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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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これぞサカシータ名物

「いや、俺は感動したね」

「何にだ、エビー」


 エビーが誰にとはなく話し出す。律儀に返事したのはタイタだ。


 ぞろぞろ、ワイワイ。陽の傾き始めた放牧場。集まった人々は徐々に町へと帰ってゆく。私達もその波に乗ってぼちぼち歩いていた。


「ザコルの兄貴がよう、姐さんの首ブン回さねえように守りながら落ちてきたことにっす」


 そういえば、上空で私をキャッチしたザコルは、私が頚椎を痛めないようにガードしながら慎重に着地してくれた。ありがたいことである。


「あの頃に比べたら随分成長したなと思ったんすよね。あの頃に比べたら!」

「ああ、テイラーを出立なさった頃のことか。最近まで、馬に乗る際にはまるで小荷物のように振り回していらっしゃったものな。主家の皆様やハコネ団長はもちろん、テイラー家の使用人達にまで随分と心配されていた」


 うんうん、うんうん。


「俺ら氷姫護衛隊もこのまま送り出していいもんかって本気で心配しましたよねえ。いやあ、成長したもんすよお。普通の人間が何したら死ぬのかよおおおーっくお分かりのよーですし? なんか雪玉みてえに投げてたのはきっと幻覚すね幻覚!」


 どうやら盛大な嫌味であったらしい。


「ねえ、またその話? だから投げてもいいよって許可したのは私で」

「爆弾ミカ坊は黙ってろください」

「はいすみません」


 爆弾ミカ坊……。


「僕はこれでも反省しています」

「ほお、何にすか姫投げ野郎」


 姫投げ野郎……。


「ミカが僕が投げた程度では怪我しない、という判断は間違っていなかったと思いますが、僕が反省しているのは、僕がミカをヤンチャに育ててしまった、という点です」


 んむふっ、と吹いたのはサゴシだった。珍しいな。


「いいかコンニャロウあんたが雑に投げたりすっから姐さんも自分を雑に投げ出したりすんだぞ解ってんのかコンニャロウ」

「はいすみません」


 んぶふふふううっ。


「なんでコンニャロウって二回言ったの……っ」

「おいおいさっきから何笑ってやがんだサゴシ」

「そうですとも、全く笑い事ではないのですよサゴシ殿」

「いや、だって……っ、姫ブン投げんなって騎士に叱られて何普通に謝ってんの伝説の工作員が……っ、姫は爆弾ミカ坊だし……っ、あーもーダメ!! 意味分かんなさすぎて毒気抜かれるううう!!」


 シュバ。何かがツボに入ったらしい忍者は雪の積もった薮に突っ込んでいった。周りの視線が生ぬるい。お前ら今日もゆるゆるかと言いたいのだろう。


「あの! 今、姫を投げた? と聴こえたのですが!」

「えっ、そんなことしたんですかザコル様!?」

「えーっと、冗談ですよラーマさん、ララさん」

「いえ本当ですラーマ、ララ」

「ザコル……」


 どうして投げた本人が話を合わせてくれないんだろうか。


「聖女ミカ様、本当にお怪我はないのですか!」

「ええ、それは全然大丈夫です。あはは、爆弾ミカ坊ですって」


 仕方がないので無理矢理話題を変えることにした。


「爆弾……。本当にあの爆発はミカ様が?」

「実演しましょうか」

『やめろ』


 エビーとザコルの声がハモった。


「おい、姫を雪玉のように投げたというのは本当か、ザコル」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。偉い人にも聴かれていたようだ。


「イーリア様、さっきも言ったんですが投げてもいいと言ったのは私で」

「ほう、もう一度説教を受けたいようだなミカ」

「いいんですか!」

「……いやっ、あなたはいいんだあなたは! さっき散々叱っただろうが!」

「だめですか……」


 しょも。


「やめろやめろ落ち込むなこっちが罪を犯している気になる……!」


 イーリアは、昨日のザコルと同じような台詞を吐いてオタオタとし始めた。


「義母上までミカのペースに巻き込まれないでください。僕を叱るんじゃないんですか」

「女帝閣下、その姫は推しを守るためなら巧妙な演技もするタイプっす」

「解っている!」


 解っているのか……。


「だがこの愛らしい顔が悲しみに染まる様子に、心動かされぬ者があるものか!!」

「騙されにいかないでください」


 キュールルー……


 遠くで鳥の鳴く声がする。

 今日は雲も少なくよく晴れていて、雄大な山々が頂上の方までよく見渡せた。青い空と、雪と、稜線と。見慣れてはきたが、美しい景色に囲まれて過ごせる毎日に感謝を捧げつつ。


 キュールルー……


「あれ、あの鳥、やけに大き」


 キョエエエエーッ!!


 朱雀が呼応するかのように鳴き出した。


「あっ、ミリューです! ミリュー!!」


 イリヤが大きく手を振る。その頭上でミイが一回転する。


 バサリと大きな翼をはためかせ、大型飛行魔獣の彼女は雪上に舞い降りた。


「おおーい! 元気にしていたかい」


 真っ先に飛び降りてきた人を見て、イリヤとゴーシが目を輝かせた。


『おじいさまだあ!』


 わーっ、巨人然とした彼に二人は駆け寄る。ざわ、と町に戻ろうとしていた人達も一斉に色めき立つ。


「だっ、旦那様だ!」

「ご領主様よ、あ、あたし、こんなに明るいうちにお姿を見たのは初めてかもしれないわ……!」

「俺だって!」


 人見知り女見知り場所見知りで滅多に人前に姿を現さない、サカシータ子爵オーレンの堂々とした佇まいに、領民の皆さんは驚きを隠しきれていない。


「今日は、いや、今年はいいことが起きそうだな!」


 これぞサカシータ名物、妖精領主である。

 ぶふうううっ、薮でまた誰かが吹き出した。




つづく

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