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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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何も大丈夫ではありませんでした

「その子は、まだ今のメリーくらいの年齢で、腕や肩や首が華奢な割にお腹が出ていましたから、一目で妊婦だと判りました」


 メリーによると姉のハリーは十五で妊娠し家を出たということなので、タキの話とも食い違いはない。


 十代半ばで妊娠というと現代日本では若すぎると感じる人が多いだろうが、この世界、そしてオースト国での結婚適齢期は十六から二十歳の間くらいとされているので、十五で嫁にゆき妊娠、というのも『少し早い』くらいで特別珍しくはないようだ。


「明らかに体調が悪そうに見えるのに、ザハリ様はもちろん周りに集まったファン達も、誰も彼女のことを気にしていなくて。私、声をかけたんです。私自身、妊娠してる間は色々あったので放っておけなくて……」

「つわりが酷かった、とかですか?」


 妊婦の不調といえばつわりだ。というかそれ以外はすぐに思い浮かばなかった。

 もちろん他にも色々あるのは分かる。私自身、アレの周期が遅れていることをこの町長屋敷のメイド長達に話した時は、貧血や情緒不安定を全て妊娠のせいではと疑われたことがある。もちろん全力で否定した。


「つわりばかりでもないのですよ。人それぞれではありますが、妊娠中は基本的に毎日何かしらの不調や違和感は抱えているものですから」

「ですよね。すみません、あまり知識がないもので」


 タキは、理由は判らないが急に立ち眩みがしたり、頭痛がしたり、異常な眠気に襲われたり、手足がむくんだり、お腹が張ってつらかったり、胃が圧迫されて量が食べられなかったりなどなど、経過は順調でも数え切れない症状に日々悩まされると教えてくれた。


 現代日本ならそうした不調の原因もいくつか解明されているかもしれないが、その対処法など当事者になったことのない私が知るわけもなく。


 妊娠は病気じゃないという言葉がある。あれは決して『だから頑張れ』という意味ではないらしい。


 病気じゃないからこそ、どんなに症状がつらかろうと根本的な治療はできないということだし、私の治癒能力だって効かない可能性も高い。……だから。


「だから、いたわらなければならない、ってことですよね」


 うんうん。私は改めてうなずいた。


 よくよく考えてみれば、人間の身体なんて、どこかの管がちょっと詰まっただけでも死にそうになるほど繊細なものだ。だというのにお腹の一画に自分以外の人が宿って急成長しているなんて。そんなの大変に決まっているじゃないか。


「ミカ様は、充分すぎるほど母親や妊婦をお気遣いくださっていますよ。全く、未婚のご令嬢とは思えないほどです。水害があった夜、何度も白湯を運んでは様子を見にきてくださったって、宿にいた妊婦が感激していましたもの。うちの子もすっかりお世話になって」

「い、いいんですよ私の話は! それで、ハリーさんは大丈夫だったんですか?」


 話をさえぎると、相変わらずミカ様は感謝を受け取ってくださらないんだからと苦笑しつつ、タキは続きを話し始めた。


「結論から申し上げますと、何も大丈夫ではありませんでした。つわりが長引いていたのか胃が圧迫されていたのか、とにかくものを食べられていなかったようで。普段、一人で暮らしていて誰の世話にもなっていないと言うし、これは危ないのではと思って、まず誰の子かと訊いたら『神の子』だと」


「神の子……」


「先に申しました通り、ハリーは有名な一家の子でしたから、彼女の言う神とはザハリ様以外にあり得ないと思いました。なので私、ザハリ様に直接お話をしたんです。今思うと産後で気が立ってもいたんですよね、勢いとは怖いものです。幸い、ザハリ様はお怒りになりませんでしたが、じゃあよろしくねとお金を渡されました」


「お金……って」


「なので、妹とも話して、しばらくカリューの家で彼女を引き取って面倒見ようという話になったのですが」


 ハリーは、一人で暮らしていた?

 確か、メリーの姉ハリーは妊娠を機に家を出たらしいが、ザハリと暮らしていたんじゃなかったのか。

 それに、ララの時は他のザハリファンが家事などを手伝っていたようなのに、ハリーの時はタキが申し出るまで、他のファンは彼女に何もしてやらなかったということか。


「……って、タキさんが面倒を見る……? タキさんだって当時は産後ってやつですよね? 赤ちゃんのお世話だってあるのに、それこそ大丈夫だったんですか?」

「そうなのですよねえ……。今思えば大丈夫でもなんでもなかったんですが、産後の気が立った状態とは恐ろしいもので。この子とこの子の赤ちゃんの面倒は絶対に私が見ると、そう、思ってしまったんですよ」


 産後で気が立っていたから、で済まされる問題ではない気がするのだが。


 横を見たら、ザコルが頭を抱えていた。


「…………タキ。うちの者は、そのハリーの面倒をタキが見ていたことを把握しているんですか」


「子爵家の方々がということでしたら、把握はなさっていないかと。私もお金を受け取ってしまった時点で『任務』だと認識しておりましたから、ザハリ様のお相手を囲っていることが周囲にバレないよう徹底しました。今回、ミカ様がハリーについて探られているということで、お話しすることにした次第です」


 金を受け取ったら任務。言わずもがな、タキは玄人としても意識が高い方なのだろう。問わなければ一生黙っていた可能性もある。


 私は引きが強い、と以前ハコネに言われたことがあるが、確かにそうかもしれないなと思った。




つづく

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