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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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おれの! せいです!!

「ララ」


 ちょいちょい。


 背後からも名を呼ばれ、肩をつつかれて振り返ったララが「ひょっ」と言って跳び上がる。


「ザザ、ザコル様!!」

「驚かせてすみません。続きは町長屋敷に移動してから行いませんか」

「ここここここんなとこで騒ぎ起こしてすみませんすみませんすみません!!」


 ぺこぺこぺこぺこぺこ。


「ララのせいではないかと……」

「おれの! せいです!!」


 ぴょんぴょんと手を挙げて存在を主張する幼児がいる。


「はい。元はといえば君のせいですねガット。自覚があるのはいいことです。後でご両親に叱られてください。では、ゴーシ」

「はっ、はい。おれもわるいです!」


 ゴーシは弾かれたように姿勢を正した。


「いえ。よくガットを守ってくれましたね。君は後でガットのご両親や町長から感謝されると思います」


 うん、うん。後方で駆けつけた町民達がうなずいている。


「ザコルおじさま、でも……」

「手遅れにならなくてよかった。ただ今度からは、何かあったら距離に関係なく叫んでください。僕の耳なら拾える可能性が高いので」

「はい、わかりました」

「よろしい」


 わしゃ、ザコルは軽くゴーシの頭をなでる。


「……そこにいるザハリの元ファン達ですが。最近起きた戦のさなかでは身体を張って、ミカを矢の雨から守り抜きました」


 ゴーシはザコルの顔を見上げた。


「かつて、僕にこの領を出るように頼んできた者もいます。思えば、そう願ったのはザハリ個人のためでもあり、ララと引き離さないためでもあったんですね」


 約十年前。末の双子のどちらかを王都へ出稼ぎに遣ろうと、サカシータの上層部が検討していた頃の話だ。当時は、双子のどちらかならザハリの方を行かせるべきだと、そう推す声の方が優勢だったらしい。


 ザハリはファンを多く抱えるいわばアイドル的な存在で、社会性やコミュ力という点では兄弟のなかでも抜群に優れてはいたが、サカシータ子爵家の子息としては鍛錬も勉強も真面目にしていた方ではなく、ある意味で世間知らずだった。そんな実情を知るザハリのファンの一部は彼を心配し、推しの代わりに王都に行ってくれと、勇気を振り絞ってザコルに懇願したのだ。


 ザコルもザハリの実情を知っていたし、ザハリファンを始めとした若手の民達に疎まれていたのも理解していた。ザコルは自分がいなくなればザハリや民のためにもなるだろうと、王都行きを決意した。


 今まで、ララやルルからその話題が出たことはない。だが、ララは自分が要因の一端であることを自覚していたのかもしれない。彼女はいつかの時と同じように、所在なさげに自分の腕を抱いてうつむいていた。


「王都に行ったのが僕でよかったという考えは、昔も今も変わりません。君達が苦労したことは心苦しいですが、僕は君が生まれてくれたことや、こうして出会えたことを嬉しく思っています。よく生き抜いてくれましたね。君も、ララも」


 ぐ、ゴーシは複雑な顔で唇を引き結ぶ。


「……あいつらを、ゆるせって、ことですか」

「いいえ。僕が個人的に彼女達に感謝していると、そう言いたかっただけです」


 ぐずっ、ふぐっ、元ザハリファンは涙目を通り越して号泣し始めた。この気温では顔が凍らないかが心配だ。


「ゴーシ、君は被害者で子供なのですし、大人に遠慮や忖度をする必要などありません。謝られたからといって許す必要などないと、ミカも言っていたでしょう。いい機会ですから言いたいことは全てぶつけてしまえばいい。マージには僕から話しておきますから、場所を移して続きをしてください。君達もそれでいいですか」


「はっ、はい!」


 元ザハリファン達は顔をぬぐって姿勢を正した。


「さあさあ移動だ移動! お日様が昇っちまう。朝飯食いっぱぐれんぞー」


 町民のおじさん達が場を仕切り始める。


「はいはい護衛対象はミリューちゃん達に乗せてもらってくださいよお。ガット、お前もだぞ」

「はい。エビー、さんっ」


 ぴし。きをつけ、の姿勢で返事したガットにエビーが「ふはっ」と吹き出す。


「生意気ボーズが急にしおらしくなっちまったなあ。ゴーシ様にもみんなにも、ちゃんと謝ってお礼言っとけよお」

「うん! ねえゴシにい、ゴシにい!」


 ガットは早速今回の功労者の袖を引いた。


「……ん、ああ。ごめんなガット、きゅうにどなって。こわくなかったか?」

「ゴシにい、おれのこと、まもってくれて、ありがと、ございました!!」


 がば、ガットは勢いよく頭を下げた。


「ガット……」

「つぎ、ゴシにいがケンカするときは、おれ、ぜったいミカタになるから! だから、なくなよゴシにい!」

「は!? なっ、泣いてねーしっ! ……ふっ、あははっ。でもミカタしてくれんのはうれしーわ。よろしくな、ガット」

「うん!!」


 寝そべっていたミリューがそろそろ、と立ち上がる。朱雀はゴーシを乗せてやりたいのか、キョエキョエ言いながらゴーシの頭をつつきにきた。


 町長屋敷に向かおうと、人々の気が逸れた瞬間。


 ヒュッ、という小さな音が鳴り、私は反射で短刀を抜いて構えた。

 カンッ、どこかから飛んできたそれは、私に届くことなく、誰かがはたき落とした。


 私の前にはザコル、エビー、タイタがいる。どこにいたのかサゴシ、ペータ、メリーも飛び出してきた。

 ちなみに、その何かをはたき落としたのは、護衛達の向こうにいた元ザハリファンの誰かだった。


「私達で引き受けます!!」


 元ファンのリーダー格がこちらを振り返らずに叫ぶ。


「おう任せたぞ。女帝と『リンゴ箱』もじきに来る」


 町民のおじさんは軽く言い、私を含む護衛対象を手際よく誘導して魔獣に乗せさせた。




つづく

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