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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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分かってんでしょうね

「ゴーシ、あんた分かってんでしょうね」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 ララからただならぬ怒気が発せられる。


「ひえ」


 怯えたのはゴーシよりもゴーシを魔獣から取り戻そうとゴーシの服を掴んでいたガットである。


「ララもたくましくなったわよねえ……」

「あの子戦闘はまるで素人なくせに圧がすごいのよね圧が」


 旧知らしい元ザハリファン達はなんだか感心している。


「スザク、ゴーシさんを降ろしなさいったら!」


 キョエッ。


 言い募るミリナに、獲物を渡すまいとする朱雀。朱雀が首を動かすたびにぶらんぶらんと揺れながら何と説明したもんかと無言のゴーシ。カオスである。


「あー、やっと見つかりましたね! ふー、焦ったなあー」


 私は、とりあえず見つかってよかったよね感を出しながら明るく切り込むことにした。


「わあああんミカさまゴーシをたすけてええ」


 ガットが早速私にすがってきた。助けてとは、魔獣からだろうか、それともララからだろうか。


「ガットくん、助ける前に確認なんだけどね。君が屋敷から脱走したのに気づいたゴーシくんが追いかけてきてくれた、ってことでいいかな?」

「ちょっ」


 否定しようとしたゴーシをよそに、涙目のガットは素直にこくんとうなずいた。

 ララも「そうなの?」と朱雀のくちばしに吊られたままのゴーシに確認する。ゴーシは気まずげに目をそらしたのち、やっと口を開いた。


「…… ガットだけじゃなくて、フツーにおれもわるいんだけど。あさ、たまたま、べんじょ行ったついでに剣のすぶりでもしよっかなーってきがえてたら、まどからコイツが一人で走ってくのが見えて、ヤベッ、て思ってつい……」


 つい、慌てて窓から飛び出したらしい。


「そう。それは分かったけれど、どうして二人してこんな所にいるのよ。正直ここがシータイのどこなのか私にはよく分からないけど、お屋敷からはそこそこ離れた所ってことくらいは判るわよ!? かーちゃんはね、起きたらあんたがいなくって本当に、本当に、死ぬほど心配したんだから……!!」


「いやっ、それはほんとーにごめん!! でもちがうんだかーちゃん、すぐもどるつもりだったんだよ! けど、つかまえようとしたらメチャクチャあばれるし、でも、おれがホンキで力出すとガットがイタイって言うかもしれないし、もどって助けなんかよんでたらコイツどっか行っちゃうし、おおごえ出したらガットがあぶねーかもしれないし……」


 ゴニョゴニョ、しゅん。ゴーシが情けない顔でうつむく。


 要するに。ガットを捕まえようとしたら暴れて上手くいかず、かといってゴーシの膂力で無理矢理押さえつけようとすれば力加減を間違えてガットに怪我をさせるかもと躊躇し、助けを呼ぼうにも追いついた時点で屋敷に声が届く距離を超えており、さらには大声を出して敵の目に止まるのもまずいと考えたらしい。


「色々考えてて偉いわゴーシちゃん……!!」


 輪の外で小さく拍手している元ザハリファン。ゴーシは彼女達のことだけ眼中に入れていない。


 ララは少し冷静になったようで怒気を引っ込めた。とりあえずこの場で叱りつけるのはやめたらしい。


「うーん、曲者に遭わなかったのはよかったけど、ゴーシくんはなんと魔獣に捕まっちゃったね。どうしよっか、ガットくん」

「わああああんたすけてよゴーシたべられちゃうよおおおおお」


 びえーっ。


「あはは、意地悪だったねごめん。朱雀様は人間を食べたりしないから安心して。でも、子供だけで……違うな。君はまだ一人で勝手に外に出ちゃだめだよ。そう、人に助けを求めてるうちはね」


 ひっく……。ガットはしゃくり上げながら、一人ではどうあっても敵いそうにない大きな魔獣を見上げた。


 おーい、と声が聴こえて振り返ると、教会の方から金髪と赤髪のコンビが駆けてきているのが見えた。後ろから数人の町民もついてきている。


「朱雀様。そろそろゴーシくんを離してあげてくださいよ」


 軽く念を込めた魔力を送れば、朱雀はゴーシを下に降ろした。


「はあ、どうしましょう。もうミカ様の言うことしか聞いてくれないわ。世話係失格よ……」

「いやっ、そんなことありませんからね!?」


 落ち込むミリナに焦る。


「朱雀様はそもそもあまり言葉が通じてませんから! 私は魔力に意志を乗せて送ってるんです。魔獣枠だからこそなせる反則技ですから!」

「ミカ様ったら、またご自分を魔獣枠だなんて」


 キョエ!!


 空気も読まず、かくれんぼ勝者! とばかりに胸を張る朱雀に私とミリナは顔を見合わせた。


「まあスザクったら、何を得意そうにしているの? おかしな子ね」

「ふふっ、見つけたから褒めて欲しいんだと思いますよ」


 なでてとばかりにくちばしを差し出される。私とミリナはそれをいーこいーことした。ちょんちょん、ゴーシが私をつついた。


「せーじょさま。スザクってもしかして、おれらがかくれんぼとかしてあそんでたと思ってる?」

「多分ね。ゴーシくんを探していますって一応念を送ってはみたんだけど……。深刻さは伝わらなかったみたい」

「ふはっ、そっか、きらわれたわけじゃねーんだ。よかった。スザクはおじいさまとなかよしだから、おれもなかよくしたかったんだ」


 キョエエエ!!


 はむはむ。朱雀はゴーシの頭をくちばしの先で軽く食んでみせる。


「えっ、なになに」

「わーっダメーッ」


 それを見たガットが青ざめてゴーシの手を引っ張ろうとする。


「ミカさまのウソツキ! やっぱニンゲンたべよーとしてる!!」


 勢いよく睨まれた。そんなガットを止めたのはゴーシだ。


「まてよガット、いたくねーからシンパイすんな。えっと、よくわかんねーけど、いいよって言いたいんじゃねーかな」


 ゴーシが手を出すと、スザクは頭を食むのをやめ、彼の前にくちばしを差し出した。


「へへ、ありがとな、スザク」


 なでなで。魔獣と対等に話すゴーシに、ガットの瞳がキラキラと輝く。


「ゴーシすっげー!! まじゅうとトモダチじゃん!! イリヤさまみたい!!」


 ガットの中では『強そな魔獣はだいたい友達』なイリヤの方がゴーシより順位が上らしい。そこに気づいたゴーシがジト目でガットを見た。


「おまえ……。イリヤのことはイリヤサマってよぶくせに、おれのことはずーっとよびすてだよな。おれはべつにいいけどよ、オトナの前ではなんでもいいからケイショーってヤツつけとけよ。またおこられんぞ?」


 ちょっとムッとしながらもガットの体裁を心配してやれる九歳男児、偉すぎるな……。


 指摘されたガットは「ゴーシ、サマ? ゴーシ……」としばらく考えたのち、ピーンと何かを思いついたようにポンと拳を叩いた。幼児が一丁前に拳叩いてるのかわいすぎるな……。


「おれも、ゴーシにいさま、ってよぶ!」

「イリヤのマネかよ。まあいいけど」

「じゃあ、ゴシにい!!」

「ぶはっ、なんだよゴシ兄って」


 早速省略された『敬称ってヤツ』に、ゴーシは吹き出した。




つづく

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