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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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変態の先輩

「ちょっといいですか姫様」



 そう言ってサゴシが声をかけてきたのは、メリーをお風呂に入らせている一瞬の間のことだった。時間は例によって深夜に差し掛かる頃である。


 なんか、あの人らシータイに『帰省』してから毎晩飲んだくれてるぜ、みたいな噂立っていそうだな……。


「もしかしなくても『あの子』の話かな、サゴちゃん」

「はい。ジーロ様からも話聞いたんで、まとめて報告したいんですけど……」


 ちら。サゴシは入浴小屋の方を伺った。


「あの子、女の子なのに三分くらいで出てくるからねえ……。でも、そっか。ジーロ様も気を遣って君だけ呼び出してくれたんだね。うーん……要点、文章にまとめられる?」

「文章ですか。うん、いいですねそうします。あー、文章とか久しぶりに書くなー」

「報告書とか書いてないの?」

「上司から、文字は例えメモでも絶対残すな、って言われてんですよねー。基本、外に漏れたらマズイことしかやってないんで」

「なるほど。影って本当、大変な職業だよねえ」


 メモさえも残すことを禁じられているということは、何をしたか見たか聞いたか全て心に留め、後で口頭で正確に報告しなければならないということだ。誰でもできる仕事ではない。


「タイさんとか素質ありますよねー。あの記憶力はマジ重宝されると思います」

「いっときコマさんからスカウト攻撃受けてたよ。いつもその場で断ってくれるけど」

「うーわ、コマちゃんみたいなつよつよ美少女? に迫られたら断れる自信ねーなあ」

「よく言うよ。あんまり信用してないでしょ、コマさんのこと」

「敵視はしてないですよ。あの人、姫様の奴隷みたいなもんですし」

「違うよ?」


 思わず真顔で否定したところで。

 ギイ、庭に通じる扉が開いて、風呂に入っていたザコルとタイタ、そしてペータが入ってくる。


「タイタは工作員よりも騎士の方が向いていますよ」

「そっ、そんな!」


 工作員とか影とか闇とかに憧れのあるタイタが絶望に染まった顔になる。


「お、俺に投擲や演技の才能がないからでしょうか!?」

「いいえ、そういうことではありません。君なら才能があろうとなかろうと、何でも実直に取り組み続けて必ずモノにするでしょうから。しかし、既に身についている完璧な礼儀作法に、長年かけて極めた長剣術。騎士を辞めさせるのが惜しいと思うだけです」

「そのような、もったいないお言葉を」

「ただの事実です。まあ、騎士を辞める辞めないは君の自由ですが、投擲を始めとした暗器の扱いは覚えておいて損はありません。自分で扱えた方が相手の手も読みやすくなりますから」

「はい! これからも精進いたします!」


 脳筋師弟の爽やかな会話である。


「姫様。俺、字とか汚いんで先に謝っときます」

「そんなの、私だって習いたての幼児並みだから気にしないで。伝われば充分だよ。ふふっ、お手紙楽しみにしてるね」


 ぐるん。


「お手紙とは何のことでしょうか、当て馬殿」

「もーっ、その呼び方いい加減にやめやがれくださいよタイさんっ!! 目もガン決まりだし!! ちょっと報告しなきゃいかんことがあるだけですよっ!! 姫様もいちいち匂わせないで!?」


 ぷりぷり。何度もいじられて流石のサゴシも不機嫌になってきた。


「サゴシ様」

「ヒッ」


 怒っていて油断したのか、いつの間にか背後に迫っていた少女にサゴシが飛び上がる。


「お優しい執行人殿様とは違い、当方、推しカプの間に挟まるものは全て地雷、いえ、敵とみなしております」

「うるせーよ!! 地雷はお前の方だっつーの! お前、まだ十五なのにそんな仕上がっててこの先どうすんの!?」

「そのようなこと、変態様には関係ございません」

「俺は変態の先輩として心配してやってんだよッ」


 変態の先輩とは……。


「てか、お前髪拭いた? びっしょびっしょのまま出てくんなよ、いくら髪が短えからってそのままいたら風邪引くぞ」


 メリーは私を拐った件の後始末で、長かった髪を短くさせられている。とはいえ、長めのボブくらいの長さはあるし、彼女は毛量も多い方だ。かなりしっかり拭かないと自然乾燥には時間がかかるだろう。


「それこそ関係ございません。私は変態様と違って生まれも育ちも『雪国』で」

「うるせーなあ、子供は子供らしく大人の小言聞いとけよバカ」

「きゃっ何す」


 サゴシはどこからか手品のように手拭いを何枚も出し、聞かん坊の変態女子の頭をわしゃわしゃと拭き始めた。


「やめろこのセクハラ野郎が!」

「育ちの悪さ出てんぞ地雷女子」


 ギャイギャイギャイ。


「あのメリー相手にセクハラできるなんて変態凄い……」


 ペータの口から本音がダダ漏れている。サゴシは変態だが、メリーに対しては世話のかかる子供以上の認識はないと思う。彼は孤児院出身なので、昔からああやって下の子達の面倒をみてきたのだろう。


「はいはい、騒がないで。もう夜遅いんだよ? メリーはサゴちゃんのお世話が嫌なら私が拭いてあげよっか?」

「めめめめめめめ滅相もございません神の手を煩わせるくらいならばこんな髪全て剃り上げてしまえばよろしいのです今から剃ってきます!!」

「何言ってんだ、ボーズの女なんざ目立って仕方ねえだろが阿呆か」


 サゴシが動揺したメリーの襟首を掴む。


 影とは、目立たない、印象に残らない、が基本である。サゴシもサカシータの本職達も、みんな『擬態』が上手だ。カツラをかぶるのでもない限り、男でも女でも丸坊主は印象に残りやすくなる。影としてはたぶん『アウト』な髪型だ。


「さあさあ、執務室に転がってるエビーも回収しなきゃだしみんな行くよ。明日朝の鍛錬は無理しなくていいからね。やりたい人は私と一緒に追いかけっこしよ」

「わー、するする! 今日できなくって俺めっちゃ凹んでたんで! さー寝るぞ地雷女子!」

「襟を離せ変態野郎!」

「騒ぐなって言われただろメリー。屋敷から締め出されるぞ?」


 ペータもジタバタとするメリーの腕を取ってサゴシに加勢する。


「ねえ、前々から気になってたんだけど、君達って夜はいつどこで寝てるの?」

「どこ、って」


 サゴシとメリーとペータの三人は何となく顔を見合わせ、揃ってニコ、と笑った。息ぴったりだ。


 私の寝室を夜通し張っているであろう仲良し影チームは、当然のごとく『シフト』を明かしてはくれなかった。




つづく

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