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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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三者面談

「お時間をいただきまして、誠にありがとうございます。ミカ様」


「いえいえ、こちらこそです。うちのメリーはちゃんと謝ってお礼を言えましたか、タキさん」


 完璧なカーテシーに、こちらも気合を入れたカーテシーで返す。

 高位貴族に仕えたキャリアは伊達じゃない。指先まで計算され尽くした動きには、彼女がこれまでに積んだ経験と努力とがにじみ出ていた。


「うちのメリー、ですか……。ミカ様は、本当に器の広いお方でいらっしゃいますね。私、正直、この子と落ち着いて話ができる日がくるなんて思いもよりませんでした」


 私はメリーの方に視線を移す。


「いい子にできたんだね、メリー」

「…………はい」

「あなた、本当に良かったわね、メリー」

「…………はい。もったいないことだと、感じています」


 しょも、と思春期娘は小さくなる。メリーもまた礼儀作法は完璧にできる将来有望な子だが、その仮面ははがれたままだ。自分の話をされるの気まずいだろうな……。まるで三者面談だ。


「よし、お話聴きましょうか。そちらのソファにどうぞ、タキさん」

「はい。では失礼いたします」


 ここは執務室ではない。私の寝室として充てがわれた部屋だ。タキの娘であるミワは続き部屋でエビタイに任せるつもりだったが、イリヤに見つかって連れていかれた。ゴーシも交えてゲームをするらしい。


「ザコル様はどちらに?」

「続き部屋の方にいますよ。もし話をするのに支障がなければ同席してもらいますが」

「もちろん、支障などございません。ぜひともミカ様のお側へ」


 ガチャ。続き部屋の扉が開く。四者面談になった。

 タキは一度座ったソファを立ち、再び一礼した。


「いいんですか、ミカ」

「いいも何も、本来ザコルの方が関わるべき問題ですよ」

「それはそうですね。いつも巻き込んですみません」

「気にしないでください。私は『ザコルの周りがぜーんぶ仲良しこよしじゃないと気が済まない』女ですから」

「まあ、そうなのですか、ミカ様」


 タキがころころと上品に笑う。


「ふふっ、ロット様の解釈ですけどね」

「まあ、ロット団長が」


 タキが一瞬真顔になった気がした。


 ロットは、シータイに乗り込んで散々私やザコルの悪口を叫んだ件で、当時シータイにいた人々から反感を買っている。

 その後民に囲まれて殺されかけてみたり、大きな声でヒソヒソされてみたり、いじられてみたりと、領主子息で現騎士団長とは思えない扱いを受けていたが、なんやかんやあって許してもらえた、はずである。


「ミカ様、ザコル様。もしも再び礼を失されるようなことがありましたら、ぜひこのタキにお教えくださいませ。シータイでお世話になっている身として、またカリューの『町民』としても、黙ってはおりません」


 ニコォ。わあ、怒ってる。


「大丈夫ですそんなに失礼なことは言われてません大丈夫です」


 思わず大丈夫って二回言っちゃった。


「タキ。ロット兄様の管理はナカタがするそうです」

「ナカタ、とはカズちゃん……いえカズ様のことでしょうか。確かに、最近はカズ様があの男を追う姿が見られておりましたけれど」


 あの男って言っちゃった。


「本当に大丈夫なのでしょうか。あの子は本当に優しくって何でも背負いがちな子だから、周りに気遣わせないよう敢えてそう振る舞ってるんじゃないかって、避難民の間でも心配の声が……」


 カリュー町民は、私と同じ日本からの渡り人で元同僚でもある中田カズキをみんなして溺愛していたらしい。どうしてあのチャッカリギャルがそんな殊勝な評価になっているのかは謎だが。


 というか、タキは確か二十四歳と言ってなかったか。カズは私の一つ下で、今二十五か二十六だ。タキより歳上じゃん。


 私はコホン、と咳払いした。


「えっと、カズなら大丈夫です。ああ見えていい歳ですし、あの子、あれでロット様のこと大好きで尊敬もしていますから。あとロット様以上に重い子なので、苦労するのはロット様の方になると思います」

「まあ、そんな」

「我が家ときしても、ナカタの働きに対して子息の一人や二人、献上すべきと判断しました」


 私とザコルは顔を見合わせ、南無三とばかりに合掌した。


「献上……。正直、あんなかわいい子に構われて何の苦労がと思わなくもありませんが、お二人が大丈夫とおっしゃるのなら信じましょう。ここを出て子爵邸へ向かったようですが、元気にしているのですよね。他の避難民にも安心するようにと伝えておきます」


 話が完全に脱線した。タキもなかなかの過激派なんだよな。まあシータイにいる人みんなそうなんだけど。


「さて、本題に入りましょうか」

「はい。ではメリーの姉、ハリーについて、このタキが知っていることをお話しさせていただきます」


 タキは胸に手を当ててうやうやしく頭を垂れると、再びソファに腰を降ろした。





 ハリーは、ザハリを天使と推している夫婦のもとに生まれた女の子だった。


 物心つく前から両親からの布教を受け、ザハリの開くファンサイベントにも両親とともに参加し、ザハリも当時のファンの中では最年少に近かったハリーを気に入り、以後構うようになったという。


「私も領都に実家があり、妹を連れてよくザハリ様の開くイベントに参加していました。親御さんがザハリ様の熱心なファンで、ザハリ様の愛称を名前につけられた子がいるというのは、ファンの間でも有名な話で」



 それは有名にもなるだろうな……。名前なんて一生物だし、実子につけるなんて相当な入れ込みようだ。


 父親も母親もそろってザハリに夢中という珍しい状況も相まって、メリーの一家は他のファンからも一目置かれる存在だったようだ。




つづく

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