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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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最強なので

「えっと、ラーマさん? 色々と訊きたいんですけど」

「これはミカ様! お声がけいただき光栄でございます。ぜひ何なりと」


 恭しく頭を下げる熊のような体格の男。うん、ラーマだな。偽物とかじゃない、たぶん。


「まず一つ。長老様は何とおっしゃってるんですか」

「長老、チベトにございますか」


 心なしか、ラーマの表情がスン、とした気がする。


「チベトとは現在、連絡を取り合っておりません。シータイに留まる限りはよくよくあなた様をお護りするようにと我らに言い残し、山に戻りましたので」

「そうですか……」


 チベトは確か、王の落胤であることを明かしたアメリアとお隣モナ領のチッカで会合しているはずだ。ラーマはチベトがシータイを去った後にチッカに行っていたことも把握していないんだろうか。


「えー、では、二つめ。私をどうして『身内』と呼ぶんですか?」


 サッ、ラーマの顔色が変わる。悦びから、焦りへ。


「ご不快に思われたのでしたら申し訳ございません!」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど。なんで突然、って思ってるだけです。さっきも話に出ましたが、私は一度、そちらのご厚意をお断りしていますから」


 私を巫女かなにかに祀り上げよう作戦は、私にその気がないことと、ポッと出の変な女を持ち上げるのは古くからの信者にも失礼だからやめようねといったことをシリルにこんこんと説明し、一度は立ち消えている。


「突然などではございません。我々の用意した肩書きなどなくとも、ミカ様は既に山神様への敬意と信仰をお持ちでいらっしゃいます。なれば、あなた様も我らと等しく山神の子。つまりは身内同然なのでございます」


 その論理でいくと、山派貴族領であるサカシータ出身者のほとんどが山神教に入っているので、私を取り囲むメルヘンつよつよミカ軍はエビー以外みーんなラーマ達の身内ということになるのだが……。いや、穴熊はアカイシの向こうから来た部族だから違うかもしれない。


「うん、とりあえずよしとしましょうか。では三つめ。今日のラーマさんはどうしてザコルに優しくないんですか?」

「やさ……?」


 きょと。


「ですから、元々ラーマさんって『私達二人』に感謝してくれてましたよね。シリルくん父子をその手で直接助けたのも、応急処置をして命をつないだのもザコルです。私の身辺を護ってくれるのも、そもそもはザコルが山の民の皆さんにお願いしたからでしたね。なのに、どうして今日はうちの人を視界に入れてくれないんですか?」


 うちの人、というワードにザコルがピクッとする。


「それは」


 ラーマが言いよどむ。なんだ、やっぱり無視している自覚はあったのか。


「……話は変わるんですが。私の生まれた日本という国では、嫁ぎ先の宗派に合わせて祈り方を変える人が多いんです」


 まあ、今は嫁として夫の家の仏壇や墓の世話をする人も少なくなっただろうが。令和だし。


「嫁ぎ先の、宗派に……? それはどういう」

「私、ザコルに嫁がないなら山神教には入らないですよ」

「えっ」


 いつも礼を欠かさないラーマの顔が見たことのない表情になった。あれだ、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔。


「ラ、ラーマ」


 ずっと黙っていた他の紫ローブがラーマの袖を引く。


「あ、ちなみに他の山神教信者に嫁ぐのは嫌です。ザコルじゃない男はいらない」

『…………っ』


 ヒュォ、風が通り抜け、紫ローブ達の裾が所在なげにはためく。


「女なら要る、ということですか」

「兄貴は黙ってろ」


 むぎゅ、エビーがザコルの口をふさぐ。


「でっ、ですが、何度も逃げ出そうとなさっておられましょう! 子爵邸でも魔獣の力を借りて抜け出したと聞き及んでおります!」


 どこかから私のヤンチャがバレたらしい。特に隠してはいないので、シータイ町民から普通に聞いたんだろう。


「ザコル様は、確かに我らの恩人でございます。しかしこの方の存在は聖女ミカ様、あなた様を縛るものだ! 長老もあなた様が自由であるべきだと言いました。でしたら、オースト貴族の思惑によって最終兵器の『くびき』に添えられている状況をまずは」 


「黙りましょうか」


 にこ。

 ラーマは即座に口をつぐんだ。


「まず、私が何度も脱走するのは『試し行動』ゆえです」

『試し行動』


 紫ローブが復唱した。


「私、捨て子も同然の境遇でして。逃げ出せば追ってくれる人の存在に飢えてたとこあるんですよね」


 自分では捨て子とは思っていないが。育ての祖母は、私をちゃんと追ってくれる人だった。震災の時は、私がなかなか家に帰らなかったせいで彼女に怪我をさせたのだ。祖母は、間違いなく私を愛してくれていた。だが、そんな祖母と離れてもう何年にもなる。愛と帰る場所を失った私は確かに天涯孤独だった。


「あと、せっかく迎えにきてくださったのに何なのですが、私は単独の方が落ち延びやすいです」


 実際問題、荷馬車なんかに乗っていたらすぐに追いつかれてしまう。何せ馬車というのはポクポクとしか進めない乗り物だ。


 目が点だったラーマがハッとする。


「それはまさか、逃げるならお一人でとお考えでしょうか。誰も巻き込むまいとのお考えでしたら、どうぞご心配なきよう。あなた様は雪の真の恐ろしさをご存知ないのです。どうか、どうかそのような無茶は……!」


「雪の恐ろしさはそこそこ分かっているつもりで言うんですが。私一人であればザコルでさえも追いつけない速度で雪上を高速移動できますし、例え吹雪の中でもなんとかサバイバルできちゃうんですよね。私、実は最強なので」


 ……………………

 ……………………

 シーン。



 なんかこういう沈黙久しぶりだな。

 と、呆然とする人々を眺めながら私はしみじみと思った。




つづく

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