休肝日的なもの
お互いに部屋着に着替え、寝る前にソファで隣り合って座り白湯をすする。静かだ。
今日も一緒に寝てくれるんですね。
と、口から勝手に出そうになって踏みとどまる。どうしてそんなくだらないイジりをしてしまうんだろう。わざわざ意識させて気が変わったりしたら困るのは私なのに。全く口は災いの元である。
どういう心境の変化があったのか判らないが、彼は一日だけ別々に寝たのち、翌日からは何食わぬ顔でまた一緒に寝てくれるようになった。今日はできれば魔力を預けたいとも思っているのだが、どう切り出したものか。
一昨日は大量に魔力消費した後、彼から魔力をガッツリ補充してもらっている。
ザコルの『器』はまったく大したもので、私という急速給電装置が毎晩コツコツと渡し続けるものを何週間分も貯め続けられるような容量を誇る。
一度にどのくらい渡せているか毎回測っているわけではないので、どのくらい貯まっているかは専門家に訊かないと判らない。だが、最近の状況を思えば、本体である私を何回か充電できるくらいは貯まっていたんじゃないだろうか。
なのでまだ一応残量はあると思うが、それが急に必要になる場面が来ないとも限らない。当方、バッテリーは常にフル充電でないと不安になるタチなのだ。
「また情緒のかけらもねーこと考えてそーだな姫様」
「聴こえてるよ天井の変態くん」
とはいえ、フル充電を目指してはザコルが魔力過多になりかねないし、充電池は残量がある状態で何度も充電するとすぐに寿命がくる、という怖い話もある。
もちろん彼はリチウムイオン電池ではないし、シシにそう言われたわけでもないのだが、度重なる魔力充填が彼の体に負担をかけていないかも心配だった。
なので私は考えました。休肝日的なものを設けてはどうかと。そうとなれば、彼の中に残っている魔力は一旦全て出し切ってもらって………………
「ミカ、何を考えているんですか。せめて独り言でつぶやいてください」
「えっと、一度全部デトックスした方が健康的かなって」
「でとっくす……?」
私が魔力を引き受けて消費するのが唯一の方法にはなるが、今日はもう無理だ。こんな時間に魔力過多になっては周りに迷惑をかける。
彼が自発的に魔力消費をする方法はまだ見つかっていない。しかし最近、意図的に闇の力を使えるようにはなった。派手に力を使って消耗すれば、体が自然と魔力を闇の力へと変換するなどして消費できるのでは、と仮説を立ててはいるが、ザコルが本気で力を解放などしたらやられた相手はもちろん、居合わせた人間まで再起不能になる恐れがある。味方を含む少人数で検証するのは危険だ。
「あ、そうだ、集団洗脳とか……」
「集団洗脳?」
そうだそうだ。また曲者をいっぱい捕まえたとジーロが話していたじゃないか。尋問があらかた済んだら、全員を人けのない場所に集めてもらおう。そしてザコルに闇の力を全力で振るってもらうのだ。相手が多ければ自ずと必要な力も多くなる。何人も踊らせた経験のある私が言うのだから間違いない。
サゴシによれば、ザコルの能力は『チャーム』といって、その名の通り人を虜にして都合よく操るタイプの力であるらしい。だったらその力を使って曲者全員をザコルのしもべにしてしまってはどうだろう。
そうして洗脳完了した後は、それぞれの雇い主の元へ送り返すのも一興では?
「ふむ、そこまですれば『器』も流石に空くだろうから……」
またイチからイチャつき放題。
「………………」
「ミカ?」
「もー私のバカ!」
私は白湯のカップをローテーブルに置いて三角座りになった。ザコルは色々と葛藤して距離を置いたりしてくれているのに、下心を御しきれてないのは私の方だ。
待てますよ、とか偉そうなこと言ってたのほんと何、何なの?
「ミカ、どうしましたか、何か」
勝手に身悶えている私にザコルが戸惑っている。
「ぎゅーしていいですか!」
「え、あ、はい」
「何許可してるんですかそんな無防備でどうするんですか!?」
「…………はあ?」
思わずといった感じで眉間に皺が寄る。その顔、よりによって私の大好物……!!
「ぐうかわ…っ、あーもー駄目。今日は一緒に寝ません!」
「えっ、でっ、ですが」
「はい、どいたどいた」
私はザコルをソファから立たせ、ベットの毛布を剥いで持ってくる。それにくるまって横になると、
「おやすみなさい!!」
と就寝モードに入った。寝られないかもしれないが悶々とするよりはマシだ。
つづく
ミカは2022年から来ているので、使い込んだリチウムイオン電池を充電満タンにしておくと、ふとした事で発火、爆発するものという意識がまだ根付いていません。
彼女は特に外出先でも仕事している系の社畜だったので(ブラックだからデータ持ち出しルールもガバい)、スマホもノートPCもモバイルバッテリーも常にフル充電にしておかないと動悸息切れが……!
とまではいきませんが、充電が切れると「あー、今の時間仕事できたのにもったいな!」と頭を抱えてしまうのです。




