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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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どう考えてもグルだ

「それで衛士くん! ラーマさん達どこ連れてかれたの!?」

「地下です!」

「地下……」


 いきなり罪人扱いか、と私は頭を抱える。何せこの屋敷の地下には牢屋と拷問器具しかない。

 私は、後ろを優雅な足取りでついてくる町長屋敷の主を振り返った。


「……マージお姉様?」

「あら。わたくしはただ、ミリナ様が地下牢にご用があるとおっしゃるので鍵をお渡ししただけですわよ?」


 ホホホ。どう考えてもグルだ。

 私は連れてこられた山の民達のアフターケアを怠ったことを悔やむ。それに、チクリにきてくれた衛士くんをイジメないよう後で釘を刺しておかないと。やることいっぱいだ。


 腕を組み、その場の人々を睥睨……したかったが、少々背丈が足りなかった。


「仁王立ちもかわいらしいですね、ミカ」

「かわ……っげふん、なんでザコルは急にそんなこと言うんですかもうっ」


 思わず声が裏返った。視線が生温かい。色々と台無しである。


「いいですか、ここにいる全員に言っておきたいんですけど! 敵ではない者同士で喧嘩するのはやめてください!」


 きょと、とした顔で首をかしげたのはエビーとペータである。


「何言ってんすか? ミカさんを掠め取ろうとするヤツぁ全員敵っしょ。なあ少年」

「ええ、敵です。僕らの覚悟を甘く見ないでいただきたいですね」

「ペータくん、なんかエビーに毒されてきてない……?」


 こないだまでサゴシに毒されて闇落ちしていた気がするのに、すっかり好戦的なチンピラと化している。


「で、なんで今回は静かなんだよメリー」


 ペータは思考の読めない元メイドを睨む。


「ミカ様がザコル様を捨ててあの俗物どもを頼りになさるとでも? あり得ないわ」


 ふん、と鼻を鳴らす行儀の悪い元メイドである。


「お前が言うな誘拐犯」

「は?」


 元従僕と元メイドが睨み合いになる。私はどうどう、と間に入る。 


「メリー殿のおっしゃる通りではありますが……。頼りになさらないまでも、ミカ殿は慈悲深くそして義理を尊ぶお方。いかに下心を持つ相手といえど、一度受けた恩を無碍になさることはありません」


 前に世話になったからってちょっと甘いんじゃないですか、というのを至極お上品に伝えてくれるタイタである。


「そこですよねー、姫様ってばやさしーから。アイツらも調子乗ってんですよ」

「サゴシ殿もそう思われますか」

「じゃーやっぱ俺らの敵ってことで」

「さんせー」


 うんうん。


「もーっ! 敵じゃないしお世話にもなったけど過度に優しくした覚えもないよっ! そりゃ下心もあるかもだけど、善意でやってくれたことでもあるからね? ちゃんと話せば解ってくれるはずだよ」


 おそらくだが、ラーマ達は私が何度も護衛を振り切って逃走ごっこをしていると聞きつけ、私が実はザコルや各貴族家から逃げたがっているのではと心配したのだ。


 だからこそ密かに私達の動きを追い、私が再び逃走を企てるのを待っていたのだろう。ここは関所町。領内でも奥地にあり、城壁に囲まれている領都や子爵邸に比べれば外に逃げやすい……とは言い切れないと思うが、彼らはそう考えたのかもしれない。


「話など、もはや必要ないでしょう。ミカ自身がその脚で思い知らせてやったのですから」

「それはまあ、そうですね。百聞は一見に如かずって言いますし」


 雪が積もっていなければまた違っただろうが、雪がある限り水温の魔法士である私を捕らえたり拘束し続けるのは至難の業だ。それは最終兵器たるザコルにとっても同じであり、私が自分の意思でテイラー家やザコルの隣を選び続けている証でもあった。


「ミカとの追いかけっこは楽しかったですね。またやりたいです」

「ミカ様の本気、本当の本当に凄まじかったです! ザコル様が追いつけないだなんて、まさに『最強』でした!」

「雪上を疾走し跳び回るミカ様はま氷の妖精がごとき美しさ儚さ力強さが共存そしてまた新たなる神界へ」

「魔獣殿が来なかったらマジで姐さん無双でしたよねえ」

「へー、ずりーじゃん。俺らがいない時に何楽しく遊んでんの?」

「サゴシ殿のおっしゃる通りです!」

「お前ら牢屋で楽しく遊んでただろーが」


 わいわい。護衛達は楽しく盛り上がり始めた。


「無双……したかったけど正直甘かったよ。モリヤさんには捕まりそうだったし。しかも朱雀様と旧知はずるいよね。朱雀様に指示出すの難しいのに、遊ぼう、捕まえろの二言で即ロックオンだもん」

「私ども衛士も遠目に拝見しておりましたが、ミカ様が上空に吊り上げられた際は肝を冷やしました。上司に代わりましてお詫びを」


 若い衛士がペコペコする。


「いーよそんなの、朱雀様が私に怪我なんて負わすわけないし、落ちてもザコルが受け止めてくれただろうから」

「それでも、お怪我がなくて本当に良かったですわ。ミカ、よろしければまた『実演』してくださいませ。次はわたくしも参加いたします」

「えっ、いいんですか! きゃー! お姉様と追いかけっこ! ときめくなあ」

「お、俺も参加させてくださいミカ殿!」

「タイちゃんも脚速いからなあ、面白くなりそう。明日にでもみんなでやろーよ」

「おう、次はぜってえ捕まえてやんぜ!」

「リベンジですねエビー様!」


 あははー、と皆が和やかに笑う。


「……ふーん、確かに空飛べる魔獣なら雪上を高速移動とかしてても追えますもんね。てことは、姫様相手に強行策に出られるヤツなんかもはや魔獣使いのミリナ様くらいしかいないってことが浮き彫りになったってことですか。へー」


 サゴシの言葉に、私はハッと我に返る。


「……っだから助けに行くんだよほら急いで!! 何雑談してんの!?」

「今、姫様だって喋ってたのにー。ドジかわいーですね」

「だまらっしゃい」


 あははー、と皆が和やかに笑う。こんにゃろうどもめ、わざと雑談して時間稼いでたな……。


 私は廊下を走り、町長屋敷にもともとあった浴室に備え付けられた脱衣所へと踏み込む。床板は既に跳ね上げられ、地下牢への入口である格子状の引き戸があらわになっていた。私はその引き戸に手をかけた。


「ん、ぎぎ、重たい……!!」


 引き戸はただでさえ鉄製で重い上に、浴室や地下からの湿気で錆びかけている。私の力ではなかなか動きそうもなかった。こんな時、水温の魔法は何一つ役に立たない。


「ミカさま!」

「せーじょさま!」

「えっ、君達」


 誰も手伝ってくれない大人達をかきわけ、天使二人がやってきた。彼らは私に代わり、重すぎる引き戸をスコン、とあっさり開けてくれた。


「イリヤくん、ゴーシくん、どうしてここに」

「だって、母さまがなかまに入れてくれないんですもん! ずるい!」

「この下に、せーじょさまの『てき』がいるんだろ? おれらが『いきじごく』見せてやんぜ」

「待て待て待て待て」


 少年達はまもなくして、お守り役であるララとメイド長によって回収されていった。地下牢への隠し扉が気になってやってきただけらしい。


 やたらと非協力的な護衛達と町長を引き連れ、私は地下牢への階段を急いで降りた。




つづく

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