわ」

「うるさい」

 ビュ、ドングリ…じゃない、違う何かが飛んだ。エビーは間一髪避けたようだが、壁にドッと直撃し穴を開けた。

「は…? おい、今の、本物の飛礫だろ鉄製の!! 何殺しにきてんだこの馬鹿兄貴!!」

「ドングリが無くなっただけだ」


 しれっと答えるドングリ先生。ザコルが鉄製の飛礫なんて投げたらもう鉄砲と同じだ。本当に体を貫通してしまう事だろう。


「坊っちゃまったら、壁に穴を開けてはいけませんわ。ほら、お行儀よくなさいませ」

「…はい、すみません」

 姉やに指摘され、大人しくふんぞり返るのをやめる坊っちゃま。ほっこり。


「お前達、報告ご苦労だった。とりあえず、もうミカは休ませろ。また夜通し包帯を煮ていたらしいではないか。明日はテイラーからの便が来るぞ」

「あ、そうでしたそうでした。誰が来てくれるか知らないけど疲れた顔なんかで出迎えたらまたザコルが怒られちゃう。早く寝ましょう。お言葉に甘え、御前を失礼いたします、イーリア様」


 手をひらひらと振るイーリアとニコニコとしたマージに一礼し、部屋を出る。ザコルは未だに停止しているタイタを担いで来た。ちなみにメリーは監視役の女性達が二人がかりで担ぎ出していった。



つづく

ミカ「私って、後から脳内反省会繰り広げるタイプなんですよねえ…」

ザコル「僕は片端から忘れようと努めるタイプです。最悪物理で隠滅」

エビー「何言ってんだ、兄貴の方が脳内で拗らせまくってんだろが」

タイタ「心の猟犬ノートに書き留めます」

ザコル「今の何をですか!?」

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