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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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つよつよだよ?

「ラーマ。何のつもりですか」

「………………」


 黙って頭を下げている紫ローブと私の間にザコルとエビーが立ちはだかる。二人のそんな反応に、若い衛士もまた門口を塞ぐように立った。


 ミカ様、と声がして、どこかから出てきたペータとメリーの二人が私の両脇につく。さらに、ぐふぉっとくぐもった声がしたと思ったら、門の脇からツルハシを担いだ穴熊が二人、ハイホーハイホーとばかりに出てきて私の後ろに並んだ。


 ……あれ、あっという間に私を中心とした陣形が整ってしまったぞ。


 というか穴熊は爆破された壁の修繕に行かせたはずなのに、どうしてこんなにタイミングよく現れたんだ。


 エビーがそんな後方をチラッと振り返り見る。


「何、エビー」

「いや、なんかメルヘンすね、ミカ軍」

「かわいいでしょ。つよつよだよ?」

「ぶっ」


 メルヘンつよつよミカ軍にウケたらしいザコルが吹き出す。彼は、いたいけな少年少女とドワーフに囲まれた私をチラ見して「ぶふぅ」とさらに吹き出した。


「……いっ、いきなり面白いことを言わないでくれますか…っ、ぐふっ、すっ、すみませんラーマ、話の途中で……っ」

「あーすいません兄貴がツボに入っちまったんで俺が代わりまーす」


 震えるザコルを尻目に、エビーが軽い感じで挙手した。色々と台無しである。


「……相変わらずでいらっしゃいますね」


 やっと顔を上げたラーマは若干引きつったような笑顔を浮かべた。お前らゆるゆるかと言いたいのだろう。全く失礼な。メルヘンに見えるのに戦闘力は全くメルヘンじゃないのがつよつよミカ軍のつよみだぞ。


「へへっ、堅苦しくしねーのはうちの頭領の方針すよ」


 頭領って誰だろう。まさか私のことだろうか。ミカ軍は盗賊団とかじゃないんだぞ。


「で、ラーマ殿はその頭領になんの用すか」


 ラーマ。山の民であり、山神様を奉る神官の一人だ。彼と一緒にひざまずいている者達も同じく神官だろう。


 彼らはかつて、私を神の遣いというか、巫女か何かに仕立て上げようとしたことがある。


 私から見たラーマは、水害時には自分達の荷馬車を走らせ、避難民や物資を乗せてカリューとシータイを夜通し往復してくれた献身的な人だ。ザコルと私が仲間を助けてくれた恩人だからと、シータイにいる間は私の身辺を陰ながら警護する人を手配もしてくれた。


 そう、彼らは私達への恩を返すために献身してくれている。


 ザコルが彼らの仲間、シリル少年とその父親を濁流からすくい上げたことは事実だ。そのザコルを対岸に渡らせるために、私が氷結魔法でサポートしたのもまた事実である。


 ……おわかりいただけただろうか。


 事実上、私がしたのはザコルのサポートのみなのである。その後はむしろ山の民の世話にしかなっていない。恩人に報いると言うならば、彼らが祀り上げるべきは聖女より猟犬の方だろうと思うし何度もそう言っているのだが、彼らはずっと『私』に親切にしてくれた。


 その後シリルや彼の妹たるリラと交流を深めるうち、実は次期神官長という発言権ある立場だったシリルが『悪いやつに狙われているお姉さんを守りたい』のだとラーマ達に相談した。


 ラーマ達はそんなシリルの要請を受けて、戦勝でテンションの上がっている民を前に私の神がかった? 功績を、まっこと神の遣わしたうんたら、と並べ立て、山神教の聖人として担ぎ上げる作戦に出た。


 シリル自身は私を聖人というか、聖域に関わる仲間にすることで守ろうと考えていた。そうすれば、山の民だけでなく、山神を主神と崇める山派貴族全体で私を護る名目ができるから。その厚意はもちろん本物だった。


 ただ、山の民の長老たるチベトやシシに言わせると、神官達は私を信仰に取り込むことで、衰退しゆく山神教を再興しようと目論んでいた、ということらしい。そのためにシリルの純粋な気持ちも利用したのだと。


 高潔そうに見えて案外俗物らしい、そんな神官達の姿を目に捕らえる。



「何の用とは。我らの目の前に、今再び山神の遣いたる尊きお方がいらっしゃるのです。お出かけになるおつもりならば、ぜひ神僕たる我らがお力になりましょう」


「いんや、俺らモリヤさんに用があってここに来ただけなんすわ。町を出る気はねえんで大丈夫すよ」


「そうでございましたか。ならばどうして、子爵夫人や町長様にさえ黙って町の玄関口までいらしたのでしょう。もしこの領に不信を抱かれたのなら、我らがお味方いたすべきかと考えまして」


「すいませんけど、俺らテイラーのモンなんで。うちの主、テイラー伯がサカシータの世話になってこいって言うからここにいるんすよ。サカシータ子爵家に不信を抱くっつーのは、主、テイラー伯に不信を抱くのと同義っす」


 よく言う。

 エビーはサカシータ家の面々を無条件に信用したりなどしていない。ザコルや私への態度如何では敵意をむき出しにしているまである。


「貴殿の主様をけなす意図はございません。我らがお味方するべきと考えるのは、我らの『身内』たる聖女様でございます」


 身内、という言葉にエビーがピクッとする。


「聖女ミカ様におかれましては未だ、オースト国側からは何の身の保障もされておりません。それどころか、他ならぬ王族が私欲のために尊き御身を狙っているという始末。我らは、不可侵たるツルギの聖域にて御身をお護りするのが最善、という考えを崩しておりません」


「何、うちの姫を勝手に『身内』とか言っちゃってんすか? オースト国は確かになんもしてくれちゃねーすけど、召喚されてから今日まで姫を保護してきたんは俺らテイラーのモンすよ。つか、アンタらの『聖人』にゃならねーって、ミカさんみ・ず・か・ら・断ってますよね?」


「ええ。聖女ミカ様は、にわかに信仰に加わった身では神の遣いなど名乗れないと、ご自身のお言葉で確かにおっしゃいました。それもすべては山神様とその信仰を尊ぶゆえの心遣い。なんと高潔な魂をお持ちかと、我ら神官一同感じ入るばかりでございます」


「……ごちゃごちゃ言ってんなよお前ら。要はうちの姫を拐いにきたんだろ。そんなことしてみろ、テイラーもサカシータも黙ってねーぞ」


「お味方をしに参じましたと、聴こえませんでしたか」


 バチバチバチバチバチバチバチバチ。


 メンチを切るエビーと不敵な笑顔のラーマの間で火花が散る。


「うーん……」


 ラーマってこんな好戦的な人だったっけ……。

 とりあえず喧嘩を止めさせるか、と私は眉間を揉んでいた手を離した。




つづく

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