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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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なぁに上から目線でモノ言ってんだぁ?

 翌朝。西の放牧場での鍛錬は、まず整地からのスタートであった。なぜなら昨日、私や魔獣達があちこちに凶悪な罠を残していたからである。すいません。


 とりあえずと、集まったメンバーで手分けして爆弾処理していくことになった。


 いくつもあった『みぞれ沼』は、完全に凍りついた上に嵩が減って落ちくぼんでいた。知らずに踏んだら確実に足を滑らせるし、氷面に頭を打つかもしれない。


 魔法で元に戻してもいいのだが、雪を相手にすると昨日のように魔力を使い込むぞと皆に言われ、とりあえず周りと高さが合うように雪をかぶせておくことになった。新雪落とし穴も同様に雪を乗せて踏み込む。


 氷の道だけは皆が滑って遊びたいというので、今日のところは残すことになった。



「聖女ミカ様」


 ざっ。紫ローブが風にはためき、朝日がその背中に降り注ぐ。


「えっと、ラーマさん。目立つ真似するとまた……」


 町長に目をつけられるぞと言外ににじませたが、ラーマは首を横に振った。


「覚悟の上でございます」


 何の覚悟だろうか。地下牢行きの覚悟か?


 こんな白昼堂々と私を迎えに来たわけでもあるまいし、内容がどうであれ普通に話しかけてくれればそれでいいのに……。


 仰々しい挨拶をするラーマに、早くも遠慮のない目線が集まり始めた。


「何の用ですか、ラーマ」

「ザコル様」


 ラーマは声をかけてきたザコルにも一礼する。


「ほう、今日は僕を無視しなくていいんですか?」

「それは」

「もー、喧嘩始めようとしないでくださいよザコル」


 私は立ちはだかる人の腕を取る。


「ほら、私達がお互い望んで一緒にいるんだって、ラーマさん達も解ってくれたんですよ」


 きゅ、とその太い腕を抱き締めれば、ほやほやとした気持ちが込み上げてくる。


 ザコルは昨夜も一緒の布団で寝てくれたし、待てとかまだとか言いつつ魔力の移譲にも付き合ってくれた。お礼といっては何だが、朝は好きなだけスンスンさせてあげた。私達は今日も仲良しである。


「そうですよね、ラーマさん」


 にこ、と笑えばラーマの顔に緊張が走る。なんだろう、特に脅したつもりはないのにな……。


「聖女様のお望みとあらば、このラーマ、儀式を見届けた一人としてお二人を応援させていただきましょう」


 ラーマは冷や汗をかきつつ、うやうやしく一礼した。


 このラーマは山神様の婚約承認の儀? の立会人である。山神教では、まず婚約を結ぶのにも山神様の承認を得る必要があるらしい。


 ラーマはそういった儀式を司る神官である。日本の神道なら宮司、キリスト教なら神父的な役割を果たす人、というわけだ。


「応援する、だとよ。おい山の民の、なぁに上から目線でモノ言ってんだぁ?」

「ミカ様よぅ、ザコル様と引き裂かれそうになったんか」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


「……っ」


 早速町民に絡まれた。言わんこっちゃない。


「やだなあ違いますよ、彼、婚約の承認? とやらを山神様にお願いしてくれた神官さんなんです。そんなことするわけ」

「ミカ様」

「えっ、ピッタ」


 急に腕を取られた、というか気配を察知できなかった。

 ……なんかみんな前より練度が上がってきている気がするのは気のせいか。


「向こうに弓と的の準備ができましたよ。『牧畜』の皆様も、今朝は私達、同志村スタッフの方で軽食をご用意していますから、ぜひ最後までお付き合いくださいね」


 鍛錬イベの仕切りは基本的に同志である。


「おお、そりゃありがてえなあ」

「俺ら『牧畜』は見てるばっかが多かったんでな、楽しみだ」


 牧畜家のおじさん達は、以前の鍛錬イベの後に家畜の放牧を控えており、鍛錬には参加していなかった。今も家畜の世話はあるようだが、交代で鍛錬に顔を出すくらいの時間はできたらしい。


「ラーマさん、要件があるなら早く」

「はっ、かしこま」

「ミカ様。曲者の処理はこのピッタにお任せください」

「待って待って曲者じゃないから処理しないで同志の皆さんも遠巻きに殺気みたいな変な気飛ばしてこないで!?」


 鍛錬イベの仕切りは同志……そう、私達を『推しカプ』認定している、ちょっと様子のおかしい巨大秘密結社だ。最近ピッタも会員になって早速、聖女班とかいう謎の部署の立ち上げを任されている。


 ……さてはラーマ、昨日は朝に会って以降、私達に近づけさせてもらえなかったな。それでここに乱入してきたのか。


「ザコル様を無視したと、今聴こえたのですが」

「ひぇっ、タキさん!」


 避難民、つまりカリューの町民にも見つかった。


「我らカリューの者は、命の恩人たるザコル様への非礼を許しません」

「そっ、それは山の民もで」

「いいぞやっちまえタキー!」

「あたしらも加勢するわ!」


 わらわらわら、サカシータの戦士達が集結し始めた。


「てきですよゴーシ兄さま!」

「よっしゃいきじごく見せてやんぜ」

「うぉううぉう!」

「へへっ、しょーがねーな俺らも行きますか」

「そうだなエビー。ペータ殿はどうされますか」

「もちろんやってしまいましょう! メリー、メリー!」

「お前が呼ぶなカス」

「また育ちの悪さが出てんぞメスガキ。ほら、闇はしまっとけって」


 すん。

 私は一旦気を落ち着けた。するりとザコルの腕を離す。



「……皆さん」



 ぴた。

 大声を出したつもりはないが、それまでの喧騒が嘘のように鎮まった。


「いいですか。味方同士で喧嘩しないでください。続けるなら、全員『新雪』に落とします」


 おあつらえ向きに魔力は満タンである。今ならやれる。

 ゴクリ、と誰かの喉が鳴った。




つづく

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