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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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来ちゃダメーッ

 バサリ、バサリ。


「来ちゃダメーッ」


 私は背にオウ……ではなくラーマを隠す。


「おい姐さんも下がってろよ」

「我々の背にお隠れくださいミカ殿」


 エビーとタイタがそんな私をさらに隠そうとする。 


「でもっ、私じゃないと朱雀様と交渉できないでしょ!?」

「聖女ミカ様! どうかお下がりください。これ以上あなた様に庇われては私も立つ背がございま」

「出てきちゃダメ!」


 何をゴチャゴチャ言ってるんだか、体裁なんて今一番どうでもいいことなのに。


 この朱雀には口八丁も小細工も通じない。というかそもそも何を考えているのか、ミリナの指示をどこまで理解しているかさえも正確なところは判らない。


 バサリ、バサリ。


「待って朱雀様! この人、敵じゃないの! 何にも悪いことしてないから!!」

「せっ、聖……ミカ様……っ、私のような者さえも、その小さな背で……っ、どこまで慈悲深くていらっしゃるのですか!!」


 なんか後ろでラーマが涙ぐみ始めた。今、小っちゃいって言った……?


「小っちゃいの関係なくない……じゃなかった、そんなこと言ってる場合ですかって! もしも上空に放り投げられたらサカシータ一族でもない限り無事では済まないんですよ!? 分かってるんですか!?」


 全く危機意識が足りない。もっと生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている自覚を持ってほしい。……とかいうのを、平和ボケした現代日本人に説かれてくれるなとも言いたい。


 バサリ。


 ついに赤い羽毛恐竜みたいな魔獣が雪上に降り立った。おースザクやっちまえーと言いかけた、魔獣と旧知のおじさん達を私は軽く睨んだ。


「そこっ、てへぺろ、じゃないんですよ! 本当に洒落にならないんだから! 朱雀様、落ち着い」


 キョエッ!! キョエエッ!!


「落ち着い……」


 キョッ、キョエィッ。


「? あの、どうかしたんですか?」


 私は、どこか不機嫌そうに首を振る朱雀の方へと一歩踏み出した。途端にがし、と腕をつかまれる。


「ミカ、興奮する魔獣へむやみに近づいてはいけません」

「でも、何か様子がおかしいです。朱雀様、朱雀様。どうしたんですか」


 掴まれていない方の手を伸ばすが、朱雀はプイと顔を背ける。本当にどうしたんだろう。


「ミカは、自分が守られる立場だということを『また』忘れてしまったんでしょうか」

「? 私、雪がある限り割と最強ですよ」

「それは知っています。イリヤ。スザクの様子に心当たりは?」

「はい、分かります先生!」


 金髪碧眼の少年、イリヤが元気に挙手する。


「スザクはくやしいんです!」

「悔しい?」

「きのう、あそびにまぜてもらえなかったから、ずっと怒ってます!」

「ああ、なんだ」

「なるほど」


 昨日の追いかけっこは、シータイにいる魔獣のうち、朱雀だけ参加させないようにと世話係名代たるイリヤに頼んでいた。理由は簡単。勝負にならないからである。


「調子悪いとかじゃないんですね。良かった……」


 ホッと胸を撫で下ろす。そして朱雀を見上げた。


「仲間はずれにしてごめんなさい、朱雀様。もしよかったら、後で追いかけっこしませんか。ここはみんなで整地したばかりですから、昼食の後、町の外の放牧場で。私ひとりじゃ分が悪いので、誰かとチーム組んでもいいですか」


 と、いうのをなるべく魔力に込め、朱雀へと送る。


 キョエエエッ!


 あ、瞳が輝いた。






「外でやるってんならモリヤ団長に話つけとくぜ」

「すみませんリンゴ箱職人の皆さん。仕事増やしちゃって」

「ははっ、気にすんなミカ様。俺らも午後の楽しみができたってもんよ」

「じゃあ、午後までは俺らと遊ぶかスザク」

「メシまで、遊ぼう、だ」


 キョエエエエ!!


