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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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すき間

「ではリュウ。すみませんが、まだしばらくシシとコマは戻らないと思いますので、シータイをよろしくお願いします」

「し、しば、しばらくって、いい、いつままで」

「春までには戻ると思いますが」

「は、はる……」


 しゅん。

 深緑の猟犬オタクであり、もれなくサカシータ一族オタクでもあろうリュウが、憧れのサカシータ子爵邸に遊びに行けるのはまだまだ先になりそうだ。


「しし、診察、ち、ちょ調薬、がん、がんばります……」

「ありがとうございます。子爵邸はいつでも君を歓迎しますよ。君は父とも話が合いそうですし」

「ふぁっ、ふぁふぁはなしっ? サササササカシータししっ子爵様と、ぼぼっ僕が!?」

「はい、そうですね」


 同志達は基本的にコミュ障を自称している。が、ここシータイに支援に来たメンバーは商人が本業でしかも会頭ばかり集まっているせいか、あくまで『自称』な人が多い印象だ。


 その点、過去に色々あったせいで若い女性にトラウマがあり、推しにも推し以外に対しても会話に難があるリュウは、極度の女見知り人見知り場所見知りであるオーレンとは間違いなく話が合うだろう。若き天才医師というのも探究心の強いオーレンの興味を引きそうだ。


「ですが、覚えておいてください。僕の方が先に君を好きになったんですからね」

「…………すっ」

「父に絡まれてもほだされないように……リュウ?」


 さっ、さっ、リュウの目の前をザコルの手が往復するが、無反応。


「まあまあ、よかったですねえリュウ先生!」

「ザコル様のおっしゃるとおり、きっと領主様も先生に感謝してくださいますよ」

「リュウ先生もほらザコル様に、リュウ先生、先生?」


 看護師三人組がリュウに口々に呼びかけるが、無反応。


「直撃ですな」


 両脇前後を固めていた同志達は、南無三、とばかりに揃って合掌した。





 ザクザク。


 診療所を後にした私達は、当然のように町長屋敷方面とは逆方向に歩いていた。この先には集会所があり、さらに進むと街道へ通じる門がある。


「兄貴って何でいきなりぶち込むんすか、しかも上目遣い付きで。あれじゃしばらく診察できねーだろ」

「そーだそーだ私には上目遣い禁止するくせにー」


 ぶーぶーぶー。


「リュウの方が背が高いので仕方ないでしょう。知らないうちに僕より父に心開いていても嫌ですし。彼は僕のファンで教え子なんですから」

「教え子、ふふっ。毎日、十手の鍛錬も欠かさず続けているって看護師さんが言ってましたね」


 十手、つまり江戸の町で同心が御用だ御用だと言って振り回しているあの鈎のついた棒状の武器だ。サカシータ領内では古くから伝わっており、サカシータ家先祖の渡り人が発祥と思われるが定かではない。


 そんな十手は、戦闘素人の多い同志達のために刃のない護身、捕縛用の武器としてザコルが勧めたものでもあった。


「私もザコルに好きって言っていいですか」

「駄目です」


 一歩近づくと、ザコルは半歩離れた。もう一歩踏み込めば届くかもしれないが……。


「じゃあ好きって言ってもいいよって言う人に言ってもいいですか」

「もっと駄目です!」

「ふーん……」


 私はエビーの方に向き直る。


「ミイ」


 ぴょこ。エビーの懐から白リスが顔を出す。


「そこ居心地いい?」


 ミイミイ。

 まあまあ。


「ふーん、いいなあ」

「え、俺のふところがすか」

「違うけどさ」


 私は足元の雪を見下ろした。


「おいヘタレ……」

「僕をこれ以上刺激するなサゴシに処させるつもりか」


 私の代わりに文句を言ってくれようとしたエビーの言葉をザコルが早口でさえぎる。


「何言ってんすか、サゴシじゃアンタを処せねえだろ」

「いや処させる」


 処させる、とは。


「だから」

「いーよ、エビー」

「でも姐さん」

「いいの。今日はザコル人形と寝るから」

「だっ」

「駄目とか言わないですよね? ザコル」


 にこ。


「んぐ……」


 これ以上は意地悪かなと思いつつ。

 彼も彼とて我慢しているのは解っているが、さみしいものはさみしい。


 何かあれば抱っこしてくれるし、頼めばエスコートもしてくれるかもしれないが、何となくで開いた微妙な距離。そのすき間を埋めたくて、私は首のマフラーを両手で握った。




つづく

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