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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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優しさの布石

「あれっ、ジーロおじさまは!?」

「来てたんじゃないの!?」


 イーリアと一緒に朝食を摂っていたらしい少年達が廊下で声をかけてきた。


「さっきお仕事に行っちゃったよ」

『えーっ』


 不満の声が上がる。


「いっしょにあそべると思ったのに……」


 がっくし。

 ジーロは子供達とよく打ち解けている。おそらくだが、歳の離れた弟達の世話を引き受けていた経験から、子供の扱いが上手いのだと思う。


 少年達はその後すぐ、自宅を抜け出して父を追ってきたらしいガットと合流し、屋敷の目の前のスケートリンクに飛び出していった。もちろん居合わせた親達もその後を追いかけていく。バットはともかく、ミリナとララとは会釈くらいしかできなかった。


「それにしても、あの疑り深いジーロ坊っちゃまが随分とお心を開いていらっしゃいますわね……。ミカったら、相変わらず人たらしですこと」


 恐ろしい子、みたいな顔のマージに私は首をかしげる。


「人たらし……私が? いえ、ジーロ様は弟さんがかわいいんですよ。だから、その弟君と仲良くしている私達にも親切にしてくださるんです」


 ふるふる、かわいい弟本人であるザコルが首を横に振る。


「違いますね。兄は僕が羨ましいので横から掠め取ろうと狙っているんです」

「掠め……? ジーロ様はそんなこと……えっと、じゃあ、どうしてサゴちゃんを貸しちゃったんですか? 私はサゴちゃんの意志に任せようと思ってたのに」


 ザコルがわざわざ『僕からもお願い』なんて言うから、何か理由があるのだろうと思い直して口を出したのに。


「僕が自分で行くわけにはいかないからです。尋問の内容、気になるでしょう」

「そりゃ気にはなりますけど……」


 特に気になるのは、ジーロが『何となく怪しいやつ』と言っていた人々だ。


「ジーロ兄様は、自分が疑り深い性分だからこそわざわざ証人を連れて行ったんです。あなたに疑われたくないから」

「私が、疑う……? うーん、ジーロ様って、疑り深いっていうか、正義感が強い人ですよね。理由もなく隠したり騙したりする方じゃないことくらい解ってますよ。何も問題なければ、煮林檎のお礼に、ってきっと教えてくれます」


 はぐらかされるとしたらそれこそ『優しさ』ゆえだろう。お前を無駄に傷つけたいわけじゃないと、そう言葉に出してくれたこともある。


 そもそも。弟が世話になっているしな、などと、なるべく理由をつけて親切にしてくれることも、彼なりの遠回しな優しさな気がする。煮林檎を頼んでいったのも、きっとそういう優しさの布石のひとつだ。


「多分、私のことを『気にしい』だと思ってらっしゃるから」


 気にさせないように。恩に着せないように。ラーマには顎で使いすぎだと言われていたが、彼の振る舞いはすべて、こちらの心の負担を軽くするためだ。


 気を遣わせているな、とも思う。だが、ジーロは『大人』だ。指摘したところで『それくらいは甘えておけ』と彼なら言うだろう。付き合いは短いが、そういう度量の広さ、器の大きさ、経験値の差、みたいなものはひしひしと感じる。


「……気に入らない」

「え」

「これ以上兄を理解しないでください」


 ぷい。


 ………………。


「ザコルだって、そういうジーロ様が好きなくせに」

「……っ、この」

「わっ」


 急に抱き上げられて声が出る。


「このミカは、僕のなんです!」

「はい、そうですよ。このミカはザコルのものです。ふふっ」


 いーこいーこ。また伸びてモサモサになりかけている髪をなでて抱きしめる。


「ジーロ殿もまた素晴らしい当て馬殿だな!」

「サゴシと同列にすんのはいくら何でも失礼じゃねーすか?」


 じと、同志らしく余計なことを言うタイタをエビーがつつく。何だかんだと私達の味方をしてくれるジーロには、警戒心の強いエビーも割とすぐに懐いていた。


 絆されているのは、明らかに私達の方だ。






 その日の夕方。


 ジーロとミリナはミリューに乗って子爵邸へと帰っていった。予定通り、山の民の里に『先触れ訪問』をしに行くためだ。


 ジーロが指揮して連れてきた騎士団員達はイーリアの指揮下に入った。その中には影達も含まれるが、穴熊達に関しては私の指示を仰ぐようにと指揮権を渡された。


 キュウ……。

 残された小、中型の魔獣達が少し寂しそうに空を見上げる。その直後、キョエエエエエ!! というけたたましい鳴き声に魔獣も人間も飛び上がっていたが。


「何で朱雀様まで残ったんだろう……」


 朱雀は、影や穴熊と『コード・エム』に参加するメンバーには含まれていない。


「そんなの、姫様が飛び出したら追ってもらうために決まってるじゃないですかー」

「やっぱり?」

「はっは、我々ではとても追いつけませんからなあ。スザクの世話は、この『守衛のモリヤ』と『リンゴ箱』がいたしますからご安心を」


 リンゴ箱職人。元騎士団の精鋭で、前衛を退いた後はこのシータイで林檎出荷用の木箱を作っている木工集団である。入浴小屋の中に設置された木製の湯船も彼らの作品だ。


「ガハハハ久しぶりだなあスザク!」


 キョエエエエエ!!


 リンゴ箱職人達は、年代的に魔獣と交流のあった人々だ。旧知に囲まれて朱雀も嬉しそうにしている。


 さて。明日は何をしようかな。


 まだ明るいが、赤みを帯びた空を見上げる。雲は少ない。せっかくの機会なので、吹雪など来ませんようにと祈りを捧げた。




つづく

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