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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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一緒に心配させてくださいな

 ミリナとララと私は一度部屋に帰って早着替えをし、しっかりコートなどを着込んでもう一度廊下に集合した。


「ゴーシ兄さま、どこいっちゃったの?」


 同じく着替えを済ませたイリヤがミリナの袖を引く。


「今みんなで探しているわ。不安なのは解るけれど、あなたまで一人で飛び出していかないでちょうだいね、イリヤ」

「うん……」

「うちの子がすみません! ミリナ様、イリヤ様……っ」


 何度でも頭を下げようとするララを、ミリナが首を横に振って制する。


「謝らないでちょうだいララさん。この町にはゴーシさんが心揺れるものが多いって、皆も分かっていて連れてきたのですから。ゴーシさんにとってお母様はララさんお一人だけれど、彼はもう私達にとっても大事な大事な子なのよ。どうか、一緒に心配させてくださいな」


 ララは涙をためてこくりと頷く。


 現在、場所は私達にさえ明かされてないが、この町のどこかにゴーシの実父であるザハリが更生のために囚われている。


 それから、かつてザハリを強火で推していて、ゴーシ達にもちょっかいを出していたであろう元ファン達も町民として暮らしている。元ザハリファンはこの町以外にもいるのだろうが、この町にいるメンバーはララも顔を知っているような有名人が含まれるらしい。おそらくだがゴーシとも面識がある。


 ゴーシは父を憎んでいる。また、その父の血と顔を継いだ自分に付きまとう父のファンのことも疎んでいる。

 そんな彼のシータイ行きに許可が出たのは、今は精神的に安定しているとオーレン達が判断したからだ。


 最近は自分の生まれや境遇を振り返らず、イリヤの従兄として模範であろうと前向きに努力する姿が見られていた。そして、今まで恵まれず、子爵家へも遠慮がちだった彼が『イリヤのお気に入りの場所に行ってみたい。林檎をお腹いっぱい食べてみたい』と素直に願望を口にしてくれた。オーレン、イーリア、ザラミーアの三人はそれをことのほか喜び、私達も一緒に行くならとOKを出したのだ。


「あのっ、私も屋敷の外を探しに!」

「ララ、外はまだ薄暗い。それに君は非戦闘員です。特に今は非常事態ですから」

「ザコル様のおっしゃる通りよ。それにあなたに何かあった時、一番気を病むのは他ならぬゴーシさんだわ」


 きゅ、ララが唇を引き結ぶ。私は空気を変えようと手を挙げた。


「案外、その辺で素振りとか、ランニングでもしてるかもしれませんよ。使用人の皆さんが探してくれてますけど、私達もまずは屋敷の中と敷地内を見回ってみませんか」


 ミリナがうなずく。


「ミカ様のおっしゃる通りね。今できることを精一杯しましょう」


 す、と今度はザコルが挙手する。


「今、一つ有効な方法を思いつきました。姉上」

「はい、ザコル様」

「ミリューに協力を要請してもいいでしょうか」

「ミリューにですか? ああ! においで探してもらうのね! 嫌だわ、どうして思いつかなかったのかしら。すぐに頼んでみます!」


 ミリナは三階の廊下の窓に手をかけた。外側が凍りついていて手こずったものの、私が魔法でチョチョイとやったら窓はガバッと開いた。


「ミリュー!!」


 キュルルウ?


 ミリナの呼びかけに、かわいらしい鳴き声が返ってきた。


「ゴーシさんのにおいを覚えているかしら? 一緒に探して欲しいのよ!」


 ミリナが窓から顔を出してミリューに説明している間、階段を駆け上がる音がしてマージが姿を現した。昨日の格好のままだ。おそらく徹夜で例の爆発事件や囮捜査の件に対応していたのだろう。


「ゴーシ様が行方不明と伺い、町の者にも触れを出しました。ララ様、ご安心くださいませ。この町に住む者はほとんどが玄人です。すぐに見つけ出してみせますわ」

「マージ町長様……っ、ありがとうございます!!」


 ちなみに。その町民のほとんどが玄人な関所町にずっといたせいで、若干感覚がおかしくなっている自覚のある私である。


 キュル、キュルルウ!

 ミカ、行く。


「あ、ミリューが私についてこいって言ってます」


 魔獣の言葉が解る私がいた方が、見つけた時に詳しく伝えやすいからだろう。


「マージお姉様。先に謝っておきますが、ザハリ様の居場所とか暴いちゃったらすみません……」

「そんなことは今心配なさらなくていいわ。でも、いいこと。どうか顔を合わせるのはお避けくださいませ。理由もなくやられるあなたでないことは承知しています。それでも、あんな思いはこりごりなのよ」

「はい。その節はご心配おかけしました。大丈夫、余計なことはしません。何かあってもゴーシくんを回収したらすぐに戻ってきます」

「約束ですからね。坊っちゃま。必ずお守り申し上げてくださいませ!」

「もちろんです。僕ももうこりごりですから」


 ザコルが私の肩を強めに抱いた。昨夜は触れてくれなかったが、私から距離を置く気はなさそうでホッとしてしまった。我ながらこんな時に不謹慎だなと自嘲する。


 ミリナと私とザコル、そしてもちろんララも一緒にミリューに乗り込む。夜明け前の空に、バサリと大きな羽音を立てて魔獣が舞い上がった。




つづく

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