この『老人会』!!
「姫様ぁ、正直遊び足りないなーとか思ってません?」
「やだなあサゴちゃん。今日は遊び尽くしたよ?」
「へー、そーですかぁ」
うふふ。うへへ。
三階から一階に移動しつつ、天井裏から降りてきた忍者と笑い合う。
「笑い合うな」
ぶん、と縦抱きにされたまま方向転換。サゴシと無理矢理距離を取らされる。
「猟犬殿は相変わらず心が狭くてかわいいですねー。…………で。次、羽目外しそうになったら処しますからね?」
「それはぜひ、というか切実に頼みます」
「あの……」
キスくらい時と場合を選んでくれれば止めなくても別に、と言おうとしたが、ザコルとサゴシが同時にニコォ、と微笑みかけてきたので黙った。
「ちょっとお、俺がいねえ間になんか面白いことあったっしょ、何で教えてくんねーの?」
当時、外にお遣いに行っていたエビーが不満げに声を上げた。
「タイさん?」
「俺は何も見ていない」
「サゴシ?」
「ノーコメでオネシャス」
「兄貴?」
「のっ、のーこめ? です!」
「姉貴?」
「えっ、えっと」
仕方ない、無難に説明しよう、と思ったところで、入浴小屋が視界に入った。いつの間にか一階の廊下に着いていたのだ。
入浴小屋の入り口にはランプが下げられていて、そう透明度の高くないガラスをはめ込まれた窓からも、竹でできた扉や壁をはっきりと確認することができた。その光景を見たことで昼間の記憶が蘇ってくる。鮮烈に。
タイタが気を利かせて二人きりにしてくれたこと。意図してないのに暗にそうしろとねだったような言い方をしてしまったこと。それを恥じていたら、やけに熱のこもった瞳で抱き寄せられたこと。
かあ、どうしようもなく頬が熱くなる。焦った私は咄嗟に自分の頬を押さえた。
ごく、とエビーが喉を鳴らす。ぶん、またザコルが私を抱えたまま方向転換する。
「ミカには訊くな!」
「はいすいません!!」
エビーは素直にというか反射で謝った。そうさせたのも情けなく、私は「もーっ」と顔を押さえてうなった。
入浴者がいないはずの小屋は明るかった。若い従僕達が数人入って掃除していたからだ。ペータの元同僚達である。
「みんな、仕事増やしちゃって申し訳ないね」
動揺を隠し、何でもない風に声をかけに行く。外の冷気が熱いままの頬をピリリとつねった。
どうせランプの光では顔色なんか判らないと思うが無駄にドキドキする。
「とんでもございません。久しぶりのことに皆浮かれているほどで」
「この木の湯船に湯が張られる日がまたくるなんて……」
ぐす。涙ぐむ若い子達に、こちらも釣られて目頭が熱くなる。
多分、久しぶりの『帰省』で浮かれているのは私も同じだ。魔法過多でもないのに、気持ちのコントロールがつきにくくなっているように思う。
「なあ。なんでこの後に及んであんなピュアッピュアな反応できんの? 犯罪臭がすげーっつうか心臓に悪すぎんだけど」
「言うなってエビっち。進展してるよーでなんッも進展してねーのがあの『老人会』だ。特にアレは完全に救命措置か何かだと割り切ってた。今日まではな」
コソコソ。チャラ男と忍者が小屋の外で勝手なことを言っている。犯罪臭がすごいって何だ。というか私もザコルも完全に割り切っていたわけじゃないぞと言ってやりたい。
「あー、やっと情緒が追い付いてきたんだな……。まあ、さもありなんてヤツか。あの人ら、どっちも『検証』が絡むと情緒とか段階とかすっ飛ばしちまうとこあっからな」
「情緒などは、あえて考えないようになさってきたのでは。でなくては毎晩…………コホン」
毎晩添い寝などできまい、とタイタが言葉を飲み込む。
「考えねーようにしてたのはヘタレニキだけだろ。姐さんはずっと煽ってたよ、単純に何が起こるか気になるとかふざけたこと言ってよお。どーせ中身はピュアッピュアで本気で来られたら心神喪失しちまうくせにうおっ!? 二人して何か投げてくんなこの『老人会』!!」
「ミカが針や投げナイフを投げてほしいと言うので」
「幼児軍団がくれたドングリがあったからさ」
仲良しな私達を見て従僕くん達が笑っている。
シータイの使用人の間では割と色々なことがバレているらしい、とは以前メイド長とベテランメイド達との会話で知ったことだ。
今の会話をハハハとほっこり笑っているところを見るに、若い子の間でも私達が何かしらの行為によって魔力譲渡をしていることは知られているのかもしれない。
……………………。
「いちいち照れないでくれますか。心臓に悪いです」
「いちいち、ってザコルにだけは言われたくないです……」
自分を棚に上げる人を睨む。私の顔を見たザコルは、また「んぐ」とうめいてそっぽを向いた。
つづぬ




