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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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なんのはなしだっけ

「なんのはなしだっけ」

「うん、なんだっけな……」


 親達を入浴小屋に見送ったのち、子供達の有り余った体力を解消させてやるべく、私達は屋敷の前に作ったスケートリンクに集合していた。


 残党なども含め掃討は一段落したらしいが、スケートリンクの周りには町民が護衛兼監視員として何人か配備されている。


「とりあえずガットおまえ、ごめんなさいのあとにありがとうってつけるのやめとけよ。つけるなら、シンパイしてくれてありがとうとかにしろ。な?」

「うん! よくわかんねーけどわかった!」


 ヤンチャボーイはゴーシ兄貴の舎弟になったらしい。


「ガット!!」

「あっ、ミワ」

「ガットはずるい!! ミワもたたかいにいきたかったけどガマンしてたのに!!」


 きーっ。


「だって、ミワたちがねてたへや、けーびがげんじゅーだったからさあ」


 へらへら。怪我人のおじさんのベッドにもぐり込んだガット以外の幼児は、一部屋でメイドや従僕の監視のもとで寝ていた。


「てんめえ、お前が俺んこと舐めてんのは分かったぞ?」

「あっ、おじさんなんでここに」

「てめえがまた逃げ出さねえように見張りにきたんだよ!!」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「いたいいたいいーたーいー!!」

「ガットずーるーい!」


 つんつん。


「ねえミワ、まってるあいだ、僕とゲームしたのはつまらなかった?」

「……う、ううん、つまんなくない、です」

「うん、たのしかったね。またやろうね、ミワ」


 くふふ、と微笑う美少年にミワは何も言えなくなった。


「……イリヤ、おまえってマジでタラシだよな」


 じと。


「タラシ?」


 はて、と小首をかしげた従弟の額を、ゴーシは軽く小突く。


「さすが、リアおばあさまのマゴだってこと。なまえもにてっしな」


 そう言われてみれば、イーリア、イリヤ、の二人は名の響きが似ている。イーリアにずっと反抗していたイアンが名付けたとはとても思えないので、きっと姫騎士イーリア・ペテルの筋金入りのファンであった妻の方が名付けたに違いない。


 妻は、夫自身というよりは婚家とのつながりを喜んで嫁ぎ、義母となる元姫騎士の覚えもめでたく、生まれた子には義母リスペクトな名前をつけた。出産後は王都と辺境という距離がありながらも、育児のことで相談の手紙を出すほど義母を頼りにしていた。


 貴族同士の婚姻は家と家の間に交わされる契約なので、家の一員になれることを魅力として嫁いでくる嫁はある意味理想的な嫁だ。妻とて、夫の親を嫁として敬ったら夫に疎まれることになるなどとは考えたこともなかっただろう。


 イリヤは、社交界にこだわるイアンが継ぎたかったであろう、イーリア譲りの華やかな金髪碧眼の持ち主だ。庶民によくいるらしい『くすんだ麦色の金髪に灰がかった碧眼』ではなく、きらきらと輝く金髪に鮮やかなアクアマリンの碧眼。こちらは伯爵以上の高位貴族の家系によくある高貴な色味らしい。


 何もかもが気に入らなかったイアンは、妻と母の間に交わされる文を握りつぶし、意図を歪ませて伝え、妻と息子双方を脅して自由を奪い、食事を抜かせ、妻の方には自分がするべき仕事を押し付けるなどして何年も虐待していた。




「結局、あの爆発は何だったんでしょうか?」


 そう問いかけてきたのは同志村女子の一人、ティスだった。同志村スタッフは子守りをよく仕事として引き受けているそうで、非常事態が落ち着くまではと何くれなく気を回してくれていた。


「何だったんだろうねえ」


 火薬によるものだということ、街道沿いに造られた町を囲う壁が『内側』から爆破されたことは判っている。


「あっ、詮索しようという気はないのです!」


「分かってるよ、君達ってほんとコンプラ意識高いよね。詮索されたとしても私もそう多くは知らないし、今回は要請がなければ首突っ込まないつもりなんだ。でも、早くモリヤさんに会いたいなあ」


「モリヤさんですか。もしかして、猟犬様との手合わせ再びですか!?」


「ふふん、それが目的で『帰省』してきたと言っても過言ではないのだよ。ティス、例の絵ありがとね。毎日コソコソ拝んでるよ」


「絵……っ、それなのですが、お渡ししてからじわじわと恥ずかしいような気持ちになってきていて。あんなお粗末な絵をお渡しして本当に良かったのかどうか」


「何でよ、すごいクォリティだったよ。もし露店で売っててお金持ってたら間違いなく買い占めるよ。ていうかいい加減絵の具代だけでも受け取ってよ」


 ほら、と封筒を渡そうとすると、ティスはブンブンと首を横に振った。


「あんな素人絵に代金なんていただけません!!」


 元サカシータ騎士団長と伝説の工作員深緑の猟犬の一戦を絵にしてくれたのはティスだ。素晴らしい出来だったし、事あるごとに絵の具代を渡そうとしているのだが、今日も受け取ってもらえなかった。



「モリヤさん、まだ忙しいかなあ」

「そうですね、モリヤさんはいつもお忙しいですから。門で見送ってもらったと思ったらその直後領の境界あたりで戦っているのを見たりもして、実は二、三人いるんじゃないかってよく噂しています」

「ふふっ、モリヤさんが何人もいたら心強いね」

「そうですよね」



 国境の領を護る、並外れた実力の元騎士団長モリヤ。


 まあまあの高齢でもあり、騎士団長の座は退いたものの、今も関所町シータイの守衛としてその剣を振るっている。





つづく

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