マジで不安になんだけど
お待たせいたしました。どうぞご査収をば!
ミリューと朱雀が町長屋敷の庭に降り立つと、待ち構えていた人々がわっと歓声を上げた。
「ゴーシ兄さま、ガット……っ、うわああああああん!!」
「イリヤ」
どん、突進してきたイリヤが思い切りゴーシに衝突した。
「ガットてめえ、起きたらいねえんで、滅茶苦茶焦っただろうが!!」
「おじさん! ごめんなさいありがとう!」
ガットはエビーに『みんなに謝ってお礼言っとけ』と言われたのを忠実に守った。しかしガットと一緒に寝ていた怪我人のおじさんはワナワナとし始めた。
「なーにがありがとうだ馬鹿野郎ッ、バット達に顔向けできなくなるとこだったろうがボケェ!!」
ぐりぐりぐり。
「なんでえ、あやまっておれい、いったのにーっ」
ガットは怪我人のおじさんに両拳で頭を挟まれて悲鳴を上げた。
すごい、リアルでアレをやられている幼児初めて見たな……。某アニメでしか見たことないやつだ。
「ごめんなイリヤ、おれ、なにも考えずに出てっちまって」
ふるふる、イリヤはゴーシに抱きついたまま首を横に振った。
「ゴーシ兄さまはわるくないもん……!」
「そうですよお、悪いのはこの糞ガキでさあ。ゴーシ様が気づいて追ってくださんなきゃどうなってたか! 分かってんのかこの糞ガキ!!」
ぐりぐりぐり。
「おじさんいーたーいー!!」
「うるせえ、領主様のお孫様にご迷惑かけやがって! 次はベッドに縄でくくりつけちまうからなあ!」
あ、また一緒に寝てあげるつもりなんだ。
もう事のあらましは屋敷にまで伝わっているようで、脱走したガットを追ってゴーシも飛び出してしまったことは皆が知っていた。
「僕のともだちを守ってくれて、ありがとう兄さま」
「ガットはもう、おれにとってもともだちだからな」
よしよし。
「母さま、ミリューとスザクにもおれいを言いたいです!」
「ええ、もちろんいいわよ。あなたもちゃんと留守番ができて偉かったわ」
イリヤはミリナとともに魔獣二匹に挨拶しに行った。
解放されたゴーシの元にはマージとメイド長がやってきて一礼する。
「ゴーシ様、お帰りなさいませ。我が町の子がご迷惑をおかけいたしました」
「い、いや、迷惑とかじゃ……」
「あなた様が気づいてくださらなければ、この子は知らずのうちに拐われていたかもしれませんわ。深く、深くお礼申し上げます」
「そんな、でも、ぎゃくにオオゴトにしちゃったっていうか……」
「来たばかりの町の者にお心を砕いてくださったんです、なんとご立派なことでしょう。御身がご無事で本当にようございました。今、温かい朝食を用意させておりますからね」
「はい、ありがとうございます……」
マージやメイド長に謝罪やら賛辞やらを並べたてられ、ゴーシはちょっと恥ずかしそうにうなずいた。
「どうしよ、だれもしかってくれねーの、マジで不安になんだけど……」
「ぶは、何うちの姐さんみたいなこと言ってんすかゴーシ様」
哲学みたいなことを言い出した九歳にエビーが吹き出す。
「ゴーシ様は、あなた様の『正義』に従って行動なさったのでしょう。その時、幼児殿を追いかけられたのはあなた様だけでございました。そんな立派なあなた様をお叱りになれるのは、ご母堂様を始め、お身内の方々だけでございますよ」
タイタにもそう言われ、そっか、とゴーシはうなずいた。
「ララ様はもちろんすけど、女帝閣下にも叱られんじゃねーすか。おお怖ぁ」
「リアおばあさまかあ、それはやばそう。へへ」
ゴーシはそう言いつつもどこか嬉しそうにはにかむ。
おばあさまが叱ってくれる、つまりおばあさまは当然自分を心配してくれていると期待したのだろう。実際めちゃくちゃ心配していると思う。ひと段落ついたら怒鳴り込んできそうだ。
「ミカ様。危険にさらすことになりまして、本当に、本当に申し訳ありませんでした!!」
ララは方々に謝罪祭りを開催していた。
「あ、いえいえ。元ザハリ様ファンのつよーいお姉さん達が守ってくれましたから。というか、こっちにはザコルも魔獣もいるのによく手を出してきましたよね。捨て身っていうか、もうあとがないのかな」
お掃除も佳境かエピローグくらいといったところだろう。
「れっ、冷静すぎる……!」
「まあ、もっと危ない状況だったらマージお姉様が行かせなかったと思いますし」
あら、とマージが小首をかしげる。
「わたくしを信用なさっておいでですけれど、わたくしはミカの実力と判断力があれば余程のことは起きないと踏んでいるだけですわ。もしあなたがわたくしの部下だったなら裁量を任せて好きに手柄を立てさせましたのに。惜しいわねえ……」
「またまたー」
あははー。
「今は囮作戦中ですからね、本物が出てったら台無しですから出ませんよ。出ちゃったけど」
「おかげ様で残りかすまで綺麗に掃除ができたことでしょう。ささ、皆様。温かいお部屋に参りましょうね」
マージが心配していたのは私が有象無象の曲者にたかられることではなく、本気の危険人物、つまりはザハリと接触するかどうかだった。そうならなかったことに安堵しているのだろう。彼女は上機嫌で私達を屋敷の中へといざなった。
つづく




