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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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それは果たして『ハッピーエンド』なのか

「ご領主夫妻へのご報告は、ザコル様のご判断にお任せいたします。それと、もしお二人のお力になれることがありますれば、ぜひともこのタキにお申し付けください。今ならば丁度、カリューでのお勤めも免除されておりますから」


 サカシータが誇るエリート戦闘員で、過激派で、割に人情派。そんなカリュー『町民』タキは、うやうやしく一礼すると速やかに退室していった。


「…………彼女、報酬とか用意したら受け取ってくれると思います?」


 私はタキを一緒に見送ったザコルを見上げる。


「判りません。最悪、カリューにいる妹に渡すという手もあります」

「名案ですね」


 話すべきはそこかと誰かに突っ込まれそうだが、大事なことである。これ以上タダで人様の親切をむさぼるわけにはいかない。民に誠実すぎる貴族令息、ザコルもきっと同じように考えていると思う。


「イーリア様に報告します?」

「します」


 即答。真面目くんは報連相を徹底したいようだ。


「そうですか。私、ちょっとメリーに稽古をつけたいと思って、ジョジーと約束しているんですが」

「分かりました。僕一人で行ってきます。皆、任せましたよ」

「ほーい、了解す」

「お任せください」

「俺もジョジーちゃんと遊びたーい」


 ガチャ、続き部屋からエビーとタイタが現れ、天井からは変態が降りてきた。ジョジーはタイタの頭上にスタンばっている。


 ザコルが退室すると、私はまだうつむいている少女を振り返った。


「メリー、気持ちが整わないなら今じゃなくてもいいよ」


 と言ってはみたが、実はあまり時間は残されていない。ジョジー含む小中型魔獣達の旅立ちは、すぐそこに迫っていた。


 少女はすぐに顔を上げた。瞳には力が灯っている。


「いいえ。今からご教示を賜わりたく存じます。それくらいしないとあの親の意識は変えられませんから」

「……まあ、使う使わないに限らず、手札は多いに越したことはないからね。ただ、もし望む力が得られたとしても、ちゃんと面倒は見させてね。ジーロ様じゃないけどさ、私も、君を無駄に傷つけたくはないんだよ」

「ミカ様…………」


 分かりあえない家族を、意思をもって洗脳し、無理矢理操る。望む結果は得られるかもしれないが、それは果たして『ハッピーエンド』なのか。


 どうか後悔だけはしてくれませんようにと、私は目の前の少女の手を取り願った。






「おー、いーんじゃねーの。俺には効かねえけど、まあまあな力だ。さっすがジョジーちゃん」


 キキィ!


 褒められたジョジーがサゴシに飛びついて頬をすりすりする。


「何イチャついてんの君達……」

「嫉妬ですか姫様」

「ううん違うんだけど、なんか不思議な光景だなって」


 キキィ、キキキ、キキィ!

 ジョジー、サゴシ、好き!


「ちょ、照れんじゃん。俺ら運命?」


 イチャイチャイチャ。


 またノリで通じる勢が増えたな……。それもこれも、ミイやジョジーの知能が高くて感情表現豊かなせいだとは思うが。


「サゴシお前、人間じゃなくてもイケんだな……」


 魔獣とイチャつく変態にズッ友は引いている。自分こそ白リスのマブを公言しているくせにとは思う。


「何言ってんだエビー、ジョジーちゃんはそこらの人間より全然美形だろ」

「そうだぞエビー、ジョジー殿は美しいぞ」


 フェミニストタイタまで謎に加勢し始めた。


「はあまあ、確かにかわいいすけどねジョジーちゃんは」


 キキィ……。

 ミカの従者、みんな楽しいです。


「ふふ、ありがとう。みんな、かわいいジョジーにメロメロなんだよ」


 私は褒められて嬉しそうなジョジーに微笑む。


 くりくりおめめ、淡い色のふわふわとした毛。確かに、ジョジーは今までに見たどの猿よりも『美人』だ。その上、性格もひたむきで人懐こくて親切ときた。猿界一モテることは間違いない。


「こーんなにちっちゃくてかわいいのに、闇の力の鍛え方とか物騒なこと知ってるし。追いかけっこの時なんか何気、姫様相手に精神攻撃してたじゃん? 俺だって姫様に力通じたことねーのに。ヤバすぎて俺惚れちゃった」


 キキキィ……。

 サゴシも毎日力蓄えるといいですよ。


「俺もジョジーちゃん見習って日頃から頑張って力蓄えるようにするわー」


 キキキ……。

 サゴシ、闇の力だけが生きる糧。そんな邪悪な人間、ジョジー見たことないです。すごいね、すごいね。


「うんうん俺がカッコいいって? もーかわいいなー分かったってー」


 キキ! キキ!

 邪悪! すごい!


 邪悪すごい、か……。

 確かミイが、闇の力を使う魔獣は強力で危険なヤツばかりだと言っていた気がする。イアンやサンドの使う陣の制約じゃ喚べないとも。


 以前ザコルに聞いた話を思い出す。


 長い歴史の中で度々、喚んだ魔獣やら魔人やらに滅ぼされそうになったこの世界の人類は、自分達が扱いきれないような者は喚ばないよう、何かしらの工夫をするようになったらしい。


 サカシータ一族の使う魔法陣にも、そうしたリミッターみたいなものはつけられていたようだ。かの一族にも扱いきれないレベルは喚んだら確実にヤバい。


 ジョジーは後天的に闇の力を鍛えているくらいなので、生粋の闇使いにはあたらない。だから喚べたのだろうが、そんな彼女は何かを目指して今日も闇を鍛え、力を蓄える。


 魔獣の中でも闇使いは格が違う存在で、憧憬や畏れの存在になっている、ということだ。


「さて……」


 ぐわん、少しだけ空間が歪む。


「あひゃひゃひゃひゃひゃっ、あひゃっ」


 ぐわん。


「ひゃーっひゃっひゃっ」


 ぐわん。


「ぎゃははははちょっ、もっ、やめっ、苦じぃっ、死ぬ……っ」


「……………………」


 床に転げ、大笑いする少年を非常に冷めた目で見下ろす少女。


 うーん。何と声をかけるべきかと私は腕を組んだ。




つづく

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