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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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525/568

心の救いでございます

「ミっ、ミカ様! ザコル様……!!」


 看護師の絶望を絵に描いたような表情に、ドキンと胸が跳ねる。


「もうどうしたらいいかと」


 おろおろおろ。


「何かあったんですか!? 誰か発熱とか」

「リュウ先生が……!!」

「えっ、リュウ先生が? 患者じゃなくて? まさかリュウ先生ご自身が何かの病気とか」

「ええ、ご病気なのかもしれません。突然、胸の痛みを訴えられたと思ったら外套も羽織らず外に飛び出していってしまって……!!」


 よく見ると看護師の彼女はリュウのものと思われる外套を掴んでいた。


「どうしましょう、どうしましょう。そろそろ気温も下がってくる頃だわ、あの子は雪男みたいな見た目だけど『雪国』出身の子ではないのに、もし何かあったら」


 おろおろおろ。看護師はまるで幼い子を心配する母親か親戚のごとしだ。


『………………』


 ザコルとエビーと私は顔を見合わせた。


 ザコルはおもむろに懐を探ると、マネジにもらった小さな金属製の筒を取り出して口に当てた。甲高い音がピピイッ、と鳴る。


 ズボッ。少し離れた場所で雪の中から人間が生えた。そしてシュババと素早くこちらにきて当然のように跪く。ダットン商会のワット、つまりは同志だ。


 ……雪の中を隠れながら私達を尾けてきたんだろうか、いるだろうとは思っていたが全然感知できなかった。さすがだ。


「お呼びでございますか神よ」

「神ではありません。ワット、リュウに僕達がここへ来ると伝えましたか?」

「ええ、先ほど窓から文を投げ入れました」

「窓から文を……。なぜそんな周りくどい方法を?」

「我々の間で流行っておりまして」


 忍者ごっこだろうか。


「それで、リュウは緊張に耐えかねて飛び出したんでしょうか」

「その通りでございます。今、ジョーとカンゾーとマハロが追っているところです」

「だそうです。同志が三人がかりで追っているならいずれ見つかるでしょう」


 ほ、と看護師のおばさまが胸を撫で下ろす。


「ちなみに私はシータイでの定期報告係を不在のドーシャ殿に代わって任されておりますゆえ、この場で待機となりました」

「そこまでは訊いていませんが。ワット、部屋に届けられた金が多すぎるので返していいですか。かさばるんですよね」

「それは推しの頼みといえど聞けませぬ。今回お預かりさせていただいたレースも必ず高値で売れましょう。利益が出過ぎましたらまたお返しにまいります」

「では、僕ではなく実家に預けてくれませんか。僕はこの通り任務中ですし」

「はあ、しかし」

「ちょ、兄貴、女帝閣下から仕送りしすぎだっつって金返されたとこっしょ。また渋い顔されますよ」

「エビーが僕の代わりに使い道を考えてくれるんでしょう? 僕としては武器と、ミカに料理を作ってもらうための食材や毛糸なんかが買えればそれでいいのでよろしくお願いします」

「いやだから、武器はテイラー家から出てる経費で買えって何度も言ってんだろが」

「そのことですが、武器代までもらってはやはりもらいすぎでは」

「だーかーらー!」


 金のことで揉め始めた。金がかさばるとか、多すぎるから返したいだとか言って揉めるのはうちのザコルくらいだ。


 ちょこん。さっきまで取り乱していた看護師が一礼した。


「お見苦しいところをお見せいたしました、ミカ様。中で待たれますか。一応、患者は一人だけおりますが」

「その患者さんのご迷惑でないなら」


 看護師は一旦引っ込み、患者の了承をもらって私達を中へ案内した。




「タキさん!」

「ミカ様!」


 患者とはミワの母親、タキのことだった。かすり傷を負って手当てにきたらしい。


「タキとしてお会いするのはお久しぶりでございますね」

「ふふっ、昨日は『私』でしたもんね。本物より本物っぽくてびっくりしました。これが噂のシータイ影武者祭りかって」

「まあ。どんな噂をお聞きになったんでしょう」


 くすくす。タキはお上品に口元に手をやって笑う。

 彼女は元々、どこかの名家でお嬢様付きの戦闘メイドをしていたという経歴の持ち主だ。ちょっとした仕草にも高位貴族に仕えた名残が感じられる。


「ミワがお世話になりました。あの子、大人しくできていたでしょうか」

「ええ、イリヤくんと仲良くしてましたよ。さっきはガットくんに『ずるいずるい』って突っかかってましたけど」

「ああ……。それは荒れているでしょうね」


 後々その荒れた子を相手しなければならない母親は苦笑しながらため息をついた。


「ガットと仲良くするのはいいのですけれど、二人揃うと全く手がつけられなくって。騒がしい子達で申し訳ありません」


「二人ともいい子ですよ。ミワは、シータイに来て最初の頃は黙々とドングリを投げたり字の練習をしている、大人しい子という印象でした。でも、元々活発な子だったんですよね。素が出せるようになってよかったな、と思ってました。ね、ドングリ先生」


「誰がドングリ先生ですか。しかし、そうですね。ミワも、他のカリュー出身の子供もよく笑うようになった。そうですねエビー」


「っすねー。しばらく見ねえうちに大人しかったのもみーんないい感じに悪ガキんなっちまって。逆に安心しましたよお」


 きゅ、とタキが唇を引き結ぶ。


「……ミカ様と護衛の皆様の存在は、子供達にとっても、その親にとっても、心の救いでございます」


 タキはそう言ってまなじりを拭った。




つづく

明日は更新お休みするかもです。

活動報告でお知らせします。

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