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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ここらで勘弁してやらあ

「へへっ、今日のところはここらで勘弁してやらあ」

「やらあ!」


 でーん。


「何ふざけてんだいアンタ達は今日参加もしてないだろっ」

『いでっ』


 腕組み仁王立ちで捨て台詞を放ったバットとガットの父子を母親がスパーンと叩く。


「このバカどもは置いといて、明日は私らとも対戦してくださいねミカ様!」

「あはは、ぜひよろしくお願いします」


 幼児バットの一家は今日も仲良しである。


「かーちゃんずーるーいー! おれもやるー!!」

「ミカさま! おれもおいかけっこする!」

「ミワもミワも!」

「ぼくも!」

「わたしも!」

「ふふっ、みんな、午後はスケートリンクで遊ぼっか?」


 わーいやったー!


「よかったわね、ミワ」

「うん! ミカさまとあそびたかったから!」

「はは、うちの聖女は体力無尽蔵だな」


 また体力持て余した幼児みたいな言われ方をしているが、今朝はさすがの私も疲れを感じていた。ぶっちゃけハシャぎすぎたと思う。遊ぶって割に体力気力を使うものなんだな……。


「ミカよろしいかしら」


 ボソ。


「うっひゃ……って、マージお姉様! どうして」


 どうして、みんな気配を消して近づいてくるんだろう。びっくりするじゃないか。


「ふふっ、わたくしの忍足がまだ通用しそうで安心いたしましたわ」

「………………」


 何の腕試しだ。

 クスクスとお上品に微笑うご婦人を、私はジト目でにらむ。


「意地悪をしてごめんなさいね? わたくしでは、全く手が届かなかったことが悔しかったものですから」

「全く? そうでしたっけ? あの一戦、やたらに体力削られまくったような気がするんですが……。ていうか、敢えて時間いっぱい泳がせてませんでした?」


 追いかけっこ第三戦、マージ率いる町長屋敷チームの猛攻は凄まじいものがあった。

 サカシータの使用人はただの使用人じゃない、ただのエリートだという言葉に偽りなく、若い子達も料理長も並以上の体力と統制の取れた動きで、あと一歩というところまで追い詰められた。


「まあ。泳がせただなどと人聞きの悪いことをおっしゃって。わたくしはコリー坊っちゃまの勇姿が……いえ、なんでもございませんわ」


 ホホホ。やはりか、ザコルに花を持たせる気で『つないだ』な。


「それにしても、坊っちゃまったらまんまと落とし穴にはめられてしまって。ご本人はとっても嬉しそうでしたけれど」


 ちら。姉やは黙っているザコルに視線をやる。


「僕がああも簡単に『詰む』だなんて、マージも見たことはないでしょう」

「それはそうですわね。しっかりしてくださいまし」

「……ふはっ、何度も同じ手を食らう気はありませんよ」


 ザコルに笑顔を向けられてマージが固まった。未だに『直撃』は慣れないらしい。


 しかし、初手落とし穴作戦はもう使えなさそうだな。今日だけでずいぶんと手の内をさらしてしまった気がする。


「……コホン。お二人に『モリヤ』が面会を求めておりますわ。いかがいたしましょう」

「モリヤが?」


 それは、どっちのモリヤなんだろう。


「今、屋敷に来ているんですか」

「ええ」


 ザコルは私の方を見る。


「じゃあ急いで帰りましょうか。私も疲れちゃったから休憩したいです」

「疲れた? では運んでいいですか」

「いいですよ」


 ひょい、言うが早いか縦抱きにされる。

 がし、同時にザコルの両肩に手が置かれた。


「いいか走んなよ変態兄貴」

「どうかミカ殿に舌を噛ませませんよう」

「………………」


 エビタイから釘を刺され、むう、と口がへの字に曲がる。


「ふふっ、急がずゆっくりいきましょうか。モリヤさんは逃げないでしょうから」


 私はそのモサモサ頭をいーこいーことなでた。






 町長屋敷の一室で待ち受けていたのは、予想通り『元騎士団長』のモリヤであった。


「ザコル坊ちゃん、ミカ様。お元気そうで」


 坊ちゃんを見て眉を下げるところは『守衛』のモリヤと全く同じだ。しかし、こうして見るとほんの少しだけ覇気のようなものが違って見えた。


「モリヤ。どうして鍛錬に来てくれないんですか」


 爺やが大好きな坊ちゃんは早速文句をつける。


「珍しく『片割れ』が張り切ってんですよ。派手に暴れちゃ、邪魔をするでしょう」


 まだモリヤもどきは捕まっていないようだ。


「あいつからです」


 目の前のモリヤは、懐から油紙に包まれたものを取り出した。


「全く、こんなジジイが手作りした菓子なんか坊ちゃんは」

「もしや、それはゴーシにやっていた携帯食ですか。味が気になっていたんです」

「ふっ」


 途端に顔が明るくなったザコルに『元騎士団長』のモリヤは吹き出した。


「はははっ、本当に菓子がお好きなんですか。私が手合わせを願った時と、おんなじお顔をなさる」


 仕方ない、とモリヤは携帯食をザコルに差し出した。


「菓子も剣の手ほどきも、モリヤがくれるものは僕にとって嬉しいものばかりです」


 もぐもぐ。


「……っ、この坊ちゃんはどうしてこんなに爺孝行なんだ!」

「泣かないでくださいモリヤ。あなた達は僕達を甘やかしすぎなのです。ロット兄様もろくに仕置されてなかったようですし」


 もぐもぐ。


「ロット坊ちゃんも、普段はちゃあんとアカイシを頑張って護っていて偉いんですよ。そのロット坊ちゃんに笑い合えるお友達ができたっていうんだ、この爺はそれがなにより嬉しくて」

「そうですか」


 もぐもぐ。


 守衛のモリヤも元騎士団長のモリヤも、形は違えど坊ちゃん達に激甘、ということはよく判った。




つづく

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