 朱雀はリンゴ箱職人達に伴われ、驚くほど素直に引き上げていった。


「ラーマを縛ったので安心したのでしょうね」


 ラーマはザコル特製の捕縛用の網を頭からかけられていた。


「もう脱いでいいですよラーマさん」

「ダメですよミカさま!」

「そーだぞせーじょさま。またスザクがきちゃうぞ」


 少年二人に反対された。


「聖女ミカ様。私ならばしばらくこのままで結構です」

「……えーと、ラーマさんがそう言うのなら」


 私はふと不安になった。

 このイリヤとゴーシは、これから山神様がおわすツルギ山を聖地として護る山派貴族の一員になるんじゃないのか。それが、こんなに山神教に不信を抱いた状態で大丈夫なんだろうか。


「あー、君達。せっかくだし今日は山神教について学んだら? 『ツルギの番犬』さん達が護る聖域についてさ」

「やまがみきょう……?」


 イリヤとゴーシは顔を見合わせた。気は進まなさそうである。


「山神様は、この地を潤す水源に宿る神様。何百年とツルギ山のふもとに住まう人々の暮らしを見守ってくださった神様。先の戦では、この町の人達を誰ひとりとして死なせないでくださった神様でもあるよ。君達が『山派貴族』であるサカシータの名を継ぐのなら必ず、山神様やツルギという地域の成り立ちについて学ばなきゃならないだろうからさ」


「でも、せーじょさまは『せーじん』にはなりたくねーんだろ?」


 じゃあなんで味方すんだよ、というゴーシの視線を受け、私はうーんと腕を組んでみせた。


「私、ここに来たばっかりの異世界人なんだよねえ……。次期神官長であるシリルくんは、私を山派全体で守るために私を『聖人』ってことにしよう、って言ってくれたんだけど、私の方はまだ山神様について知らないことばかりなのに、無責任に引き受けられないよって断ったの。それに、春になったらテイラーに帰らなきゃならないし、聖人になったところで務めが果たせるとは、って感じで」


「あ、そっか」


 ゴーシが拳をポンと打つ。


「ゴーシ兄さま?」

「おれ、この人のミカタするわ」

『えっ!?』


 急にラーマの側についたゴーシに、隣にいたイリヤも、そしてラーマ自身も驚いて彼を見た。


「だって、『せーじん』になったら、テイラーにかえれなくなるんだ。そういうことだろ、せーじょさま」

「……無責任なことはできないからね」


 ラーマは必ずしもこの地に縛りつける気はない、と言っていたが、山派貴族に護らせる気ならツルギ山周辺領を離れては意味がなくなる。それに、その地位を維持するために何がしかの務めが発生して、想定外に時間を使う可能性も多々ある。


「べつに、いっしょうテイラーにかえらなくたっていーじゃん。『せーじん』になれば、ツルギのバンケンたる、おれらがまもってやるよ」


 にやり。


「……あ、そっか、ミカさまをかえさない方が、母さまもよろこぶはずです! ゴーシ兄さまはてんさいですか!?」

「ふふん。おれ、そのシリルって人のはなしもききてーな。いろいろおしえてくれよ、ラーマさん」

「え、ええ、それはもちろん構いませんが……」


 よろしいので? とラーマが目線で私に問う。私は彼らの親でもないのに勝手にうなずいた。


「ちょ、姐さんは一体何がしてーんだよ。マジでテイラーに帰れなくなんぞ」


 コソコソ。エビーがたまらずツッコんできた。タイタも同調するようにうなずいている。


「色んな意見があっていいんだよ。私は別にシリルくんの出してくれた案が『非合理』とは思わないからね。でも、私はテイラーに忠誠誓ってるから引き受けられない。あとね、ジーロ様は私を『聖人』にしちゃうのには反対してる。それもどうしてなのか、君達で考えてごらんよ」


 少年達は再び顔を見合わせた。


「ジーロおじさまははんたいなの?」

「おじさま、せーじょさまはずっとサカシータにいればいいって言うのに、なんでだろな」


 首をひねる少年達に、私はよしよしとうなずく。そんな私の様子を、ザコルはじっと見ていた。


「あくまで、ミカは自分の希望を取り下げる気はないんですね」

「はい。ただそれはそれとして、山神様への信仰は守られるべきだと思うんです。せっかく偉い神官様が来てるんですから、授業してもらった方が子供達のためにもなるでしょう?」


 地域の神様について学ぼう、の会である。


「ふむ、今日もミカは『合理』の塊ですね。好きです」

「好……っ」


 私はむぐう、と胸を押さえた。




つづく

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