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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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私にとっての『推し』は

「ゴーシを授かって、お腹が膨らみ始めた頃だったと思う。急にね、視界がぱーっと開けるみたいに、これまで何とも思ってなかったことが『何かおかしい』って思えるようになったのよ」


 ララが語るのを皆で聴き入っていた。

 ゴーシも、元ザハリファンも、モリヤも、マージも、そして私達も。


「あの方は、私自身が双子で、その母親も双子だから特別なんだって繰り返し言ってたの。ザハリ様も双子だし、運命なんだと私も思ってた。妊娠が判ってからは、きっとかわいい、僕らそっくりの双子が産まれるねって、よく私の腹を撫でて言ってたわ。私もなぜか絶対に双子が産まれるものだと信じていたし、産むのが私の使命だと思い込んでた。『僕ら』そっくりの、っていうのは私とザハリ様のことかと勘違いしてたけど……」


 まあ、普通はそうだ。恋人が二人きりでしきりに言う『僕ら』に自分が含まれないとは考えもしないだろう。


「双子双子って言うのは私と二人きりの時だけだったから、その時はまだみんな、あの人が男の双子にこだわってたことを知らなかったと思う」


 今は、元ザハリファン達もザハリが男の双子にこだわっていたことを知っている。ララの後にはララの妹であるルルやメリーの姉が妊娠出産しているので、気づく機会もあったのだろう。


「でも、その頃の私にはもうはっきり判っていた。お腹の中で『おれだけを見ろ』って私に伝えてくるのは、ただの一人だけだった。不思議と男の子なのも判ってたけど、双子じゃないことだけは確かだったわ。もしこのまま産んで双子じゃないって判ったら、目の前のこの人は私達をどうするんだろう、いや、この子をどうするんだろうって、すごく不安になった」


 その時のことを思い出したのか、ララはキュッと自分の手を握り合わせてうつむく。


「子供をどうにかされると思った瞬間、それまで応援してくれていた他のファンの子達のことまで敵に思えたの。産んだことを子爵家にバレてもいけないと思った。こんな賤民がサカシータの子を産んだなんて知られたら、絶対に取り上げられると思ったから。だから、産まれたばかりの子を抱えて、ルルにさえも行き先を伝えずに飛び出しちゃったのよ。……ごめんね、ごめんなさい、皆のことを考えられなくて……っ」


「ララ……!」


 仲間だった女達が泣き出したララに駆け寄る。


「あんたとゴーシちゃんが無事ならそれでいいのよ! それからルル達も!」

「最近まで入れあげてた私達になんか何も言えなかったでしょう、ごめんなさい、私達も責めるようなことを言って!」


 わっ、と元ザハリファン達は皆で泣き始めた。




「……そういえば」


 ゴーシは強くないながら闇の力があるとサゴシが言っていた。魔獣のジョジーにも訊いたが事実のようなので、ダイヤモンドダストや魔力放出を行う時は隔離するメンバーに彼を入れている。


 赤ん坊のうちは本能的に母親を強く求めるものだろう。ゴーシが胎児のうちからララの洗脳を上書きした……とか、あり得ない話ではないかもしれない。


 ララは、ラッキーだったのはゴーシを授かった自分の方だと言った。彼女も、ザハリの洗脳を解いてくれたのはまだ物言わぬ小さな命だったと確信しているのだ。


 ……私にとっての『推し』は、もうザハリ様じゃなかった。


 妊娠をきっかけとして、ララの推しはザハリではなくなり、血を分けた我が子が無二の推しとなった。そういうことだ。




「ララ様、産後の身体で無茶をなさいましたわね……」


 そう独りごちるように言ったマージをゴーシがソファから見上げる。


「かーちゃん、体がジョーブなのがとりえだってよく言ってます」

「ゴーシ様。産後の無理は、歳を重ねてからの不調につながると聞いたことがありますわ。今後、お母様が何か違和感を感じているようであれば、必ず医者にかかるようおすすめしてくださいませね」

「はい、わかりました」


 ゴーシは神妙にうなずいた。そうなんだ、と向かいに座った私もうなずく。何となくミリナも産後に無理していそうな気がするので、いずれ出産時の話も訊こうと心に留める。


「マージお姉様。サカシータでは双子がよく生まれるんでしょうか」


 ザコルとザハリもそうだし、ララルルもそうだ。メリーの姉もザハリに目をつけられたところを見るに、自身が双子か、双子が産まれがちな家系なのかもしれない。


「申し訳ありません、他の領と比較したことがないので多いか少ないかは判りかねますわ。ですが決して多い方というわけではないんじゃないかしら。シータイにはそこの守衛兄弟しかおりませんし」


 マージは、ゴーシのかたわらに侍って甲斐甲斐しく守りをする『爺や』を視線で示す。


「あの、モリヤさんがお二人いらっしゃることって、どれくらい知られていることなんですか」

「この町では噂程度には知っている、という者が多いと思います。ですが、誰も敢えて追及はしませんのよ。どちらにせよ、守衛を任せるに足る人物には変わりありませんから」


 確かに衛士達も彼の指示に従順で、侮っている様子は一つもなかった。元騎士団長でもその影でも、ベテランゆえの経験や判断力を頼りにされている証だろう。


「モリヤが二人くらいいないと回らないから、の間違いでしょうマージ」


 じと。ザコルが人遣いの荒そうな『姉や』を横目に見る。


「ほほ、そうとも申しますわね。実際助かっておりますのよ。同じ関所町のカリューには、遠回しな文句を言われたこともありますわ」


 モリヤを守衛として迎えるということは、モリヤ兄弟をセットで迎えるということなのだ。事情を知る者からすれば、揺るぎない実力者を二人も抱えているなんてずるい、と考えてもおかしくはない。


「守衛のモリヤ、あなたとも手合わせしてみたいのですが」

「勘弁してくださいよザコル坊っちゃん! そりゃあ、私だってそこそこはできますがね。兄と違ってサカシータのお血筋を相手できるほどじゃありませんから」

「そうでしょうか。ミカを捕まえられる足を持った人間はそうそういませんよ」

「えっ、モリヤさん、せーじょさまをつかまえられんの!? すげーなあ、やっぱ、つよい人っていっぱいいるんだ!」


 英雄に憧れがちなゴーシにキラキラとした目で見つめられ、影のモリヤは「はは……」と照れたように頭を搔いた。




つづく

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