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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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爺にも解りかねますが

「モリヤ。一つ確認したいのですが」

「なんでしょう、ザコル坊っちゃん」

「カリューから避難民が来た日の翌日昼頃、集会所の前で僕達と話をした覚えはありますか」


 ザコルが本題に切り込む。モリヤは、はて、と顎をしゃくった。


「あの水害のあった日の翌日に、集会所ですか? いんや。覚えもなけりゃ、集会所なんざしばらく行ってもいませんね」


 ほぼ即答だ。


「それは確かですか、もう一人の方も?」

「ええ、確かです。水害からこっち、それこそ雪が積もるまでは、それはもう忙しかったですからなあ。その日だって、兄と交代で仮眠に行くくらいはしておりましたが、私らはそもそも普段からあの門の中で寝起きしておりますからね。この屋敷への連絡も部下に任せておりましたし」


 ザコルはマージの方を見る。マージはモリヤの言葉を裏付けるように首肯した。私達が徹夜続きだったマージを慮って仕事を代わったこともあるが、その間もモリヤが直接執務室に報告に来るようなことはなかった。


「あれから同志様達のキャラバンも続々到着して、門の目の前にできた同志村の見廻りもすることになって、曲者も徐々に増え、我々が門を離れるような余裕は数日、いや一週間以上はなかった。これは断言できます」


 ザコルは私の方もチラッと見た。なぜ私に確認するのか、とは思うが、彼が嘘を言っているようには見えないし、辻褄も合うと思うので小さくうなずいてみせる。


「あの日は、そこのテイラーの騎士殿。あなたも朝から馬車の誘導や中のあらためを手伝ってくださいましたな。ミカ様と救護所に夜通し詰めてお疲れだったろうに。その節は大変助かりました」


 モリヤに礼を言われたタイタは優雅に腰を折った。


「お役に立てたならば光栄でございます。モリヤ殿こそ、我が同志達のために警邏を増やしてくださり、誠にありがとうございました」

「そうだ。あなたが彼らを呼んで、シータイをお救けくださったんでしたな、タイタ殿」


 タイタはあの日の同じ時間、支援を呼びかけた同志が来るのを衛士達の手伝いをしながら門で待っていた。


「俺はただ、会員達に機会を与えたのに過ぎません。推しの故郷のために徳を積めるなど、ファンとしてこれほどの幸運はございませんから」

「徳……」


 モリヤは一瞬呆けたような顔をしたが、そうかそうか、と適当にうなずいた。


「全くありがたいですなあ、ザコル坊っちゃん。本当によく慕われておられる」

「そのよう、ですね……。僕もありがたいとは思っているのですが、僕のために徳を積む? と来世がどうとか? という考えにはまだ理解が追いついていなくて。徳、とは何ですかモリヤ」

「そりゃこの爺にも解りかねますが、爺は、坊っちゃんのおかげでシータイは救けていただけたんだと思っておりますよ」

「そう、思っていいんでしょうか……」

「ええ、ええ。ザコル殿こそは、ただこの世界で息をなさっておられるだけで我々の救いそのものなのです!」


 タイタの少々ズレた返答に、うんうんと強めに首肯しているのはマージである。彼女はザコルの元世話係であり、強火も強火、地獄の業火級の古参ファンである。


「うーん、やっぱり民度というか統制力が違うわね、ザコル様のファンは!」

「意識が高すぎてもはや神職よ」

「それなとしか言えないわ」


 元ザハリファン達は感心している。

 幹部たるタイタがファンとしての徳を追求しすぎて神徒の資格を得たくらいなので、もはや神職というコメントは的を射ていると思う。


 はっ。マージがファンの顔から町長の顔に戻った。


「コリー坊っちゃま。もしや、モリヤを装った怪しい者に接触されまして?」

「ええ、一度だけですが。集会所の前で、休憩上がりだというモリヤに声をかけられました。ミカは感謝の握手を求められて応じていました」

「握手、ですって?」


 さっ、マージ他、シータイ住民の顔色が変わる。


「あ、その時は何もなかったですよ。民のためにありがとう、とお礼を言われただけです」


 私は手の平を皆に見せる。傷などできても残っているはずもないが、まっさらな手の平を見ればモリヤや元ザハリファン達は明らかにホッとした表情になった。


「僕もモリヤ本人と思い込んで油断を。周りの者も、そのモリヤらしき人物が町内にいることに違和感を抱いていないようでした。モリヤが一人以上いると、皆が日頃から認識していたのなら納得です」


 シータイ住民達は顔を見合わせた。


「……マズいですよ、町長様。今回捕まえたのは『元団長のもどき』じゃありません」

「ええ、分かっているわ」


 元ザハリファンのリーダー格の言葉にマージがうなずく。


「モリヤ」

「はい町長様。じっくり炙り出してやりましょうや。俺らのフリたぁ舐めた真似を」


 ぴり、ひとつまみの殺気。『騎士団長のモリヤ』が見せた凄まじさこそないが、ヒヤリと背筋を這うものがある。……そうか、この人も『陰』の人なのか。何となく納得だ。


「考えたくはないけれど、今度こそ内部に協力者がいるかもしれないわね。あなた達もこのモリヤに協力なさい。他の者には内密に動くのよ」

『はい!』


 少々だらけていた人々は姿勢を正し、機敏な動きで部屋を辞していった。




つづく

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