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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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相変わらず懐が深いなあ

 色々と喋ってくれた山の民達は、最終的に酒乱イーリアによって潰され、町長屋敷の一部屋に転がされることになった。


 寝室に入って寝支度を終えたのは深夜。こんなに遅くまで起きていたのはいつぶりだろう。昨日寝不足だったせいもあって、目の周りや奥が張るというか、地球の重力をいつもより実感する。徹夜を繰り返していた社畜時代は、こんな重みを毎日抱えていたなと懐かしい気持ちになった。


「ミカは、飲まなくて良かったんですか」

「飲んだら寝ちゃいそうだったので。あと、酔ったら迫りますよ、多分」

「…………お気遣い、ありがとうございます」


 これまで酔っ払った私に散々絡まれてきたザコルが素直に礼を言った。


「ご褒美に、ぎゅっとしていーこいーこしてほしいです。そしたら今日は一人で寝ますから」


 ザコル人形はベッド脇のサイドテーブルにちょこんと座らせていた。


「いえ、今日は一緒に寝たいです」

「えっ」

「駄目でしょうか?」

「う、ううんいいよっ!?」


 思わず声が裏返った。ふ、とザコルが小さく吹き出す。


「ふへ、変な声出ちゃった。もちろんいいですよ」

「すみません、心を落ち着けるのに時間がかかって」


 と言うと、ザコルはおもむろに私の髪に手を伸ばし、一つにくくっていた髪紐をさらりと解いた。


「? どうして解いたんですか?」


 なぜか切ることを許されないせいで伸び放題になっているロングヘアは、寝る時にさえ邪魔になってきたので簡単にくくるようにしていた。


「嗅ぐのに邪魔だからです」

「ああそう……」


 ザコルは私の髪のにおいを定期的に嗅がないと死ぬのかというくらい嗅ぐタイプの変態だ。どうやら、昨日一日一緒に寝なかったせいで禁断症状が出たらしい。完全なるジャンキーだ。


 私は、布団の中で髪を思いっきり吸われながら、嗅ぎたい欲がある種の欲を上回っただけか、と複雑な気持ちで目を閉じた。





 翌朝。少々寝坊したザコルと私は、明るくなりつつある窓の外を見ながら町長屋敷の廊下を歩いていた。これから早朝鍛錬と洒落込むつもりだ。廊下の先には、優雅に腰を折る熊のような男がいた。


「おはようございます聖女ミカ様」

「おはようございます。昨日しこたま飲まされてた割に早起きですねラーマさん。というか、いちいち聖女とかつけなくていいんですよ。呼びにくいですよね?」

「聖女とは、ミカ様が唯一お許しくださった尊称でございますので」

「いや、別に許した覚えはないんですけど……」


 いつの間にか呼ばれていただけだ。そして何度も呼ばれていれば訂正するのも面倒になってくる。


「おい異界娘」

「ひえっ」


 いきなり横から呼びかけられてて私は飛び上がった。


「ジーロ様!? なんで気配消すんですかびっくりするじゃないですかなんでここにいるんですか!?」

「はは、質問と文句が多いな。何、皆より早く起きてしまったのでな、先触れがてら一人で走ってきたのだ」

「ああ、みんな今日到着するんですね」


 そうだ。影武者祭りはシータイの外でも行われていたんだった。


「ジーロ、様……?」

「おお、ラーマではないか。久しいな」

「ジー、ロ、さま…………?」


 ラーマは眉間に皺を寄せ、目をすがめた。近眼なんだろうか。


「どうした、俺はいかにもジーロだぞ」

「違う」

「違わんが」

「お離れください聖女様!!」


 ラーマが私とジーロの間に割って入ろうとする。反対側にいたザコルが私の腰を引き、ジーロからもラーマからも距離を取らせた。


「ラーマさん、この人は本当にサカシータ家次男のジーロ様ですよ。なんか髪切って磨いたら小綺麗になっちゃって」

「本当に、ジーロ様……!?」


 山の民ラーマはツルギの番犬たるジーロとは面識はあるのだろうが、おおかた山と同化している仙人モードのジーロしか見たことがなかったのだろう。私のフォローにも完全に納得がいってない顔で小綺麗な美男子になったジーロをまじまじと見ている。


「ははは、そんな反応をされるのも慣れてはきたが、相変わらず素直なやつだ。俺自身もまるで別人のようだと思っているぞ」


 ぺんぺん、とジーロは眉間に皺を寄せたままのラーマの肩を軽く叩く。


「ジーロ兄様、また髭を剃るのをサボっていますね。髪も梳かした方がよさそうです」

「ザコル、お前がやってくれるだろうと思って敢えてこのままにしておいた。それから風呂に入りたい。沸かしてくれ異界娘」

「あのジーロ様が風呂に入りたい、ですと……!?」


 ラーマの眉間の皺はますます濃くなった。もともと濃ゆい顔が劇画タッチみたいになってきている。


「屋敷の浴室でいいですか? 町民の皆さんが作った入浴小屋もありますが」

「あの竹小屋の方にしてくれ異界娘。興味がある」

「分かりました」

「先ほどから、聖女様を異界娘呼ばわりとは失礼ではございませんか! それに顎で使いすぎでは!?」

「大丈夫ですよ、ラーマさん。異界娘って呼び方ちょっと気に入ってるんですよね。あと、どのみち魔力は使っておかないとですし」


 ぐるる、とばかりに威嚇し始めたラーマをどうどう、となだめる。


「はは、異界娘は相変わらず懐が深いなあ」

「兄様、入浴小屋の湯船は大きいので支度に時間がかかりますよ」

「雪を集めるなら手伝おう。エビー達はどうした」

「エビーは昨日の深酒のせいで先ほど起きたばかりです。タイタが着替えさせているかと」

「はあ、どうせ母上が飲ませたんだろう」

「エビーはむしろ義母上と一緒になって人の盃に酒を注いでいました。義母上もエビーがお気に入りで」

「そうか、お前の弟分は出来たやつばかりだな」

「僕も常々そう思っていますが、飲み過ぎは護衛として失格です」

「飲んでも酔わぬ俺達には解らぬ愉しさがあるのだろう。たまにはいいだろうさ。なあ、異界娘」

「はい。久しぶりの飲み会でしたからね。昨日は山の民の皆さんと飲んだんですよ」

「ラーマも飲んだのか、というかお前ら神官も酒など飲むのだな」

「酒は特に禁止されておりません」


 つっけんどん。ラーマはまだジーロ(仮)を警戒しているようだ。そんなラーマの様子に、ジーロは仕方のないやつだとばかりに笑った。相変わらず懐が深いのは彼の方だと思う。


「で、母上はどうした」

「まだ眠っているのでは。一昨日の爆発事件からずっと働き通しだったと思いますので」

「爆発事件、か。一応耳にはしているが、結局何だったんだ」

「僕らでは詳細は分かりかねます。義母上かマージに聞いてください」


 ふむ、とジーロはうなずいた。




つづく

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