コンデンサー的なものかな
「む」
「む?」
「ミカ、こっちへ来てください」
「はい」
なんか呼ばれたのでザコルが座る席に近づいたら、なんか腰を掴まれて膝に乗せられた。
「? どうしたんですか」
「疎ましい気持ちになりました」
すーりすりすりスンスンスン。ザコルはそう言って背中や髪を吸い始めた。調子が戻ってきたようで何よりである。
「疎ましい……もしかして、サゴちゃんを褒めたからですか? しょうがないですねえ、ザコルの褒め褒めタイムもしましょうか」
「それはしなくていいです」
「なんでですか」
いつでも褒めちぎる準備はできているのに。
「あ、なんか解った」
パチン、と指を弾いたのはエビーだ。今更だが、この状況にツッコむ気はもはやないらしい。
「何がわかったの」
「兄貴の生態的なことっす」
生態……。ついにザコルも『ザコルという生き物』扱いされ始めたか。私のように。
「ほらこの人、尋問の後とか姐さんに甘えにくるじゃないすか。それって何かこう、疎む気持ち? っつーのを姐さん触ることで整理して、闇の力に変換してんじゃねーすか。それで回復につなげてるっつーか」
「回復? 中和じゃなくて?」
そういえば、ザコルは私を触って闇を中和しているわけではない、とジョジーに言われたこともあったっけ。
「でも、私を触ったって闇は回復できないよ。最近は私も貯めてるから、意識すればワンチャン渡せるかもしれないけどさ」
そうだ、その辺りもジョジーに聞いておかないと。今のままでは、サゴシだけが私の力で救えない。もし闇の力だけを移譲する方法があるなら、知っておいた方が絶対にいい。
「だから闇ってなんか、心の問題も絡む? んすよね、女帝閣下によると。世の中に対する文句とか、愚痴とか、なんか上手く言えねーすけど、そういうのが原動力になって闇の力を生成してる、的な」
エビーほどのコミュ強が言語化に苦労している。しかしそれも仕方ないことかもしれない。元々手探りなことばかりな上、イーリアの言う『疎むことが原動力』というのも少々哲学的な表現だ。
「うん、そういう話だとは思うよ。ジョジーに聞いた闇の生成方法は、決して愚痴を思い浮かべろって感じじゃなかったけど……」
「だからほら、知らねーうちに蓄積してる嫌な気持ちを闇の力にしてスッキリ? 的な感じなんすよきっと。どうすか、ジョジーちゃん」
エビーは机の上にある蜂蜜牛乳のカップに顔を突っ込んでいたお猿に話しかける。ちなみにミイも同じようにしてカップに顔を突っ込んでいた。
キキィ……。
ジョジー、人間の気持ちよくわかんないです。
「ジョジーはよくわかんないって。でも、エビーの言いたいことは何となく分かるよ。疎む気持ちっていうか、心のモヤモヤを闇の力に昇華させることで、折り合いをつけてるんじゃないかってことだよね」
それはそれとして、膝に入れたり、においを嗅ぐのは別問題な気もしなくもないが……。
一応、エビーの言う通り、ザコルは今のように嫉妬した時や、疲労を感じた時、イライラした時などに私の髪に頬ずりしたり、においを嗅ぎにきたりする。本人としては単なるテラピー感覚かもしれないが、実は闇の力の生成につながっているとしたら。
……えっ、私を触れば触るほど闇の力が増えていくってこと? ひとりで貯めてるのとは別に?
「一応訊くんですが、生成中なんですか、ザコル」
「分かりませんがスッキリはしました」
「そうですか……」
ぎゅむ。腰に回った腕に力がこもる。スッキリはしたらしいが、私を離す気はないらしい。
ちょいちょい、とジョジーが私の袖を引く。
キキィ、キキィ。
髪、使います。
「えっ、髪? 何に?」
ジョジーは私の肩に飛び乗ると、そのふわふわとした毛を私の頬にすり付けた。
「ふふっ、くすぐったいよ。かわいい……ね…………」
ぞわ。
「ひぇっ」
「ミカ?」
急に自分の両腕をかき抱いた私に、ザコルが心配そうな声を上げる。
「どうしたんすか」
「ミカ殿、お寒いのですか?」
「う、ううん」
おかしいな、ザラミーアは確か『なんだか気持ちいい』とか言っていた気がするのに。
ジョジーからもらった闇の力は、散々身体を駆け巡った末、私の中に落ち着いた。
「……ありがとう、ジョジー。そうすれば良かったんだね」
ミイミイミイ。
ミイは肌か体液でも通うと思う。
ミイが口を挟んできた。ミイは、以前サゴシが死にそうになっていた際、ザコルと手をつなげと助言してくれた。実際、その時はそれで何とか危機をしのぐことができていた。
キキキィ、キキィ……。
髪は血が通わないです。闇だけの通り道。ミカは万物の魔力大きすぎて特殊、中和しちゃうです。髪なら、肌よりも純粋な闇、通わせられる。
「へえ、コンデンサー的なものかな」
キキィ……。
髪、呪いにも、使えるよ。
「えっ、の……っ!? それって、例えば、そういう風に作って相手に渡したり、何かに混ぜたりするってこと? 発動条件は」
キキィ……。
呪い、宿らせた髪。燃やすと、ひろがります。
「燃やすって……ええー……、絶対アレじゃん。エビー、ちょっと、例の香のサンプル持ってる?」
「あ、はい」
エビーが懐を探り、紙に包んだものを取り出す。
ミイイ……!!
ゲンブがダメって言ってたやつ!!
「大丈夫だぜミイちゃん。これ、燃やさねえと発動? はしねえんだよ」
どうどう、威嚇する白リスをマブダチがなだめる。
「ジョジー、これね、前も見せたことあるけど、火をつけて燃やした香りを嗅ぐと、魔力を抑制して、外に出せないようにしちゃう効果があるものなのね。ありふれた木粉と香草を原料にしていて、そんな効果のない偽物? も出回ってるみたいなんだ。『本物』にはどんな加工が施されているのかまだ判明していなかったんだけど、これにも、誰かの髪が混じっている可能性はあるのかな」
『髪?』
護衛達が顔を見合わせる。
キキィ……。
あるです。燃やしたら広がる、それは呪いの髪。ジョジーは呪い作れないよ。
「ジョジーは作れない……。髪に込めるにしても、能力が必要ってことかな。あと、それって、本人が生きてないと使えないとか、そういうことある?」
キキィ……。
ないです。浄化しなければ、ずっと使えるよ。
……術者は生者でなくともいい。なら、材料として遺っていてもおかしくはないわけか。
「よし、昔の文献的なものを漁ろうじゃないか」
シシは『香り』を媒介にした呪いの実例があると言っていた。近しい例がどこで起きているか判れば、この呪いがどこから来たのかの見当くらいはつくかもしれない。
つづく




